- 2018.7.3
- インタビュー・キングダム
CS映画専門チャンネル・ムービープラスにて、人気声優にフィーチャーし、その声優が吹替えた映画を特集する人気企画「吹替王国」!
2018年7月から6ヶ月という長期にわたり、吹替映画やイベントが楽しめるスペシャルな内容でお届け!
ムービープラス「6ヶ月連続!吹替王国スペシャル2018」!
その第1弾では、吹替声優界の重鎮、羽佐間道夫さんを特集!
1本目は1992年テレビ朝日にて放送された名作『ミッドナイト・ラン』の吹替追録版を放送!今回は1992年の放送時にカットされた部分の吹替えを当時のキャストで追加収録!吹替映画史に残る名吹替版との呼び声も高いDVD未収録版をノーカットでTV初放送!
2本目は羽佐間さんがピーター・セラーズの吹替えを担当した『名探偵登場【地上波吹替版】』!豪華声優陣共演、DVD未収録の貴重な吹替版です!
3本目は『ランボー【羽佐間道夫 地上波吹替版】』!『ロッキー』に続いてスタローンを羽佐間さんが吹替え!DVD未収録!(各作品の放送日はページ下部にてご確認ください。)
その「6ヶ月連続!吹替王国スペシャル2018」放送に先立ち、羽佐間道夫さんへのインタビューを行いました!どうぞお楽しみください!
——26年振りにメインキャストが揃って収録もされましたがいかがでしたか?
時代が大きく変わって、当時活躍していた声優連中が集まるってことはだんだんと少なくなってきましたからね。
あの時代のテレビは、2時間の枠に合わせるためにシーンをカットしていたことや、テレビでの洋画放送が全盛の時代で、毎日のように洋画の収録があるのに声優は300人くらいしかいなかったからね。そんな中でも収録はたくさんあって、ものすごく忙しかったということを、また集まったことで思い出しましたね。
——26年前にカットされていた足りない部分を収録されましたが、当時と変わらぬ声で収録出来ましたか?
それはもう無理でしょうね(笑)。26年といえば、「おぎゃーっ」て産まれた赤ちゃんが、「ばかやろー、てめえ」なんて言うようになるわけですからね。
でも、皆さんの声を聴いていたら、池田勝さんも富田耕生さんも全然変わっていないですね。この間、若山弦蔵さんにお会いしたけど、彼も全然変わっていなくて「声って意外に変わらないもんだなあ」って思いましたね。
——この作品『ミッドナイト・ラン』の感想は?
池田勝さんが演じていたジャック・ウォルシュ役のロバート・デ・ニーロの吹替えを僕もずいぶんやってるんだよね。でも今回はそれを逆転させたキャスティングっていうか、それが狙いでしたね。
僕はジョナサン・マデューカス役のチャールズ・グローディンが大好きでしてね。なぜ好きかというと、あの目がたまらない。何にもしゃべっていないシーンとか、じーっとそばで見てるだけなんだけど、ラストシーンもそう、何にも言わないけど、全部を目で芝居している。すごい役者だなあっと思いました。『ベートーベン』という犬が主役の映画にも主演していて、それと続編と、『天国から来たチャンピオン』でも吹替えしましたね。
——吹替えする役者や、羽佐間さんを起用するスタッフとの巡り会いは重要ですね?
僕はとても不思議なプロデューサーに巡り会いましてね。TBSの熊谷国雄さんっていうプロデューサーに何でもやらされてね(笑)。振り返ると、マーロン・ブランド、『評決』のポール・ニューマン、『ロッキー』ではスタローン、『名探偵登場』のピーター・セラーズ、『裸の銃を持つ男』ではフランク・ドレビン役のレスリー・ニールセンと、あれもこれもお願いって(笑)。テレビシリーズの『俺がハマーだ!』も。めちゃめちゃにキャスティングされたんですよ(笑)。
どうして俺を選ぶのって訊いたら、「何とかなるからいいだろう、やれよ」って(笑)。『ロッキー』の時には自分も含めて相当苦しんだと思いますね。僕のキャラクターじゃないんですよ(笑)。
だから裏方の皆さんは調整などに非常に苦労したと思いますけど、そんな風にプロデューサーにも恵まれて、自分自身は百戦錬磨になったという気がしますね。俳優って演出家に巡り会って、信頼されてやっていくことが一番!
あんまり色んなことをやるもんだから、280人くらいのハリウッドのスターを演じているんですよ。
演じることを始めてから5、60年になりますが、1年に100本以上はやってたと思うんですね。シリーズも含めると6、7000本以上の作品をやらせてもらい、様々な人たちを演じて、様々なドラマに出られたということは、役者冥利につきるというふうには思ってますけど。
——今回の特集では『ランボー』の放送もあります。
やだねー(笑)。『ロッキー』の後でシルヴェスター・スタローンはこいつにやらせようっていう流れですね(笑)。
——吹替え収録で印象に残っているエピソードはありますか?
外国映画で印象に残るのは、まずフィルム(作品内容)が良いっていう絶対条件があると思いますね。内容がみんなを感動させてるんだと思うんですよ。あくまでも声優は添え物でね、僕らの時代は声優みんなが舞台から出てきた連中ばっかりで、隣同士でお互い噛み合うっていうか、そういう状況で収録してました。今は比較的「そこは明日録りますから」なんていう感じで一人で収録してね。そんな時代じゃなかったの!28分間切れないこともあったんだからね。よーい、ドンって始まったら28分間演じ続けなきゃいけなかった。そういう緊張感の中で育った役者同士で、良いか悪いかは別として、吹替えのアンサンブルがあったような気はしますね。
——羽佐間さんが役を演じる時は、事前に役作りをされるのでしょうか?
変な言い方だけど、降りてくるっていう感じがしますね。“ロッキー”という役もそうでしたが、ある意味で僕らの仕事は、塗り絵師だなあって思うところがあってね。つまり形のあるもの、そこにみんな役者が色を付けていく、塗っていく。だからパレットに入っている色がたくさんないといい芝居が出来ないと思います。非常に単純なことしか出来ない人は、やっぱりそれだけの狭いキャパシティしかないのかな、という風に思いますね。その色って一体何なんだっていうと、やっぱり日常生活の中で音楽を聴き、小説を読み、雑学を知って、何をしている時でも見聞録を広めるということ。この色はあのパレットに、その色はそっちのパレットの中に入れて、それをその時に応じて使っていこうと。
寄席に行って落語を観たりはすごく好きですよ。話芸を観て、話し方によって人はどんな風に感じるかっていうことを考えたりしていますね。
——今回の『ミッドナイト・ラン』の15分程度の追加吹替え収録部分でお好きなシーンはありますか?
飛行機の中で食べたいものを二人で話し合うシーンなんか、好きですね。でもさ、放送当時のものもカットされたことで内容が詰まった感じがあって良かったかもしれないよ(笑)。
——追加収録を拝見させていただきましたが、熱のこもった現場でしたね
どれだけ準備をして、相手役の方とどれだけ打ち合わせをして、収録に臨むのですかっていう質問をよく受けるども、昔はリハーサル日っていうのが収録とは別に1日あったんですよね。
最近のようにDVDを持って帰って家で観ることはなかったですね。当時はフィルムだったから、それに合わせてみんなとディスカッションするっていう場がありました。それで自分がどういう風に組み立てるかを考えて、本番に臨むと。
本番になったらそこから勝負ですね。相手がどう出るか、自分が作り込みすぎると裏切られてしまうこともある。吹替えの場合は、すでに音楽は入ってるし、感情も盛り立ててくれるから、お膳立てということは画がやってくれるんですよね。
この間ね、『Dearダニー 君へのうた』という作品の吹替えをしたんですよ。しばらくぶりにセリフが大切だなあっていう思いがしましたよ。セリフが大切だっていうのは、ヨーロッパ映画にはすごく多かったけど、最近はバイオレンスやSFものが増えてきちゃったでしょ?
セリフを大切に、原語から日本語にするってことでは、翻訳家で額田やえ子さんっていうすごい才能のある人がいて、『刑事コロンボ』の「マイダーリン」って原語を「ウチのカミサンがね」って翻訳した人なの。この『ミッドナイト・ラン』の翻訳も額田さんですよね。
これから日本語がどうなっていくかわからないけど、例えば今だと短絡的な言葉ばっかりが前に進んで、「君のこと好きなんだ」(しばし間)「そう」っていう間が作れていないんだよね。「好きなんだ」(間はなく)「そう」ってなっちゃうんだよね。そういうセリフとセリフの空間の美しさみたいなものが日本語にはあるんですよ。なぜなら母音が強いから。母音の後には必ず一種の間が出来るんだよね。母音を大切にしているととっても聞きやすい役者が生まれるんだけどもね。今はねぇ…。子音を優先しているのかどうかわからないけど、だいぶ文化的に差が出来てきたかな。この日本語はこうしたらなっていうのも、現場の中から生まれる雰囲気があったけど、今はだんだん希薄になってきたんじゃないかなあって気がするんですよね。
——好きなキャラクターかハリウッドの俳優はいらっしゃいますか?
ダニー・ケイですね。『5つの銅貨』って作品が密かに自分では好きなんだけど、誰も言ってくれないですね(笑)。これは映画も良かった。化ける、という点で面白いのはピーター・セラーズ。『(特攻野郎)Aチーム』もなんかそういうような類があるんですよね。ジョージ・ペパードってのは軽い役を演じるようなってからガラッと印象が変わりましたよね。
まあ私たちの役目は、映像にぴったり合って、視聴者の皆さんが抵抗無く作品に入り込めることですよね。小池朝雄さんじゃないけれど、ピーター・フォークが出てきたときに“小池朝雄じゃないとコロンボじゃないよ”というぐらい、マッチしてること。本当にそれが役目ですよね。
——昭和の吹替えを懐かしむ人たちがたくさんいるということについてはどう思われますか?
落語の寄席に行くと今は満員です。やはり家族の人がしゃべってるかのような気持ちで聞きたいんじゃないかって思いますね。田舎芝居でお百姓さんが観に来て、近い距離で浄瑠璃とかを聴いてきた時代とどこか接点であるのかなと、心の温かさを求めているのかなぁという気がします。
テレビっていうのは、ある意味では確かにマスメディアではあるんだけど、削ってしまった部分もあるんじゃないかなと思ってますね。これからは囲炉裏端で、おじいちゃんとおばあちゃんが話を聞かせてくれたものを違った形にして演じるっていう方法もあるかもしれない。
——若い声優さんに、ご自身の経験からお伝えしたいことはありますか?
伝えていきたいんですけどね、みんなに教えられることはあんまりないんですけど、例えば「あ」だけで、喜怒哀楽を全部表現してみてって言うことは出来ますね。「あ」から、驚いた「あ」とかね、それから泣く「あ」っていうのもあるし、そういう喜怒哀楽をたった一文字、一言で表現出来るんですよ。
そうするとね、そういうことにこだわっていくと、きっと愛を語らい、人を想うっていう、姿勢も変わってくることもあるんじゃないか、と思ってます。だからそういうことで共感してもらえる人と一緒に芝居や何かをやっていくべきかなって思ってます。じゃないと本当の伝わり方って言うかみんなに話す言葉も含めて、次の世代につなげられないなって。
(取材者に)ぜひみなさんも、これだなっと思うことをクローズアップしてみて、それを後押しする、そういうジャーナリズムであって欲しいなと思います。
——吹替えならではの魅力について、羽佐間さんはどのようにお考えですか?
特別にあるかどうかわからないけど、吹替えは、字幕だと14文字しか入らないところを表せることが出来るんです。オリジナルにたくさん詰まったニュアンスをやれる、伝えるっていう部分。字幕の5倍、10倍のことを言葉にのせて伝えることが出来るはずだ、という風に思いますね。
——今回ムービープラスさんの企画「6ヶ月連続!吹替王国スペシャル2018」でトップバッターが羽佐間さんですが、そのお気持ちは?
もう古いのは誰かいないかな?あ、ここにいた!みたいな(笑)そういう感じ?(笑)そういう番組の編成なの?
要するにさ、この人を特集すればライブラリーの何本かに出てるだろうっていう(笑)。
そうだなあ、浪川大輔とかさ、堀内賢雄とかそちらの世代をアピールした方がいいんじゃないの(笑)
(もう特集してるんです。浪川大輔さん、堀内賢雄さん、山寺宏一さん、大塚明夫さん、みんなやってるんです。)
そうか。その時のリアクションは良かったの?じゃあ僕の時から視聴率落ちるかもしれないなぁ(笑)。
——もしご自分で放送作品を選ぶとしたら?
絶対観て欲しいのは、さっきも言ったけど、『5つの銅貨』のダニー・ケイ。これはやっぱりすごい作品です。もっと遡った喜劇で、アボットとコステロの作品とかもね。そういうのはノスタルジーかもしれないけど、翻訳が良ければ面白いのが出来ると思いますよ。
——最後に、『ミッドナイト・ラン』を含めた羽佐間さんの吹替え作品を楽しみにしてくださっている視聴者にメッセージをお願いします
昔は本当にTVシリーズの『アンタッチャブル』や『ローハイド』という作品で滝口順平さん、若山弦蔵さん、黒沢良さんといった錚々たるメンバーが吹替えをしている作品がお茶の間で放送されていました。彼らは人に伝える技術を心得てるから本当に面白かった。今はお茶の間(地上波)で洋画や海外ドラマに毎日触れられる環境ではなくなってしまいました。今回放送するのは今から20数年前の作品の追録版ということで、今40~50歳の方がハタチの青春時代にご覧になった作品ということですよね。その方たちが懐かしんでくれると同時に、こういう吹替え作品があったんだ、と次の世代にも伝えていって欲しいなぁというふうに思いますね。
[プロフィール]
羽佐間道夫(はざま みちお)
10月7日生まれ、東京都出身。シルヴェスター・スタローン、ピーター・セラーズ、ポール・ニューマン、ディーン・マーティンの吹替えや、「スーパーテレビ情報最前線」「皇室特集」「every.特集」「ズームイン!!サタデー」「宝刀~日本人の魂と技」などのナレーションでも活躍する声優界の重鎮。無声映画の名作を、声優がその場で吹替えて現代に蘇らせ、さらに映画に合わせた創作音楽も同時に生演奏されるという贅沢なライブイベント「声優口演」の企画総合プロデューサーとしても活動中。
ムービープラス
「6ヶ月連続!吹替王国 スペシャル 2018」
<特集:羽佐間道夫>
※番組の放送は終了しました。
movieplus.jp