昔の吹替えに学ぶこと
───吹替えの難しさや心掛けている事はありますか?
常に思うのは、「観ている方にどれだけ楽しんでいただけるか」です。
私も小さい時から『大草原の小さな家』や『フルハウス』などの吹替え作品を沢山観ていて、日本語の上手い外人さんだ、とずっと思っていました。あの頃の作品はセリフがしっかりと“生きて”いたので何も考えなくても、ただ眺めているだけでも内容がしっかり入ってくるんです。勿論、当時の作品と現在の作品では内容が変わっているということもあると思います。スピード感とか、難しい内容をより細かい心理描写で描いていたり、本国で制作している映画自体が違っていたりもしますし、時代の流れもあったりします。
でも、私はやはり昔の吹替えが好きなので、何とか昔の吹替えみたいにできないかと思って、収録後のお酒の席で色々な方と話してみているんです。
最近おもしろかったのは、加瀬さん(加瀬康之氏)と話をしていたら、「俺らは俺らなんだから良いじゃないか。時代もあるし、別物と考えれば良いんじゃないかな」っておっしゃっていたのをうかがって、なるほど、無理にあの頃に戻ろうとしなくても良いのかなとも思いました。
でも、映像だけではなく、スタジオに流れる空気から感じてもらえるものも絶対あるはずだから、あの頃の吹替えを伝えていける人になりたいと思うんです。先輩方の真似だけをしてもいつまでたっても真似でしかないので、私なりのやり方で、今らしさ、私らしさを出していけたらなと思っています。
心掛けていることは、画面の中の役者さんが考える役のことと、私が考える役のことを擦り合わせ、さらに実際にスタジオの隣でしゃべっている役者の方との三角関係が成立するように画面に向かっています。その中で私らしさ、というか私の存在感も出せていけたらと思っています。
そして何より、セリフはこの肉体から出ているので、肉体を鍛えること、そしてノドが痛くなりそうなときは早めの処置を心掛けています。
好きな吹替え作品・目指す声優
───好きな吹替え作品を教えてください。
『フルハウス』は私の中の金字塔です。豪華なキャスティングですし、家族愛や喧嘩のしかたとか、色々な道徳的なことを多く学びました。そういった内容を芳忠さん(大塚芳忠氏)や賢雄さん(堀内賢雄氏)の声で聞くと、スッと納得できましたし(笑)
あと、若山弦蔵さんがショーン・コネリーを吹替えていた『ザ・ロック』。
キャスティングだけではなく、翻訳によってもおもしろさが違っていて、それぞれの作品を観てみるとおもしろいです。
日本人が見るのだから日本人にわかりやすい様にデフォルメも加えながら、本国のギャグでわからないものがあったら日本人にもわかるギャグに変えたりと、新しい別の作品としておもしろくできあがっている所も楽しめます。
───声優を始めてからの作品だとどんな作品が好きですか?。
『ER緊急救命室』です。なにせ、マイク3本で何もかも全部いっぺんに録ってしまう(笑) 『ER』で感じるリアルな緊張は、患者と医者の指示を同時に録ることから生まれるんですね。「医者は患者の叫びに負けない指示を出せ」と言われますから。
───『ER』の現場に行けたら吹替え声優としては一人前だと言われてたくらいですものね。演じられたニーラ・ラスゴートラ役にはどんな思い出がありますか?
頭は良いけれど応用力が無い研修医のニーラが突然ERに入って、てんてこ舞いになるのと、私が大変な『ER』の現場に突然放り込まれて、てんてこ舞いになること。
大変な目に遭いながらも、私にもニーラにも優しい先輩がいてくれたお陰でちょっとずつ大人になっていけたこと。全てがシンクロしていて、ニーラと一緒に成長できたんです。ニーラは私にとって忘れられない、大切な役です。
───好きな声優や目指している声優はどなたですか?
沢山いらっしゃいますが、私が目指しているのは高島雅羅さんです。みんなには無理だと言われますけど(笑)
───どんな所がお好きですか?
スタジオの空気を柔らかくしてくださる所。セリフを発した瞬間にスタジオの空気を変えてしまうんです。一緒にお酒を飲んだり、お話をしたりしていて本当に素敵な方だなと思っています。役者として、人柄も全部含めて高島雅羅さんが大好きです。
───出演作である『X-MEN FIRST GENERATION』は、3D映画ですが、
3D映画は御覧になりますか?
何度か見たことがあります。今でも眼鏡を掛けて観るんですよね?
───そうですね。
そもそも私は映画は吹替えを観る方なんです。器用じゃないので、字幕読みながら画を追うのが難しいんです。3Dだと尚更でした。とても綺麗な画なのに字幕と一緒に追いかけるのが大変です。なので、3Dを見る時は吹替えをお勧めします。勿論、2Dでも(笑)