- 2015.7.1
- インタビュー・キングダム
CS放送 洋画専門チャンネル ザ・シネマの7月の特集「ガチ・アクション」の目玉は、『アウトロー』(吹替え版)。放送を前に、同作品でトム・クルーズの吹替えを担当した森川智之さんに、お話を伺いました。
───『アウトロー』(2012年制作・クリストファー・マッカリー監督)の、イチ押しポイントを教えてください。
僕たちからすると想像もつかないようなところでミッションをこなしているいつものトム・クルーズとは違って、人間臭さ、土臭さを感じる、等身大のヒーローが現れたな、という感じです。トムとマッカリー監督のこだわりが伝わってきます。とてもリアルな血が通っているアクション、これほどまでに、痛みというか、トムの演技を肌で感じることができるような作品ということでは、この『アウトロー』が群を抜いていると思います。世の中の理不尽なことや、イヤなことを、この映画の主人公であるジャック・リーチャーという新しいヒーローが、スカッと一刀両断してくれる、そんな気持ち良さ、恰好良さをこの『アウトロー』で楽しんでいただけたらと思います。
あ、8月7日公開のトム・クルーズ最新作『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』と同じ、クリストファー・マッカリー監督ですから、『アウトロー』のアクションが新作に活かされている部分もあるのかな、なんて楽しみにしています。
───トム・クルーズの吹替えを演じる上で気をつけている点はありますか?
今回の作品は、展開が早いという映画ではなく、間を見せながら進行する作品という感じを受けたので、“間”で芝居をするということを考えました。
トムは、青春スターから始まり、若者の代表として葛藤を表現してきましたよね。ガラッとそのイメージを変えてきたのが、『コラテラル』(2004年制作・マイケル・マン監督)で、銀髪の悪役を演じきって凄いと感じました。これまで築いてきたイメージを変えるという、彼のチャレンジには熱いものを感じましたね。今回、タイトルが『アウトロー』で法外な正義を行うわけですけど、僕の想像ですが、トムの中でまたひとつ、自分の活躍する、大きな場所を見つけたのかなって思っています。
───ここからは、吹替え全般について質問させていただきます。森川さんのお考えになる、吹替え版の良い所は?
字幕版ならではの良さはもちろんあると思いますが、吹替え版は、字幕版よりも情報量が多く、画面の上で文字を追う必要もなくなるので、映像を細かく観ることができますね。最近はアクション映画でも映像技術ってすごいじゃないですか。字幕の文字を追いかけていると、もしかしたら見逃してしまう部分も、吹替え版だと映像を存分に見ることができるというのが良い点ですね。
───森川さんは字幕派でしょうか? それとも吹替派?
僕は両方を楽しみますね。もともと映画が大好きですし、職業柄ということもあるのかな。でも比べるというか、楽しみとしてですね。字幕で観る時は、「観るぞ!」って身構える感じで、吹替えで観るの時はもう少しラフな感じですね。
最初は字幕で観て、その後に吹替えで観るんですよ。自分が吹替えていないトム・クルーズ作品も観ますよ(笑)。他の声優さんが、どんな風に演じているのかは、やはり気になります。
───声優になられたきっかけは?
最初から声優になりたい!というわけではありませんでした。スポーツが好きで、アメリカン・フットボールをやっていたこともあって、体育の教師になることが夢でした。でも大きなケガをして、その夢を断念せざるを得なくなりました。声が大きかったこともあるのですが、友達に「その“大きな声”とかおしゃべりを活かしてスポーツに携われば」と助言を受けました。どんな職業があるかと探してみたら、野球の実況やスポーツ中継やキャスターといった職業があり、それならスポーツに関われると思って、専門学校の案内やパンフレットを取り寄せて、ここでこういう勉強をすればいいのかと初めて思ったのです。
そのパンフレットから、声優という職業に興味を持つようになりまして、同じ友達からですが、「声優になったら、森川がなりたかった体育の先生になれたり、プロ野球選手にもスポーツ選手にもなれる。声優なら何でもなれるんだよ」と言われて、声優になることを決意しました。
それから、勝田声優学院(「鉄腕アトム」のお茶の水博士役などで知られる、声優の勝田久が主宰する俳優・声優養成所)に入学しました。そこでは、本当に厳しく指導していただきました。マンガやアニメが好きな子が多い中で、僕は体育会系の男で、“声がでかくて、ごっついのがいる”と目立ったのか、勝田久さんのカバン持ちをやることになりました。勝田さんは声の仕事以外にも、各地域で朗読教室を開かれたりしていました。その講演の最後に、「では皆さん、私の弟子の森川が“外郎売(ういろううり)”をやります」と。それで“外郎売”の早口言葉をやらせていただきまして。うまく喋れると、一般の方達が、わーっと盛り上がるんですが、そういったことをしばらくやらせてもらっていました。そこから気付いたら、こうやって声優の仲間にさせていただいているという感じですね。
───トム・クルーズの声を演じることになったきっかけを教えてください。
スタンリー・キューブリック監督の遺作である『アイズ ワイド シャット』(1999年制作)で、2001年にDVDに収録する日本語吹替え版を制作するということで、そのオーディションに合格したのが最初です。その後に面談がありました。普通、逆ですよね(笑)。日本側のスタッフと海外のスタッフがずらっと並んでいましたね。座ったら「君はキューブリックをどう思う」っていうところから始まって。これはやばいぞって思って、もう一度(キューブリック作品を)全部観ました(笑)。
収録は一週間、毎日朝9時から深夜まで続きました。キューブリック監督の右腕として助監督も務めていたレオン・ヴィタリさんが吹替え版のプロデューサーとして、日本の現場にもいらっしゃっていました。キューブリック監督が何十テイクも撮り直す鬼のような監督って言われていましたが、レオンさんも同じだったんですよ。「森川、今、お前はどういう気持ちで言ったんだ」とか、ベッドシーンでは、収録スタジオにソファーベッドを持ち込んで横になってしゃべったり、劇中の仮面舞踏会のようなシーンでは、実際にトム・クルーズがつけていたマスクを持ち込んで、それをつけて収録もしました。リアルに録りたいから、トムが現場で作ったことと同じことをやってくれって言われましたね。
最初は、朝9時から夜中の12時過ぎまでかけて1ロール録ったんですよ(1ロールは約15分~20分)。
2ロール目からは、最初に録ったのとは別のスタジオで収録することになりました。2ロール目を録り始めたら、プロデューサーのレオンさんが「音が違う」と言い出したんですよ。もうザワザワしちゃって(笑)。実際、スタジオが変わると、音響機器の関係で、音が変わったりすることもあるようなんです。
それで(前日収録した)1ロールを、そのスタジオで録り直しました。1回OKになった部分だから、朝からやって夕方には終わるかなと思ったら、また同じように12時過ぎまでかかりました。これは本当に死ぬ気でいかないとダメだなと思いましたね。
この収録は本当に大変でした。自分の中では演技プランを立てることや技術的な部分にも段々慣れてきて、面白さがわかってきた時でしたが、もう一つ上に行って、“吹替えの声優だ”って言えるようになりたいと思っていました。そこでこの役を得て、ゼロから作り上げていったんですね。そこで吹替えの演技に対する見方に開眼したおかげで、トム・クルーズに近づくことができたと思っています。
その甲斐もあって、後日レオンさんからお手紙をいただきまして、吹替えでは日本語が一番良かったと言われて、収録にも使用したトム・クルーズが着用したマスクをいただいたんです!それは今でも我が家のどこかにあるんですよ(笑)。自分ではこれは宝物だと思って、どこかにしまったきり…。
───トム・クルーズの声を演じる際の、役作りについて教えてください。
『アイズ ワイド シャット』のときの経験もあって、それからはトム・クルーズの呼吸を見るようになりました。そこから上手く声の演技がシンクロしていくんですよね。上手くいかない時は呼吸もずれてしまうのですが、新しく発見できたことだと思っています。
───好きな映画を教えてください。
『アウトロー』が好きです(笑)。最新作の『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』もとても楽しみです(笑)。
僕、映画が大好きなんですよね。好きな映画は何度でも観てしまいます。この季節にはこれ、という映画もありますね。ジャンルもこだわらず、アクション系やサスペンス、ハートフル・コメディとか、ギャグとか、例えばアダム・サンドラーのコメディもなんでも観ます。ホラーはあまり観てないかな。
思えば、チャールトン・ヘストンが好きな両親がいて、(チャールトン・ヘストンの吹替えの)納谷悟朗さんの声や、親と一緒に吹替え版の映画をずっと観て聞いていました。実家の近所には、野沢雅子さんや内海賢二さんが住んでいらっしゃいました。小学生の頃に、町で内海さんを見かけて、思い切って声をかけて握手をしてもらったこともあります。上下真っ白の服装で、真っ黒のサングラスをかけた内海さんに声を掛けるのは怖かったですけどね(笑)。気が付くと色々な先輩方が自分の周りにいらっしゃいましたね。
───このサイトは声優志望の方もご覧になっていると思います。そういう方たちへの一言をお願いします。
憧れるもの=なる・なりたいものとは違うかなと思います。役者になりたい、声優になりたいと、努力していくのに、その過程に対して、すごく苦労だとか、自分はとてもつらいなと思うのであれば、僕はあきらめることも考えたほうがいいと思うんですよね。僕は今の仕事も、その過程でもつらいと思ったことは一度もなくて、ずっと楽しいと感じています。天職だと思っています。
それから、本はよく読んだほうがいいと思います。僕は体育会系だったので、運動ばかりやっていて、読書とは疎遠な子供時代を過ごしていましたが、この仕事に就くようになってからは、読解力はとても大切だなと肌で感じました。僕らは毎日文字とお付き合いしているので、離れることはできないですよね。本を読んで、自分の頭で考えて、知識を知恵にしていくことが大切だと思います。
観客や視聴者の方が、映画やテレビを観て感動するには、感動を与える側が、しっかりとそのスキルを持っていないといけないと思いますね。
森川智之 プロフィール
声優、ナレーター、歌手として活躍。『SLAM DUNK』の水戸洋平などアニメ作品でも多数吹替えを務め、映画ではトム・クルーズのFIX声優として専属吹替えを担当している。
2015年、第9回声優アワードで助演男優賞を受賞。
ザ・シネマ 7月「ガチ・アクション特集」
※番組の放送は終了しました。
thecinema.jp