シルヴェスター・スタローンとの出会い
───初めて吹替えで主役をされたのは、どんな作品ですか?
シルヴェスター・スタローンの『パラダイス・アレイ』という作品でした。3兄弟の話で、長男は羽佐間道夫さん、次男が僕、三男のプロレスラー役が初代のタイガーマスクである、佐山聡さんが演じていました。
───最初からスタローンですか!
はい、でも実は僕はスタローンの事をあまり知らなかったんですよ。一番最初に声を当てたのは『刑事コジャック』にゲスト出演をした時で、その後に『デス・レース2000年』という作品に準主役で出演した時にも僕が声を当てたんです。特にデス・レースでは主役を食っていましたから、いずれブレイクする人なんだろうなとは思っていました。今思えば、その時から縁があったんですね。
芝居と役者
───吹替えとアニメの違いは何だと思われますか?
芝居の本質としては何も変わらないですが、やっぱり表現の仕方でしょうね。例え同じアニメでも、オーバーな表現をしなくてはいけない作品もあれば、リアリティを求められる作品もありますから。全ては「ハート」だと思います。
しかしながら吹替えはやればやる程、難しくなっていきますね。
若い頃の作品は、とにかく勢いがありました。だけど、作品を作っていく過程で色々な事を考え始めますし、様々な壁に当たります。そうなると本番が怖くなってしまうので、リラックスする事を心掛けています。そのためには色々試しましたよ。例えば、よし!今日は力抜いて楽に喋っちゃおう!って気持ちでいたり。
───楽に喋ったらどうでしたか?
ダメ(笑)。全然ダメ。楽しすぎて喋れなかった(笑)だから、ある程度の緊張と集中。そこから、また何かが見えてくるんだと思います。テストじゃない、本番でしか味わえない大事なものを感じますよ。余計な事を考えず、集中する事が大切だと思います。
───同期の方はどんな方がいらっしゃいますか?
銀河(銀河万丈氏)とか、1つ上だけどわかもっちゃん(若本規夫氏)ですね。
───お世話になった先輩はどんな方々ですか?
すごく慕って、兄貴と呼んでいるのは六さん(納谷六朗氏)。あの人柄と、役への執念と言いますか、仕事ぶりというのは本当に尊敬しています。そして、内海賢二さん。印象的な言葉で、「自分のマイクを持てる様になれ」とおっしゃって下さいました。マイクが4本くらいのスタジオで収録になると、主役用のマイクができますよね。要は、主役になれる様に努力をしなさいという事を伝えて下さったんだと思います。
───那智さんからは…?
一緒に生活していましたからねぇ(笑)たまに仕事で一緒になったんですけど、心配して、アガっちゃって那智さんがトチるんですよ。共演者やディレクターに「何か今日はめずらしくトチるなぁ」なんて言われていたんです。
───え?原因は…?
僕なんですよ(笑)(一同笑い)
僕の事を本当に心配してくれて。
未来劇場の人達とラジオをやった時もやたらトチっていて、回りから「那智おかしいよ」って言われてました。その時にもスタジオ内にやっぱり僕がいたんです(笑)あの人は僕が外部の舞台に出演してもたいてい来ないんですよ。だけど、実はどこかの柱の陰から見てそっと帰っていく・・・。そんな所があるんです。
───そんなお優しい那智さんからいただいたものは沢山あると思いますが、一番心に残っているものは何ですか?
言葉の大切さ、言葉を前に出すという事です。具体的にこんな事、というのではないのですが、薔薇座で過ごした時間で感じた事です。それは、舞台上でも、声の仕事でもそうですよね。事実、あの人はアラン・ドロンをやろうとジュリアーノ・ジェンマをやろうと言葉が前に出ていましたから。
───当時、目標にしていた役者さんは、やはり那智さんだったのですか?
あまり考えた事は無かったですが、若山弦蔵さんや矢島正明さん、勿論、野沢那智さんも含めてこの世界に入った訳ですから、那智さんを抜きにして語る事はできないですね。
作品では矢島さんと那智さんが組んでいた『ナポレオン・ソロ』は本当に絶妙なコンビで大好きでした。役を演じていると、その人の人柄やセンスが滲み出ますから、そこから色々なものを感じながら盗んでいた時代でしたね。