良い吹替え版を作りたい!
───吹替えは日本語の文化を担っている部分があると思いますが、好きな日本語や、好きな本はありますか?
「ありがとう」ですね。
それと、言葉の中にはわかっていても上手く説明できないものってあるじゃないですか。その時に、いつも持ち歩いている電子辞書で調べるのが好きなんです。私が持っていた知識とは違った解釈が出てきたりすると新たな発見ができるって楽しいんです。共演者には「また調べてる!」って言われますけどね。(笑)
本は、元々シェイクスピアが好きなので翻訳ものをよく読んでいて外国の文化って素敵だなって思っていたんです。でもある時、劇団で夏目漱石や太宰治の作品を演じたんですね。
すると、翻訳ものよりもずっと心に沁みたんです。特別違うことをやっているわけではないのですけれど、言葉がダイレクトに入ってきたんです。それはやっぱり、作者と同じ国に生まれて、同じ言葉で表現されているからだと思うんです。
昔の言葉遣いはとても綺麗なので大好きで、最近は昔の作品をよく読んでいます。特に今は三島由紀夫さんの本を読んでいます。昔の作品なのに「かね」のことを「ねか」と言っていたりするのが興味深いです。現在の芸能界用語みたいですよね(笑)
───舞台の経験が吹替えに生きていると感じたことはありますか?
劇団と声優の現場を行き来していた時は、「表現のスイッチ」の切り替えが上手くできなくて悩んだことがありました。
でもその切り替えの中で、家作りと一緒で土台をしっかり固めてそこに柱を立てて肉付けしていけば、堅牢で何にでも応用が利くお芝居ができるという基礎を学ばせていただいたと思います。結局、舞台の上で会話するのと、マイクの前で会話するのは同じことだと思うんです。これは専門学校だけでは学べなかったことで、私にとっては大変貴重な経験でした。
───デビューして11年目を迎える甲斐田さんの将来の夢を聞かせてください。
良い吹替え版を作ることです。常にそこに向かって悩んでいます。
でも、まだ何が良い吹替えなのかもハッキリとはわかっていないんです。私が観る側だった時代は“吹替え”が当たり前で違和感なく受け入れられていました。今、みなさんが観て自然に心に残る吹替え版をお届けするために、私達がしっかりとした日本語を喋って芝居をする必要があると思います。
───今、声優を目指す人が沢山いらっしゃいますが、その方達に何かメッセージをいただけますか?
お芝居の勉強をしようよって思います。少し前に、私が卒業した専門学校からお招きいただいて講義をしたことがあったんです。その時に、「声優にはなりたいけれど、役者になりたい訳ではないんです」と言われて驚きました。声優=役者なので、私の頭の中はハテナがいっぱいになりました(笑)
今、声優を目指すほとんどの人達がアニメを主眼に置いていると思います。
勿論、アニメーションも日本で成長した素晴らしい文化です。でも、とても大変ではあるけれど、吹替えもできた方が良いと私は思います。お芝居の勉強を一緒にしましょう!
───本日はお忙しい中、ありがとうございました。
ありがとうございました。