森川智之さんインタビュー

ふきカエルインタビュー森川智之さんCS映画専門チャンネル・ムービープラスで、「もっと吹替えで映画を観たい!」という視聴者の要望に応え、特定の声優をフィーチャーする「吹替王国」第8弾!

今回の第8弾では、洋画の吹替えのほか、アニメやゲームの分野でも活躍している森川智之さんが登場!トム・クルーズを吹替えた「ミッション:インポッシブル」シリーズ3作目の『M:i:III』、ブラッド・ピット主演『ザ・メキシカン』、ユアン・マクレガー出演の『チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密』、コリン・ファレルのサスペンス『リクルート』の計4作品を連続放送。
その放送に先立ち、ふきカエルでは森川智之さんにインタビューを行いました!吹替えの魅力などを語っていただいたインタビューの模様をどうぞお楽しみください。
 

 

——最初に、「吹替王国」のオファーが来たときの心境と、今回のCMナレーション収録のご感想をお願いします
森川智之さん:オファーが来たときは「お、ついにきた」と思いました。というのは、吹替王国のCMを偶然家で観まして、いきなり小山力也さんが熱く語る姿を観て、「おお、こんな企画があるのか。もしかしたら、そのうち(オファーが)来るかもしれない。覚悟しておかないと」と思っていたら来たので・・・。実際に来たときには嬉しさと、「僕の場合はどういう風になっちゃうんだろうな」なんて思いました。あまりにも力也さんのCMがすごかったので「僕はこんなにはじけられないなぁ」とは思っていましたけど(笑)。これまで取り上げられてきた方々には、世代的には近い力也さんや本当にベテランの人たちがいる中で呼んでいただけたのは大変光栄なことで、驚きとともにとても嬉しく思いました。

——収録では『ザ・メキシカン』のブラッド・ピットなど久しぶりに演じる役もあったかと思いますが、いかがでしたか?
この収録に当たる前に、実際に自分が吹替えた『ザ・メキシカン』を観て、「あ、いいんじゃない?」なんて思って(笑)。『ザ・メキシカン』はブラッド・ピットの役どころとしてはちょっと不思議なおバカな感じだったので、軽いノリのタッチといったところで僕がキャスティングされたのかなと思うと楽しかったですね。

——『M:i:III』のCMナレーション収録では、『スパイ大作戦』のテーマ曲を歌われましたが、なかなか無い機会だったのでは?
初めての経験でした。トムが(CMを)観て怒らないことを願います(笑)。

——森川さんはトム・クルーズをはじめ二枚目からお調子者、老人まで広い演技幅をお持ちのイメージですが、演じていて楽しいと思う役はどんなものですか?
良い意味でみんなの期待を裏切りたいと思っています。アニメの『トリコ』では次郎というおじいちゃんのような役や『しろくまカフェ』ではパンダママというお母さんを演じましたからね。皆を驚かせるような役ができるのは声優ならではだと思います。自分が担当している俳優さんはもちろん、吹替えでも新たな役に挑戦したいですし、チャレンジしていければいいなと思っています。
近い話ですと『ゲーム・オブ・スローンズ』のティリオン・ラニスターというピーター・ディンクレイジが演じている役に僕がキャスティングされたときは「これをやるんだ・・・!」と驚きました。でもふつふつとやりがいが沸いてきて、「よしやってやろう、この役を上手く表現できるように頑張るぞ」と思いました。数多くイケメンの俳優さんたちがラインナップされている中でティリオンにキャスティングされたという意味は、キャスティングしてくれた側が僕に遊ばせてくれる場を与えてくれているので、上手く吹替えの面白さを伝える立場、「この人普段は二枚目役をやっているのにこの役を演じるのか。まったく想像つかない」というように期待を裏切るのが良いかなと思っています。二極に分かれると思うんですけど、この人はこういうしゃべりだと通す人もいます。僕はそっちではなくて、色んな役に化けられる方が良いですね。

ふきカエルインタビュー森川智之さん——今回放送される番組では4人の名優が登場しますが、トム・クルーズやユアン・マクレガーなどをどのように演じわけているのでしょうか?
基本的には声色をつくる作業は僕の中ではなくて、台本を読んで作品を観て、その俳優さんがゼロベースからつくった役作りを一緒に辿っていく中で、出た声がその役の声だと思っています。だから、もしかしたら聴き比べれば同じ音色かもしれないけど、実際聴いていると違う人がしゃべっているように思ってくれると良いと思います。声色を作ってしまうと引き出しが足りなくなってしまうし、これは前にも使っただとかパターンが決まってしまうので。

——『ミッション:インポッシブル』のイーサン・ハントはどういう人だと考えて演じられましたか?
最初の『ミッション:インポッシブル』ではテレビ放送版でやらせていただいたのですけど、彼のワンマンな我の強さというかパワフルさというか、チームプレイを重視していなかった青年でした。そんな彼が作品シリーズを重ねるごとにキャリアを積んで、奥さんも見つけて成長していく。根本にあるのは最初の、1作目の『ミッション~』の彼で、だからこそ4作目の『ゴースト・プロトコル』では、我を忘れて突っ走ってしまうイーサンがいるのだと思っています。

——仕事をする上での吹替えとアニメとの違いをお話しいただきたいです
極論を言えば、前者は出来上がったもの、後者はゼロから作っていくものですね。例えばトム・クルーズが芝居をする時に吹替えをする僕の声が演技に影響する、ということはありえないものです。彼らがすでに作ったもの、完成された作品を吹替えていきますよね。字幕やオリジナル音声で観た人が抱いた感動を、日本語に置き換えたときにも同じものを与えられるのか、それをどうすれば声で体現できるのか、というところですね。
アニメーションの場合には、作り上げていく上で様々な過程がありますけど、やはり何も無いところから作っていくので、想像力が求められてきます。あとは、平面的な絵に実生活のリアルさでしゃべっても観ている方との距離が深まってしまうので、説得力を持たせるためにも少しデフォルメしたお芝居をすると上手くのってきます。海外の俳優さんは声を入れなくても眉間に皺を寄せるだけで「この人は腹に何か持ってるな」ということがわかりますけど、アニメだとそれは出来ませんよね。アニメなら例えば振り向くときも「え!?」って大げさにやる方がハマりますよね。そういう風に誇張する作業が、アニメにはとても大切だと思います。

——先ほど小山力也さんの吹替王国のCMを観たとのことでしたが、以前小山さんのインタビューでは良きライバルとして森川さんの名前があげられていました。森川さんにとっての良きライバルとは?
小山力也さんですね(笑)。リッキーです(笑)。
ライバルというか、すごく刺激し合っています。役を取り合うというようなことではなくて、どちらかというと、良いライバルというのは刺激をし合えるというか、世代も近いので、何年か経ってもお互いが吹替えの世界の中心で引っ張っていくような立場の人間でなくちゃいけないと思うんです。このように取材を受けさせていただいたり特集を組んでいただいたりしているわけですしね。吹替えに対する責任感はもちろんありますし、だからこそお互い刺激し合って良いものをつくる、同じ役ではなくて「その役でそこまでやるんだったら俺はこうやるぞ」みたいな関係ですかね。

——森川さんはプライベートでも映画をよくご覧になりますか?
こういう仕事をしていると中々映画館で観ることができないですが、家では観ています。吹替えとオリジナルを半々ぐらいで観ますかね。吹替えを観ていて、字幕版では「あれ、これどういう風に訳されているんだろう」と気になったりしますね。

ふきカエルインタビュー森川智之さん——字幕と吹替えでは訳が違うことがありますが、言葉で伝える上で気をつけていることはありますか?
断片的ではなくて、流れというか、一つの作品はオープニングからエンディングテロップの余韻まで考えて作品を一つの線にしなくてはならないんですね。自分が出ているシーンだけを考えるのではなくて、監督の考えの側に立つ。例えばこの作品の監督はこの作品で何を言いたかったのかと考えたときに自分の与えられた役がそれを表現するためにどういう歯車の一つになっているのかを考えます。
あとは新作を字幕で観ると「うわぁこれ収録大変そうだなぁ」なんて考えちゃいますね(笑)。ロボットに乗って戦って専門用語をいっぱい喋ってずっと声を張り上げているこの人をいったい誰がやるんだろう、とかね(笑)。大変だろうな~って(笑)。

——字幕の楽しさも吹替えの楽しさもあるということですね。
吹替えも2種類あるじゃないですか。例えばリアルに作りこむものとか、作品によっては日本語吹替えならではとして、もっと飛び抜けてもいいと指示されるものもあるんですよ。「この作品は興行的に上手くいかなかったので日本語版だけはドカーンとやってしまってもいいですよ」ってこともありますね。そういう意味では昔の吹替えは、声優任せなことが多かったんですね。今は日米で同時公開とか、外国のテレビシリーズにしても、全世界、全国で同時配信みたいなものもあるのでなかなか難しいです。昔は日本語吹替えならではの表現がありました。なんでこの人は急に関西弁をしゃべるんだとか、何で東北弁をしゃべっているんだとかね(笑)。

——森川さんはかっこいいキャラクターを演じられることが多いと思いますが、これまで演じてこられた中で「これは惚れるな」と思うキャラクターがいましたら教えてください。
うーん・・・あまりにも大勢やってるんでねぇ(笑)。世界のトップスターたちの声をやらせてもらっているので、この人良い芝居してるなという次元ではなく、全然別次元のような方たちばかりなので、しゃべらなくても説得力あるよなってなるんですよ。だからそれに言葉をのっけたときに負けちゃいけないなということは思っています。トム・クルーズとして森川がしゃべってるけど、トム・クルーズのように飛んでる飛行機にしがみついて、森川、お前それを体現してからアフレコ出来るのかって聞かれたら「無理です」ってなりますよね(笑)。トムが水に何分も潜っていられる呼吸法を身につけて撮影をしたという聞いたので、お風呂で洗面器に水を張ってやってみたんですけど、やっぱり無理ですよね(笑)。そういうすごさというかスターの気概といったものに惚れますね。惚れるなと思える方というのはスクリーンから飛び出してもそのまんまの紳士だったりしますよ。僕も親交のある戸田奈津子さんに伺ったのですが、トムから戸田さんのお誕生日のときにものすごい量のお花が届けられたとおっしゃってました。そういうかっこよさがありますよね。

——洋画では洋画ならではの独特の言い回しがあると思うのですが、その表現に戸惑いを感じられた思い出などありましたらお聞かせください。
僕は逆にそれがとてもわくわくしましたね。やたら「クソッ」とか言うじゃないですか。でも実際そんなに言わないじゃないですか。「なんてこった!」とか「おいおいおい」とかもね。でも吹替えにハマっているというか、それがベストだよねと思えるんです。リアルなものをやらなくてはいけないけど吹替え文化としてのそういう面白さがあるのかな。日本での吹替えは今年で60周年を迎えて、それだけの歴史があるということは、今までの先輩たちが培ってきた吹替え文化の魅力がDNAとして、僕たちに受け継がれているのかなと思うので、大切にしていきたいと感じますね。

——素晴らしい先輩方が声優界には数多くいらっしゃいますね?
光栄なことに僕は広川太一郎さんと何度か共演する機会がありまして、ブラッド・ピットとロバート・レッドフォードが共演した『スパイ・ゲーム』でも広川さんはすごかったですね。シリアスな作品なのに台本にダジャレが書いてあって(笑)。それを見たときにもやっぱりすごいなぁと思いましたね。それ以前の作品でも、広川さんはオリジナル版の役者さんが口を閉じているのにしゃべっていましたからね(笑)。僕らは、偉大な先輩方の作品を観て育ってきました。自分が、いざ、この世界に身を置いてみて思うのは、また現場でそんな先輩方と自由にやれたらなぁということですよね。

——森川さんは声優学校出身ですが、アニメと吹替えではどちらを志望していたのでしょうか?
声優学校に通っていたんですけど、周りはほとんどがアニメの声優をやりたい方たちばかりでした。僕は吹替えをやりたかったんですけど、当時の養成所では吹替えの実習ってやってなかったんですよ。アニメの実習はやらせてもらったんですけど、ないまま僕は吹替えの仕事をやったんです。何も知らないで。初めて吹替えをやったのが『キャノンボール3 新しき挑戦者たち』という作品だったんですけど、キャスティングされて、まだ当時僕は二十歳くらいだったので「どうしよう」って練習の仕方もわからなくて。当時から野沢雅子さんと仲良くさせていただていたので、雅子さんの家に台本を持って行って、吹替えを教えてくださいって。そうしたら旦那さんの塚田正昭さんが家のリビングでビデオ再生して「じゃあ森川、台本開いて、はいリハーサル」って左右に雅子さんと塚田さんに挟まれる形になって練習したんですよ。それがすごい記憶に残っています。
雅子さんは僕が小さい頃から主役をされていて、もうギネス級ですよね。すごいなと思います。みんな雅子さんに刺激を受けて、『ドラゴンボール』では主役でもあんなにたくさんの役をやってるんだって。山寺宏一さんも何役やってもどんどん広がっていくじゃないですか。先輩たちからのそういった刺激を受けているんだなといつも思います。

——吹替えの魅力はどこにあると思いますか?
昔の映画とか観るとテンポがゆったりとしていてセリフ量が少なかったりするじゃないですか。今の作品の情報量はすごいですよね。3Dだったり4Dだったり、五感も使ってどうだ!ってなっているじゃないですか。一つのコンテンツに対して吹替えをすることでリアルタイムにより確かで多くの情報が入ってくる。今は映像も凝っているので、字を追っていた時間を映像を観ることに使えるといったことが魅力ではないですかね。

——作品をより深く知ることができると考えますか?
そうですね。字幕だと文字数が決まってしまうじゃないですか。吹替えならば奥でしゃべっている人がいても拾えますしね。字幕のことを悪く言うわけではありませんよ。戸田さんに怒られちゃう(笑)。

——大勢での収録と、一人での収録は演技に差がでることがありますか?
一人での収録は慣れていない人には難しいと思います。アテることに精一杯になってしまうので。やはり会話じゃないですか。相手がいるから会話が成立するんであって。ステレオ音声でオンエアするものは皆で撮れるんですけど、5.1、6.1チャンネルとかになると音声を同じラインに入れてしまうとまとまらなくなってしまうので、そんな場合は一緒に撮れないのです。結局皆で集まってもじゃあ「森川さんだけ撮ります」とバラバラで収録になるんですよね。ちゃんと相手のセリフが聴けなくてもちゃんと言えるように求められているというか、技術が求められていますね。お芝居の勉強がちゃんとできていないと難しいですね。

——今回放送される4作品については、皆で一斉に収録したのでしょうか?
『ザ・メキシカン』は一斉でしたね。『リクルート』もそうだったかなぁ。『チャーリー・モルデカイ』は別々だったと思います。吹替えと字幕が劇場で同時に公開されていたので。『ミッション~』も別々でしたね。

——声をアテられるとき、ご自身で得意な部分はどういうところですか?
得意な部分かぁ・・・耳元で囁く(笑)。ということにしといてください(笑)。

——得意な部分にも難しさがあるかと思いますか?
やっぱり僕らの仕事って“声”だけなので、皆サービスしちゃうんですよね。大きな声を出す方にいってしまう。声優さんって声が大きいじゃないですか。引いた芝居は力を抜いてやるので不安になるんですよね。実際にはオリジナルの俳優は声を張っていないのに大きい声を出すことがあります。なぜかというと、ゴールデンと言われる時間帯で放送していた映画って例えばお茶の間でご飯食べ終わった後にお母さんが食器を洗って、子供さんがワーワーと言っていたりしている中でテレビがついている状況なので、その状況下でもセリフが聴こえなくちゃいけないというのがあるんですよね。その当時の名残りのようなものがいまでもあるんじゃないですか。トム・クルーズは全然声を張らないので収録のときディレクターから「そんなに声を張らないで」って言われましたね。ブラッド・ピットは心情を身体でも表現するので声を出す方ですね。ユアン・マクレガーはイギリスの正統派俳優なので、ジュード・ロウも含め彼らを演じる際はいわゆる正統派なイメージでやっています。コリン・ファレルは肉体派ですね(笑)。ゴリゴリのハリウッドスターみたいな感じですよね。

——他の方が演じている吹替え版を観て、自分ならこうするということを考えますか?
人のものを観ても僕はそれが正解だと思います。面白いなぁと思うし。ブラッド・ピットやユアン・マクレガーなど他の方も吹替えていますが、これはこれで面白いなって思いますね。
僕だったらこうやるなっていうのはありますけどね。

——多くの吹替えやアニメ作品をはじめ多くの声優としての仕事をする上で、これだけは大切にしている・心掛けていることを教えてください。
『はっぴーぼーらっきー』(『森川さんのはっぴーぼーらっきー』)というバラエティ番組もやれているのは吹替えも含めて、声優の本業ができているからこそだと思います。それをないがしろにしてはいけないと思います。声優がタレント的に扱われて、色んな作品に出させていただいているのは、先輩たちが築き上げてきてくれた部分も多く、脈々と積み重なってきたものが、現在はインターネットの力もあって表に出てきて、自分たちの力だけでなく全てが積み重なってきたものでもあるので、それを忘れてしまうと一瞬でそういったものが全てなくなってしまうと思うんですよ。声優という本業に誇りを持ってやっています。だからこそ色々できると思っています。

ふきカエルインタビュー森川智之さん——仕事の前に必ずやっているルーティーンはありますか?
イチローみたいなやつですか(笑)。朝は発声練習を毎日しています。

——以前、森川さんは朝早くお風呂に入っていると伺いました。
ずいぶん昔の情報ですよね。いまでも朝に入っています(笑)。

——収録期間中にプライベートでも役が抜け切れないといったことは・・・?
マイクの前にいるときは完全に役柄になっていますよ。トム・クルーズだったらイーサン・ハントになりますし、ユアン・マクレガーだったら『スター・ウォーズ』で僕はオビ=ワンだと思って臨んでいます。でもマイクから外れれば普段の森川ですよ(笑)。オン・オフはちゃんとしていますよ。終わってからは皆で仲良く飲んで喉を潤します(笑)。

——同じ俳優を別作品で演じる場合、以前の演技に芝居が引っ張られてしまうことはありますか?
それはないんですよね。トム・クルーズ主演の『コラテラル』という映画で彼は髪を銀髪に染めて殺人鬼の役をやるんですよ。その作品ではオーディションがありましたからね。なんでオーディションをするんだろうって思ったら「森川さん、今回のトム・クルーズはいつもとは違って殺人鬼なので、オーディションを受けてください」って、「あ、そうですか」って。結果、僕になりました(笑)。それと同じように『宇宙戦争』もオーディションをしてくださいと言われました。「今回のトム・クルーズは子持ちでダメ親父なんですよ。」「わかりました」って。でも僕の場合はゼロベースで作っていくので、自然に役ができるんですよね。自慢話みたいですけど(笑)。

——役作りは事前に時間をかけて準備をするのでしょうか?収録の場で作っていきますか?
自分で事前に家で練習しているときに役を作って、収録に行ってそれを出すって感じですかね。それを演出家さんにジャッジしてもらって、もうちょっとこういう風にやってくださいと軌道修正してもらいますね。

——現場で臨機応変に対応して作り上げていくのですね
ニュートラルな状態にしているのが良いのかな。自分はいつも収録に行くときはニュートラルな状態です。ある程度作ってきたものをばっと出して、周りとのバランスを測りつつですね。

——例えば事前にDVDをもらって家で練習される際はどれくらいご覧になるのですか?
いや~、それは企業秘密ですね~(笑)。作品によってです。難しいものもあるんですよ。心情表現が難しいものもあれば、例えばラブストーリーものでしたら結構ラクに観られるのですけど、逆に「これ難しいな」と思うものもあります。鬼才といわれたスタンリー・キューブリックの作品をふわっとやって「はい、できました~」なんて言ったら「嘘でしょ!?」ってなるじゃないですか。読み込んで全体を見ながら作っていかなくちゃならないだとか、作品によっては10時間かそれ以上かける、下手すると寝ないでそのまま朝に収録に向かうときもあります。

——『ミッション~』はその点いかがでしたか?
『ミッション~』の場合は劇場でも日本語吹替えを字幕版と同時に上映していたので、収録の時には映像自体がファイナルバージョンではなかったりするんですよ。公開ぎりぎりまで直しがあるので。まだ撮影中なんですとかね。『ミッション~』に限らず、ハリウッド大作などはいきなりシーンが増えていたりすることもあります。僕らが吹替えを収録する際の作品映像の中には映っちゃいけないものが映っていることもあるんですよ。時代劇で車が走っていたり、俳優さんが間に合っていなくて代役が映っていたり。CGが間に合っていなくて画面全部ブルーだったり、役者だけしか映っていなかったりだとかね、そういうのもあるんですよ。

——森川さんはドラマ『SHERLOCK/シャーロック』の吹替えもされていますが、ドラマと映画では何か違いはありますか?
基本的にやることは変わらないですね。ただ、(ドラマは)尺が長かったりするのでゆったり撮れますよね。向こうの本国からすればストーリーをじっくり見せられますよね。映画はどうしてもカットしたり編集したりして短くするじゃないですか。だからコンパクトになって展開が速くなってしまうんだけども、その反面ドラマはゆったりできるので、どっしりと役を捉えられるし演じきることができますね。『SHERLOCK/シャーロック』の場合は原作もあるので、たっぷりやらないと世界中のシャーロキアンたちに怒られてしまいます(笑)。

ふきカエルインタビュー森川智之さん——最後に、「吹替王国」を楽しみに待っている皆さんにメッセージをお願いします
吹替えをご覧の皆さん、楽しんでいるファンの皆さんにとって「吹替王国」はすごく素敵な企画ですよね。一人の声優さんにスポットを当てて作品を楽しむ、それにプラスして独占インタビューもあり、面白おかしいCMも作り、そんなお楽しみなところも多い。第8弾となる今回、僕が出させていただいて、僕が声優を目指していた時期にもこんな企画があったら、参考になって面白かったのにとも思いますが、いい時代に生まれたなと思います。呼ばれて光栄ですし。この先も続いていくことで、色んな方たち、例えば吹替えの中でも縁の下の力持ち的な、いわゆる脇を固めるために無くてはならない人たちのプロフェッショナルなところにもスポットを当ててもらえたりすると、もっともっとたまらなく吹替えを楽しめると思います。ぜひこの企画を盛り上げてもらって、ずっと続くように応援してもらえると、いずれはあなたが気になっている声優さんが顔を出してくれる可能性が出てくるので、本当に楽しんでいただければと思います!

ふきカエルインタビュー森川智之さん[プロフィール]
森川智之(もりかわ としゆき)

1月26日生まれ。東京都出身、神奈川県育ち。
声優・ナレーター・歌手として活躍。アクセルワン代表取締役。
「FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN」セフィロス役など、アニメ・ゲームで美形の役柄を担当することが多い。
洋画の吹替えでは、トム・クルーズ、ユアン・マクレガー、ブラッド・ピット、キアヌ・リーヴスなど、こちらもイケメン役を多く担当していることで有名。

 
※この特集の放送は終了しました
CS映画専門チャンネル・ムービープラス
「吹替王国 #8 声優:森川智之」

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