「平田流」吹替えの見方
───役者さんは吹替えを見ることに抵抗感がある方がいるみたいですね。
平田 他の人の作品は大丈夫でも、自分のはだめですね。特に昔にさかのぼればさかのぼるほど下手くそで。あるときずいぶん昔の作品を「これ、素敵な作品なんだよなぁ」って観てみたら、自分のセリフを2〜3行聞いてやめました。「こんな下手かよ」って。
───やり直したいと思う作品があるということですか。
平田 キリがないですね。舞台はある意味残らないですが、吹替えは残りますよね。テレビではよく役者さんが売れない時代に出演したものや何かを引っ張りだされたりしますけど、でもそれは仕方ないですよね、残るものを仕事に選んでしまったんだから。でもそのときにそれをやっておかないと「いま」はないわけですから。それを甘んじて受け入れるしかないんですけども!「それにしてもひどいんじゃないか、おい!」「誰だ?OK出した監督!」なんて人のせいにしたりして(笑)。一番最初にゴールデンのオンエア見たときに……けっこう大きな役をいただいたときなんですが、終わる頃には喉が枯れてました。「違う!タコ!」「バカ!」「CM、CM!」なんて八つ当たりしたりして、終わったときには声がガラガラでした(笑)。これはおススメなんですけどもね、録画しないでオンエアをオンタイムで見るととっても反省材料になる。できる限り時間を作って9時にテレビの前に座ってね(座る仕草)、翌日、朝から仕事があるときは声が枯れちゃうからのど飴なめながら。一生懸命やって、まあまあできたかな、なんとかついていけたかなという思いをことごとく裏切られたのと、「自分はもっとうまいと思ってたのか?」っていうのと…。そこから始まって「OK出しやがったな、監督!」みたいな(笑)。勉強のために観たほうがいいんだけど、本当に健康なときじゃなきゃダメですね。ちょっと落ち込んでる日なんかに観ると、「もうやめよっかな…」ってなるときもあるので。
───それは常に不安と背中合わせということですか。
平田 できあがったものに関してはですね。役者としての見方というのはまだまだ青いところはありますけども、向かってる方角としては間違ってないな、というのはこの数年思っています。その中で「それにしても今回のは下手だったな」とかそれぞれの反省はありますけれども、相当へこんでも「たぶん俺、やめないんだろうな」という方角だけがぶれずにいればいいのかな、と。あとは歳をとればとるほど感動もしなくなって傷つきもしなくなるんでしょうけども、それに抵抗したいですね。いつまでも感動していつまでも傷ついて、言われたことに落ち込んだり…ってしていかないと磨いていけないのかな、という気がしますね。だんだん年齢がいってくるとダメ出ししてもらえる機会も少なくなってくるので、自分でそういう環境を作っていくようにしたいですね。
───安藤さんはご自身の「方角」についていかがですか。
安藤 いまはなんでもチャレンジしたいときなので吸収できるものは全部!吸収したいです。『アリス〜』のミア・ワシコウスカさんにもどんどん出てきてもらって当てられたら幸せですね。役者を続けている以上は声の仕事もやっていきたいですね。欲張りに生きていきたいです(笑)。
未来の声優さんへ
───このサイトを見に来る方は声優志望の方も多いと思うのですが、そういう方たちへ一言。
平田 僕は声優が増えるといいと思いますね。もっともっと僕らも競争したほうがいいような気がします。もっともっと中が熱くなったほうがいいと。そうすると居心地は悪くなるかもしれないですけど、全体的にみんな少しお尻に火がついてたほうがレベルアップしていくとは思うんです。一言で「こういうところだからおいで」とか「来るな」とか言えるような世界ではないから、来るものは拒まず去る者は追わず、ですけど。興味を持ってどんどん来ていただいて、層が厚くなることは大歓迎ですね。
安藤 私自身、まだ若手のほうなんですが…面白い世界だと思うので食わず嫌いにならないでチャレンジする価値があるんじゃないかと思います。「舞台だけ」とか「テレビだけ」じゃなくて。すごく面白い世界ですよっていうことだけですね。
平田 僕は吹替えは職人技だと思ってるんですよね。向こうの役者より前に出てしまわない方がいい。そういう意味ではすごく地味な作業ではありますけれども、5年10年で覚えきるような、できるようなものは、吹替えの声優に関してはないと思いますね。で、それをつかんだところでたいした脚光も浴びないという…(笑)。そのかわり、はまると面白いですよね、きついですけども。その面白さを自分で見いだせたらはまっていくだろうし、そういう人たちが個性的な声優さんとして増えたらとってもいいでしょうね。
安藤 一度にいろいろな役者さんに会えるのが素敵ですね、若手からしてみると。一斉に録るじゃないですか、そこで先輩の役者さんたちのお芝居を生(なま)で見られるというのがすごいラッキーだなと思います。
平田 ああいいですね。それは確かにそうですね。
安藤 いろいろな劇団や事務所の方もいらっしゃって「せーの、ドン」でやるじゃないですか。それがすごい魅力だと思いますね。練習のとき、自分のセリフ以外も自分なりの言い方を考えながら台本を読んでいくんですが、現場で他の方が演じられるのをみて「こんな言い方するの!?」みたいな驚きとかありますからね、自分の中にはないようなお芝居に。
平田 早く歳取りたいと思いますねぇ、ベテランの方が当てたのを聴くと。先日、富田耕生さんが『ER』にゲストでいらしたんですよ。その声を久しぶりに聞いて「ああ、歳くいてぇ」と思いましたね。『ER』はまじめなお芝居なんですけど、どっかほんわかしててこれがまた素敵なんです(笑)。そういうのを見てても「歳くいてぇ」と思いますね。ベテランの方々、みんな素敵ですね。
───平田さんもそこへ向けて。
平田 もう少しがんばりま〜す(笑)。
───本日は楽しいお話をありがとうございました。