好きな作品、好きな声優
───吹替え作品で好きなもの、印象に残っているものはありますか?
安藤 私は『ER』が大好きで家族ぐるみで見ていました。だから平田さんと共演できてすごくうれしかったです(笑)。ほかにも『グレイズ・アナトミー』とか医療ものがすごく面白いですね。字幕でも見るんですがやっぱり吹替えのほうが面白いんじゃないかと思います。医療ものは医学用語が出てくるので、吹替えで音で入ってきた方がイメージがつきやすいと思いますね。
平田 医学用語は大嫌いですねぇ(笑)。10年やったからって言えるようになるもんじゃないですね、いつまでたってもダメです。でも『ER』は衝撃的でしたね、あのスピード感とリアリズムと。誰一人、ドラマ的に泣かないというか──例えばそれぞれの患者や家族がものすごいものを持ち込んでくるけれどもいちいち付き合っていられない。カーターなんかは最初はいちいち傷ついたりしてたんですがそれじゃやっていられない。あとからあとからどんどん押し寄せてくるリアリズムとスピード感に圧倒されました。ドラマ的に泣いてる暇がないというか。すごく社会派ですね。オーディションのときは半ページくらいの患者の所見をバーッとやらされて、絶対受かりたくないと思ったんです、こんなの毎週やってたら舌が何枚あっても足りないと思って(笑)。でも最初の1本目をもらって見たときに「何なんだこれは!なんてドラマだ」とびっくりしました。向こうの人も本当にリアルなお芝居を要求されてますし、カーターに限らずみんなうまいなぁと思いましたね。いま日本のドラマもかなり医療ものが増えていますけど、かなり影響を受けているんでしょうね。
あとは『フレンズ』なんかも好きですね。『フレンズ』も『ER』も吹替えのほうがいいんじゃないのかな。『フレンズ』みたいなコメディに関しては、同じ環境で同じレベルの人たちがそのネタで笑えるということ、そのシチュエーションが伝わってくることがとっても大事だと思うんです。『フレンズ』で共演した水島裕さんは、面白くするために毎週とても苦労されてましたね。僕が受ける場面では僕のセリフは一切変えないですむように自分でギャグを作って、なおかつ口パクに合うようにというのを10年間ずっとなさってました。
───好きな声優さん、目標にしたい声優さんはいらっしゃいますか。
安藤 本田貴子さんですね。声の仕事をし始めてから本田さんのことを知ったんですが、CMでも声だけですぐ分かって、何回かご一緒させていただいたときに「素敵だな」と思って。違和感がないというか、その声がその役者さんの声に聞こえてしまうような魅力があるなぁと思いますね。
平田 たくさんいらっしゃるんですが、千葉繁さんがとっても好きですね。あの方はまた、台本に「ないことないこと」おっしゃるんです(笑)。ふざけてやってるのかと思ったら真剣なんですよね、あんまりスタジオで冗談いったり笑ったりしないんですけど。テストとラステス(最終テスト)、セリフを変えるのはいいんですけど本番でまた違うことを言うんです、本番では笑えないのに。「(吹き出しそうなのをこらえる演技をしながら)テストかラステスのどっちかのやってくれよ!」って思うんですけど。真顔でアドリブを考えてる。ふざけるっていうのは真面目にやるもんだなと思いました。悩んで苦しんで生み出してる。で、出てきたアドリブは「そんなしょうもないことかい!」みたいな感じで(笑)。とってもいいですね、なんだか。人が見てないところで汗かいてるっていう(笑)…尊敬に値しますね。
あとは亡くなっちゃったんですけど小池朝雄さん。僕がもうすぐ劇団にあがるよ、というときに亡くなっちゃったんです。彼のコロンボが吹替えをさせていただくうえでの目標ですね。『刑事コロンボ』を原音で見たことがあるんですよ、ピーター・フォークを。ちっとも似てない(笑)、コロンボに。あのくらいになれたらすごいなぁと。原音で「My wife〜」とか言ってるけど「うちのかみさん」って言ってくれないと困るなぁみたいな。必ずしも忠実だけである必要はないってことですよね。それがコロンボのクオリティを下げたかというと少しも下げてない。そんな小池さんみたいな当て方ができるようになったらいいな、と思いますね。