『アリス イン ワンダーランド』との出会い
───『不思議の国のアリス』というお話はもともとご存知だったと思いますが、今回の作品を初めてご覧になったときの印象はいかがでしたか。
安藤 この作品はすごく映像がきれいで、花の中に顔があったりするのもアニメーション(ディズニー)のままだったので見ていても楽しめました。
平田 ジョニー・デップは何度かやらせていただいてますが、最初は『エド・ウッド』でちょっとへんちくりんだと思ったのが、言葉少なく憂いを含んだちょっと色っぽい役をやるようになって素敵だなと思ってたんですよ。それが『パイレーツ』あたりから「あれ?」と思って、『アリス〜』ではもう何がなんだか分からなくなって(笑)。彼は『アリス〜』に明らかに何かを持ち込んでますからね。だから、どうすればいいんだろうと困りましたね。
───安藤さんはジョニー・デップとのからみで印象に残っていることはありますか?
安藤 セリフを何度もリテイクしたけれども好きだったのは「あなたは完全におかしい、でも…いいこと教えてあげる。偉大な人はみんなそうよ」というシーンですね。アリス自身が父親に言われていた言葉を帽子屋に投げかけるんです。帽子屋とアリスって不思議な関係だったじゃないですか。恋人でもないし兄妹でもない、でも何かが絶対そこには流れていて。最後のシーンも私にはとても不思議でしたね。帽子屋が「君は戻ってこないんだね」と言うんですが、「結局どこに行くんだろう、帽子屋は」って。いろんな捉え方があっていいんでしょうけど、アリスにとって何かを共有できる人だったんだろうな、と思いましたね。
───平田さんは何本もジョニー・デップを演じてらっしゃいますが、今回のキャラクターづくりには苦労されました?
平田 見た目の異質なもの、突拍子もないものというのはそのままやればそんなに苦ではないんですが、「なんでそういうことをするんだろう」ということを自分の中に落とし込んでやらないと、作品を一本通してできないですからね。そうすると「ジョニー・デップという人は何をしたかったんだろう」というのを常にその作品で探します。作品によってはヒントがあるときもあるんですが、今回はとにかくキャラクターのインパクトに押されまして、キャラクターづくりというのはディレクターにおまかせした部分がありますね。
───ジョニー・デップを演じる際に何か特別なものはありますか。
平田 ジョニー・デップだから、というのは特にありませんが、長くやってるシリーズ物のような感覚はありますね。初めての役者さんじゃないので、「どうでるかな、こうきたか」というのは、裏切られることも含めてある程度想像がつくところがあるので、追いつめられることはないです。『アリス〜』を除いては(笑)。『アリス〜』はとっても怖かったです、やりたい放題という感じで。「ちょっと俺にも相談してよ」って思いますね(笑)。
───平田さんは他にもいろいろな役者さんを吹替えていらっしゃいますが、やりやすい役者さん、好きな役者さんというのは。
平田 セリフの少ない役者さんが好きですね(笑)。この人はこうやりたいんだというのが伝わってくる役者さん──マット・デイモンにしてもジョシュ・ハートネットにしても明らかにこちらに伝わってきますから。そうすると「だったら俺はこうやりたい」という自分の意思が乗せられる。吹替えはいろいろな芝居のなかでも特に制約が多い演技だと思うんです、まず画にあってなきゃいけないですし。それでもやっぱり「俺はこうやりたい」というものがないとただの通訳になってしまうと思うので、僕も一緒になって訴えかけたいと思いますね。マット・デイモンでいえばボーンシリーズなんてスパイでセリフが少なくて大好きでしたね。彼の演技だけじゃなくて脚本やカメラも含めてなんでしょうけど、何をしたいかっていう意思と緊迫感が伝わってくるので、そこに自分を投影しやすいんですね。シチュエーションが自分の頭の中で理解できるんです。ストレートにメッセージが伝わってくるほうがやってて楽しいですね。