吹替えについて
───アテレコをする上での心構えなど、ありますでしょうか。
若手によく言うんだけど、ハリウッド映画の俳優・女優は、アメリカ全土、何十万人から選びぬかれた百戦錬磨の人で、大変な苦労をしてきたんだ。そういう役者たちと同じだけの芝居ができるようにならなくちゃいけないって。彼らの芝居を越えるくらいの勢いで、元の演技の5倍くらいのものが伝わってこなきゃダメなんだ。だから、役者として必死に修行しないと、アテレコなんてやっちゃいけないんだと思うんだよね。
───これからの声優、ならびに吹替えについて、ひとこといただけますでしょうか。
複雑な問題がいっぱいあるねぇ、本国からの注文もあるし。声似せろとかね。いま声紋機にかけて調べちゃうでしょ。そういうことじゃダメだと思うんですよ。そういう問題じゃないと思う。
我々は日本人に海外のカルチャーを紹介しているわけなんです。その精神は変わらないし、もちろん違和感も与えない。これまでもそうしてきた。それをより良く楽しく日本人に見せるためには、やっぱり日本のディレクターにキャスティングを任せるべきだというのを、日俳連として、俳優から発信して、本国のプロデューサーや監督に伝えたい。決して声が似てるから、それで芝居がいいとは思わないでくれってね。これ、僕が日俳連でやらなきゃいけない最後の仕事だと思ってるんですよ。
やっぱりアテレコは脇役が大事。僕は幸いね、たまたま自分が主役街道を突っ走って来られたんだけれども、それは周りに滝口順平さんや富田耕生さん大塚周夫さん、そういうすばらしい先輩がいっぱいいてくださったからなんですよ。だから僕なんかでもできたんです。1人じゃとてもできません。黒澤明さんの映画を観ればわかります。
近頃の低予算の作品だと昔に比べて若手が多いよね。だから今の若い人は可哀想なんですよ。まわりに同年輩しかいない。ベテランがいないんですよ。それはね、構造上の問題でもあるんです、制作現場の。そこを変えないと。
でもそのベテランたちが次々亡くなってしまう。もうあまり時間がない。
山田太平さん(故ムービーテレビジョン チーフミキサー)がね、何度も手紙を書いてやっとジョージ・ルーカスに会うことができた。そして一週間語り合ってやっとルーカスがわかってくれてね。日本でのキャスティングの時には必ず君に連絡するからって言ってくれた。なのにその後すぐ太平さん亡くなっちゃった。
だから彼がやってきたことを終わらせないで、僕らが引き継いでやんなきゃいけない。今、なんとかしないと。
これは個人ではできないからね、若い人たちも一緒になって日本俳優連合の名前で「もっといい映画を作りたいから」という前向きな姿勢を本国のプロデューサーに伝えれば、きっと変わると思うんだ。そうしないともう次の世代に映画を渡していけない、そこまできているんだってことをわからないと。
相当激しい戦いを再開しなきゃならない。その時に、今の若い臆病な声優たちが付いてくるかどうかが一番の悩みの種。このままでは尻窄みになってしまうから。だから僕は学校を始めた。「戦えよ? 尻尾巻いて逃げるなよ?」って意思を絶やさない事も含めて。それが今の僕がやれる事であり、日俳連がやらないといけない仕事だと思う。
───これからの活動を教えてください。
『スペースコブラ』ってのがね、再開するんですよ。26年ぶりだよ? できるかな、俺?(笑)でも「こういうアニメもある!」っていうのをこの『コブラ』でやってみたいね。
そして来年からまた舞台の演出業を再開します。昔の仲間と共に新しいミュージカル集団を立ち上げるんです。再来年の秋に旗揚げ公演って運びの予定です。
───本日は貴重なお話をありがとうございました。
(追記:このインタビューの後、『COBRA THE ANIMATION ザ・サイコガン』および『COBRA THE ANIMATION タイム・ドライブ』にて26年ぶりのコブラ役での出演が実現しました)
2008年4月9日収録
インタビュアー:水落幸子