- 2024.8.2
- インタビュー・キングダム
「ふきカエル大作戦」時代のコラムでお馴染みの吉田啓介さんに、Mr.ふきカエルが、吹替えにまつわる様々な、あんなことやこんなことを伺いました!
さらに、「吹替キングダム」のXアカウントから募集した、皆さんの質問も吉田さんにきいちゃいます!
超ロングとなったインタビュー、第4回目の最終回、どうぞお楽しみください!
最終回では吉田さんが皆様からの質問にお答えします!
#おしえて吉田D
Mr.ふきカエル:ここからは、Xで募集した吹替ファンの皆様からの質問です。
muua @muuaroja 様からのご質問。
同じグロービジョンにいた演出の左近允洋さん、岡本知さん、壺井正さんなどの思い出があれば教えてください。
吉田さん:思い出といっても、いわば職場の上司なので、胸を打つような感動の話があったわけでもなく、普通に怒られたり、文句を言われたりしながらやってましたけどね。
左近允さんは、細かい人でね。覚えているのは、左近允さんって元々は演劇をやられていて、早稲田小劇場とかそういう方面の。その流れで一時期、大島渚監督と一緒に活動をされていて、映画にも出演されているんですよね。『日本の夜と霧』という大島渚監督作品に。松竹ヌーベルバーグのあの作品で、初めに自殺しちゃう学生の役で左近允さんが役者として出演しているんです。その後、詳しいことは知らないんですけど、大島監督とは喧嘩別れまでじゃないと思うんですけど……袂を分かっていて。左近允さんはそこからこちらの吹替えの世界に来て、ずっと活躍されていました。
それが後年、テレ朝で『戦場のメリークリスマス』を放送するとなって、あの作品は日本映画ですけど英語が混ざってくる。それを、基本はそのまま放送するのですが、トム・コンティ演じるローレンス、彼は日本語と英語両方喋る役でした。英語はそのまま残すんですが、日本語はネイティブではないので、聴きづらい部分もあると。それで、彼の日本語のところは吹替えにしましょうとなりました。映画ファンの方からすれば、それはしなくても…というところでしょうが、テレビでゴールデンタイムにお茶の間に流すなら、そこはやはり聞き取りやすく吹替えしたいと。
日本語から日本語に吹替えるわけですが、日本の監督がいらっしゃる作品なので、仁義を切るというか、局のプロデューサーから大島渚監督に話は通してもらった上で、一応その吹替えの現場を担当する我々も挨拶に行きましょうとなりまして。プロデューサーと演出の左近允さん、私で大島渚監督の事務所に行くとなった時に、大島監督と左近允さんの昔のことを僕は聞いてはいたので、これはやばいな、もし喧嘩になったらどうしようって(笑)。
大島監督といえばおっかない人ってイメージがあったんで、その場で喧嘩になったら、とビクビクしながら行ってみたら、もう全然そんなことはなくて、「ああ、久しぶり」みたいな感じで(笑)。左近允さんが「この度、吹替え制作をやらせていただきます。」って言ったら、大島監督が、「もう、左近ちゃんいるなら、任せる任せる」みたいな感じで、でも左近允さんはきちっとした方なので「いや、任せると言われても困ります。何なりとご指示ください」みたいにやり取りをしていて、へーと思った記憶がありますね。
そんな風にすごく真面目な方で、演出もきっちりしてるんですよ。だから、台本の直しはすごく多かったですね。左近允さんの演出する作品の翻訳は大体が額田やえ子さんで、お二人は名コンビで。『コロンボ』とか『コジャック』とか。それで額田さんも長年組んでるから、大体わかるんですよね。僕が額田さんの原稿をチェックしてると、「あれ、これ長さが上手く合わないけど」ってところがあるんですよ。それを額田さんに確認すると「ここはどうせ左近允さんが直すから」って(笑)。左近允さんはもう台本が真っ黒になるまで直してました。
だから現場では収録の前にまず本直しなんですよね。 当時はワープロがない時代ですから、翻訳原稿って手書きだったんです。で、額田さんの字が、よく言えば独特、悪く言うとまず読めない(笑)。印刷屋さんには読める方がいらしたんですけど。昔の石原慎太郎氏が悪筆で、各印刷所にその字が読める担当者がいたっていう、額田さんもそんな感じで。だから、原稿のままだと直しがやりにくいから、まず台本を印刷しちゃうんです。で、刷り上がった台本にディレクターが直しを書き込むんですよ。でも役者さんには当然、直す前の台本を渡しちゃってる。それを当日現場で「はい、本直しを始めます」って、ディレクターが口頭で伝えるわけです。「〇ページの〇行目、×××~とありますがここは△△△~に直してください」みたいに、二時間ぐらいやる。
Mr.ふきカエル:午前中はそれで潰れるって感じですよね。
吉田さん:お昼前に1ロールを収録出来ればいい方ですね。特に左近允さんは一語一句、ここで区切り、ここで息継ぎみたいなことまで全部書き込んであるんです。
Mr.ふきカエル:現場対応が大変ですね、声優さんは。
吉田さん:一方で岡本知さんはそこまではしなかったですけど、ちょっとおっかない方で。「違う違う、もう一回」みたいな感じでやり直しが多かったです。
壺井さんも含めグロービジョンのディレクターさんは総じて丁寧でしたね。そこには技術上の理由もあって、今ほどあまり簡単に録り直しとかできない時代の名残りがあったんですよ。
今だったら、とりあえず任せるからやってみてください、違っていたらもう一回やりましょうっていうことが出来るんですけど、 そうじゃなかった時代は本番前にテストを重ねて慎重かつ丁寧に録らなきゃいけない。丁寧にならざるを得なかったんですね。
あとは、僕がディレクターやりたいって言った時に左近允さんが「あいつはちゃんと“モノ喜び”ができるやつだから、演出には向いてるよ」と言ってくれたというのを後で聞きました。ディレクターの思い出はそんなところですかね。
Mr.ふきカエル:最後にいいお話しを聞けました。
もう一問、岡本さん演出の『サザエさん』など吹替以外の現場に吉田さんが参加したことはあるのでしょうか? もしあって違いなどがあれば教えてください。
吉田さん:当時のグロービジョンはアニメといえば『サザエさん』を始めエイケンさん制作のアニメしかやってなかったんですが、社内でもそのチームだけで完結しちゃってて。なので『サザエさん』ほかアニメには一切僕は噛んでいないです。
Mr.ふきカエル:では、会社では、今日は『サザエさん』の収録だな、ぐらいの感じでしょうか?
吉田さん:ときどき休憩時間にロビーで麻生美代子さん(フネさん)と世間話をしてた程度で(笑)。今ではグロービジョンさんもいろんなアニメをやられてますけどね。
Mr.ふきカエル:ありがとうございます。では、次の質問です。
リバーズ @LEVEL_Z 様からのご質問。
『ミスター・ココナッツ』『ホンコン・フライド・ムービー』『フロント・ページ』のマイケル・ホイは多分グロービジョンさん制作だと思うのですが、広川太一郎氏のイメージが浸透しきってた日本で小島敏彦氏(マイケル本人に声質が近い)を新規開拓された経緯と評価をご存知でしたら知りたいです
吉田さん:これは僕がやったので覚えてるんですけど、ポニーキャニオンさんの仕事でした。DVDになる前で、VHS用ですよね。放送用ではないビデオソフト用の吹替え。当時はポニーキャニオンさんが香港映画を、ジャッキー・チェン作品を筆頭に大量に出されていた時期で、吹替版もよく作ってました。当時すでに『Mr.Boo!』はテレビでも放送されていて、皆さんご存じの広川太一郎さんの吹替えで。なのでその時ももちろん広川さんを考えたとは思いますが、そこまでの予算もなく。当時の広川さんのギャラは、それなりに高かったですから。
Mr.ふきカエル:広川さん、当時はフリーランスでご活躍でしたね。
吉田さん:そうですね。そんな事情もあり、「どなたか合う方でお任せします」と言われまして、マイケル・ホイのような感じの調子のいいおっちゃんなら小島敏彦さんかなと。小島さんには、それまでも他の作品でその手の役をよくお願いしていたので。
Mr.ふきカエル:『裸の銃<ガン>を持つ男』の最初のテレビ吹替版の主人公ドレビン(レスリー・ニールセン)を吹替えしたのが小島さんですよね。
吉田さん:そうなんですね。やっぱり、中年の面白いおっちゃん(笑)ってなると、当時はやっぱり小島さんでしたね。
Mr.ふきカエル:小島さん、コメディセンスがありますよね。
続いて
奸臣 @RyjnaK 様からのご質問。
吉田さんが演出として制作した『セブン』のフジテレビ版に関する思い出があれば教えてください。こういう意図でこの配役にしたとか、制作時の苦悩とか。
吉田さん:苦悩は特になかったですけど(笑)、「ゴールデン洋画劇場」用として制作させていただきました。当時のフジテレビのプロデューサーが山形淳二さんで、業界では有名だった方ですけど、 色々なキャスティングを試されるというか、その時は新しい才能でやりたいとおっしゃられまして。だから、まだそんなに数多くの作品を手掛けたわけではなかったですけど、ディレクターも僕をご指名いただいて。
主演のブラッド・ピットはさすがにスターでしたけど、吹替えには、出来れば新しい方、誰かいませんかねとなりました。当時、テレビでの放送はフジテレビが初でしたが、ビデオ版吹替えはもう出来ていて、主演の二人は松本保典さんと坂口芳貞さんでした。TV版では若手でおすすめの方、誰かいませんか?いう話になりまして、僕が真地勇志さんを候補に挙げたんです。真地さんとはそれまで何度かご一緒してて、まだ主役を張ってはいませんでしたがとても上手い方ですし、いかがですか、という話をして。じゃあ真地さんで行きましょうとなり、所属する青ニプロダクションに連絡しまして、こういう作品をお願いしますと伝えました。するとしばらくして事務所から確認の電話があって「これ、主役ですよね」って(笑)。そうですと伝えると「そうですか。まさか、こちらの年を取った刑事さんの方じゃないですよね」って言われまして、違います若い方です、と。まさか主役とは思わなかったらしいです(笑)。
さすがにゴールデンで放送する作品のメインキャストをこちらから提案をさせていただいてご了解いただき、他も思う通りにやらせていただけたのは本当にありがたいことでしたね。そうやってキャスティングが決まれば、ディレクターの仕事は半分は終わったようなものです。
ひとつだけね、小川真司さんに現場に来ていただいてやってみて、当日お願いしたことがありました。僕が注文を出したのは、小川さんがジョン・ドゥ役を吹替えされまして、初めのセリフが電話の声なんですよね。現場にいるブラピに電話がかかってきてどうこうというシーンで。「私が罰を下した」というようなセリフで、最初はとても上からこう、“愚かなる人間どもよ”みたいな感じで演じられていて。それで、「ごめんなさい。それはそれでアリなのですが、このジョン・ドゥという人物は決して“愚かな人間ども”と見下してはいないはずです。自分自身は神の教えに従って普通に行っているようなことで、決して悪に制裁を加えてるわけではないのではないか。神の教えに反するものを導いてるだけで、あまり上からにならないようにしてください」っていうことだけは、お願いしまして。小川さんも、なるほどねって理解してくださって。そこからはさすがですよね。ガラッと変わったんですよ。そんなことは覚えてます。
Mr.ふきカエル:あと、この作品のMEトラックでご苦労があったそうですね。
吉田さん:ありました。MEトラックという、本国から提供される効果音の中に、『セブン』は警察ものなので、無線がやたらと入ってきます。警察無線ですね。それがちゃんと聞かせる必要のある無線だったら当然吹替えるんですけど、例えば捜査現場で奥にパトカーが止まっている。その前で捜査員たちがガヤガヤやっているところで、そのパトカーから警察の無線が聞こえてくる。全然本筋には関係がないので効果音扱いになるんですけど、たまにそこにね、英語が入っていることがあるんですよ。
それがちょっと気になって、でも入っちゃってる音は抜けない。なのでなんとかそこに同じような尺で日本語を「3号車、現場に急行してください」みたいなセリフをうまいこと当てはめて、英語に被せてごまかしたみたいなことがありましたね。それはこの作品に限らず、たまにあるんですが。
Mr.ふきカエル:よくそのまま原音が残っている作品もありますよね。
吉田さん:ありますね。その時と場合で、もうどうしようもないっていう作品もあるんですけど、場合によっては残ってしまっても気にならないようなときもあり、作品によりますね。
Mr.ふきカエル:では次の質問、続けてのご質問になりますが、
奸臣 @RyjnaK 様からのご質問。
劇場公開版、ソフト版、TV版、機内上映版と、それぞれの用途に応じて吹替を制作する際に起きる差異みたいなものはありますでしょうか?
吉田さん:劇場版が一番手間が掛かりますね。今、映画館の音ってドルビーアトモスだったり色んなフォーマットがあるので、セリフを録る時もそういったことを気にしながら、 この音はここから聞こえてくるから別に録ろう、とか。
一方テレビ版だと、当時は放送に合わせてカットする。これはテレビ版だけの作業でしたね。
あとは機内上映版ですが、自分が入った頃って、まだ機内上映はビデオになっていなかったんですよ。16ミリのフィルムを飛行機に積んで、機内で映写していた時代があったんですよね。
Mr.ふきカエル:それってどんな感じになるんですかね。後ろから映写をしているのですか?
吉田さん:今は座席にモニターが一人に一台ありますけど、当時のエコノミークラスはスクリーンが通路の上にいくつか下がっていて、そこに映写するわけです。
Mr.ふきカエル:ビデオの時代になってからは、小さいモニターが天井からぶら下がってる場合もあって、席に近いところのモニターで観る感じでしたよね。
吉田さん:フィルムの時代は、当時のCAさんは皆さん16ミリ映写の資格を持ってるんですよね。16ミリって、講習を受けないと扱えなかったので。
で、素材がフィルムですから、字幕を入れられないんですよ。音は吹替えるからいいんですけど、例えば新聞の見出しとかが映っていても字幕が入れられない。そうなると、今なら字幕で出すような部分を、セリフとして読ませるんです。「株価大暴落」みたいなセリフで。観ている方は「これ、誰が喋ってんの」って不思議に思うんですが(笑)。
Mr.ふきカエル:10年ぐらいの前の作品でも、土地の名前とかが出て、それを音声で読んでるやつとかありましたね。
吉田さん:だから、新聞を読むシーンとかだと、みんな音読するんです。新聞を読んでる登場人物が「うーん、殺人事件か」みたいに。機内版ではよくありましたね。
違うのはそれぐらいで、あとの作業は基本的に同じです。予算の差はありますけど、やることはみんな同じでした。
Mr.ふきカエル:機内版って声優の配役が豪華な印象があります。
吉田さん:そうですかね。そんなにお金が潤沢だった記憶もないんですけど。ただ、当時グロービジョンはJAL用に吹替えを制作することが多かったんですが、代理店として電通さんが仕切られていて、自分のところで買い付けてくるんですよ、機内での上映権を。機内上映の映画って一時期はある意味でその航空会社の「売り」になっていたんですよね、要するに「日本ではまだ公開されていない新作映画を観られます」ということで。そういう「売り」としての扱いだったので、予算があればそれなりのものをというのはありましたね。アトランタに直行便が就航するので、それを記念して『風と共に去りぬ』を新録したり。
Mr.ふきカエル:次の方の質問
淡島 玄 @iAOWfkv0IhfK7fd 様からのご質問。
機内版のカット箇所の選定は航空会社がおこなうのでしょうか?また主にどのような場面が切られるのでしょうか?
吉田さん:そもそも飛行機の中は基本的にレーティングがありません。お子さんも乗ってますからね。刺激的な場面は当然見せられないのが大前提です。当時は、大きいスクリーンが真ん中にありますから、そんなシーンも否応なしに観えてしまいますから。
だから刺激の強い作品はそもそも選ばれないんですけど、たまにちょっとだけそういったシーンがある映画もあって。ただ機内上映では基本的にハリウッドメジャーの作品が多かったのですが、ちゃんと機内用にそういうシーンを差し替えたりカットしたりしたバージョンが作られているんです。だから日本側で編集をすることはなかったですね。
ひとつ覚えてるのは、『摩天楼はバラ色に』の機内版があるんです。その素材を観たとき、マイケル・J・フォックスが田舎からNYに出てきて初めてアパートを借りて、すごい安アパートだから、隣の部屋の音が聞こえてくるんですよ。劇場版だと、多分ビデオ版もそうなのかな、男女の夜の声が聞こえてきちゃう。それで彼が眠れなくて、あーってなるというシーンがあるんですが、機内版はそれがラジオの音に差し代わっていて、ラジオがうるさくて眠れないというシーンになってました。
Mr.ふきカエル:ずいぶんとソフトな感じになりますね。
吉田さん:ハリウッドメジャーってその辺はちゃんと計算して、色んなバージョンを用意してきますね。
これは電通の方に聞いたんですが、アメリカへ行っていろんな映画会社で試写を観て回って、じゃあこの映画の機内上映権を買いましょう、ということをやられていた方で。ある時すごく面白い映画があって、日本での公開もまだ先なのでぜひすぐに買い付けたい。「でもその作品、上映出来ないんですよ。」というのでタイトルを聞いたら『ダイ・ハード2』でした(笑)。あれは飛行機の中では観られない。
Mr.ふきカエル:飛行機が墜落しますからね。基本的にダメだって言われてますよね。
吉田さん:そうですね。それは当然で、『エアポート』シリーズは絶対できません(笑)。
Mr.ふきカエル:もう1つ、
淡島 玄 @iAOWfkv0IhfK7fd 様からのご質問。
俳優・タレントの方の収録用に事前に「ガイド音声」を制作・使用することがあると聞きますが、これは業界では結構ポピュラーな方式なのでしょうか?またその音声のDVD等への収録が難しい事情などあったりするのでしょうか?
吉田さん:これ、昔はたまにやってました。僕も一、二回やりましたけれども、 ここ25年くらいはやってないと思います。今のようにまだ細かく音を録れなかった時代は、吹替に慣れてない俳優やタレントさんには難しいので、プロの声優さんを先に呼んでお手本を演じてもらって、それを聞きながらこんな感じですよっていうのをやってもらったことはありますね。
僕が聞いたことがあるのは、他社さんの作品なので詳しくは知らないんですけど、『バトルシップ』はそうみたいですね。土屋アンナさんの役を東條加那子さんが演じて録っておいて。そういうの、最近はもうあんまりやってないと思いますが。
Mr.ふきカエル:スタジオに来て、そこで演出家の演出に従って演じるということですよね。
吉田さん:出演される方から「ちょっとお手本を聞かせてください」というのがあったのか、その部分も僕にはわからないところですが。ただ、最近はひとりだけでじっくりと録れる環境がありますからね。
よくそういったガイド音声をソフト化してほしいという声もありますが、元々商品にする用に制作していない、セリフだけの音ですからね。MAも効果音も音楽も何も入れてないので、そもそも商品になりようがないです。
Mr.ふきカエル:やればできそうな感じもしますが(笑)。
吉田さん:それにはもう一度MAをしたりしなきゃいけないので、コストが掛かりますからね。
Mr.ふきカエル:そうですね。そのお話しに関連して、これも伺えたらと思いますが、映画『激突!』の吹替版。アナウンサーの徳光和夫さんが主演を吹替えした作品について。
吉田さん:あー、徳光和夫さんの時はガイド収録やりましたね。
Mr.ふきカエル:沢木郁也さんがガイド用として録られていた?
93年か94年でしたか?日本テレビの「金曜ロードショー」が、徳光さんで『激突!』をやるんだって、びっくりしました。
吉田さん:吹替版としてはもう穂積(隆信)さんのバージョンがあって、あれは本当に名吹替だと思います。で、日テレさんが放送するときに、その穂積さん版に張り合っても仕方ないので、だったら新しいアプローチをしましょう、という企画でした。ちょうど徳光さんが日テレを退社してフリーになられたときでしたね。
Mr.ふきカエル:次の質問は
ANDY稲葉 @dnAacraG 様からのご質問。
これまでに携わられた機内版吹替の中でも印象深かった作品とエピソードを教えて頂けますでしょうか。
吉田さん:これ、さっき喋っちゃった(笑)。
Mr.ふきカエル:次の質問。
S* @0nm16v47725454b 様からのご質問。
吉田さんがグロービジョン担当として携わった『ロッタちゃん はじめてのおつかい』が2024年に入り、劇場再公開され年内のBlu-rayのリリースも決まるなど今再び脚光を浴びています。
そこでなのですが、この映画の吹替に関する思い出を聞かせて頂けないでしょうか。
吉田さん:ごめんなさい、この作品、全く記憶になくて(笑)。
当時の配給はアスミックさんだったと思うんですけど、アスミックさんの仕事はよくやらせていただいてたんで、これもやっていると思うんですが、ビデオソフトって、割とお任せのことが多かったんです。『ロッタちゃん』の場合だと、主役の吹替えは本当にリアルな子役さんでやるか、大人の女性にやっていただくか、ここだけクライアントさんと相談したはずです。この時はたしかリアルな子役さんでやられていて、ディレクターは壺井さんのはずですが、僕は特に絡んでないと思うんですよ(笑)。担当は僕のはずなんですけどね。だから、ごめんなさい、覚えてないんです。
Mr.ふきカエル:同じくS* さんからのもう1つの質問。
これまでご一緒に仕事をした翻訳家や声優などで、今また一緒に仕事をしたいと思っている人はいますか?
またその人とは、今度はどんな映画やドラマで一緒に仕事をしたいですか?
吉田さん:これは誰と言わず、今まで仕事したことあるなしに関わらず、どんな方でもご一緒出来れば嬉しいことでありまして。 特にこの方でやりたいとかそんな立場ではないというか、ほんとにどなたでも、ご一緒できるのは嬉しいですね。
Mr.ふきカエル:ちょっとこれに関連した質問ですが、芸能人で活躍されていて、声の仕事をあまりやっていない方で、この方は結構すごいなっていう方はいらっしゃいましたか?
吉田さん:古い話ですが、勘のいい方で、森光子さん。
Mr.ふきカエル:森光子さん、すごいですよね、あの方。
吉田さん:『ジェシカおばさんの事件簿』で、僕はまだ制作で左近允さんについてました。
まず、頭の中に台本が全部入っちゃってるんですよね。初めて現場に来られた時に「すみません、一応セリフは全部入ってるんですけど、何もないのも不安なので、台本を持っててよろしいでしょうか」って。こちらはもちろんです、と(笑)。
Mr.ふきカエル:なかなかハマり役でしたもんね。違和感もないし、上手い方でした。
吉田さん:あと最近の方で、僕が覚えているのは中川翔子さん。のちに『塔の上のラプンツェル』とかもやられてますけど、僕が初めてお会いしたのはもう少し前、『サイレントヒル』というホラー映画でした。ゲームが原作で、メインどころは声優さんだったんですけど、物語の鍵になる少女役ということで。
当時、松竹さんが『アビエイター』とか割と大きめの作品を出されていた時期で、キャンペーンをやりたいので中川さんのお名前をあちらから出されてきて、僕も存じていたので、やっていただいて。その時は中川さんおひとりで録ったんですけど、まぁお上手でした。あの方はご存じの通りオタクなので、たくさん見ていらっしゃるんですよね。アニメはもちろん、いわゆる声優さんがやってるものをいっぱいご覧になっているので、勘所がすごくいいんですよ。この作品でも延々モノローグがあって、私があの時こうだったって過去の経緯を五分ぐらい一人で喋るんですが、一発オッケーですよ。やっぱりたくさん見ている方ってすごいねっていう。こういう作品で声優さんがどんな風に喋っているかを、ご自身でわかってるから。あれはすごかったですね。
Mr.ふきカエル:じゃあ次の質問にいきます。
hina @sent612 様からのご質問。これ、ちょっとさっき話してたこと被っちゃうかな。
『摩天楼はバラ色に』のテレビ吹替え版を2本手掛けてますが、脇役に至るまで配役の被りは殆どありません。
これは普段から意識されていることなのでしょうか?(同じ人が担当すると、手抜きなのかと思うくらい配役が変わらないこともあるので・・・)
吉田さん:僕がやったのはTBS版ですけど、局が変わるとキャスティングも変わるのは当然という感じで。でもこれは後で気がついたんですけど、フジテレビ版に脇役で出ていたのが達依久子さん。当時左近允組で色々脇役をやってた方です。僕はそれを見落としていたというか気がつかずに、TBS版で自分がやったときにキャラとして合ってるからと社長夫人役をお願いしちゃって。後からフジ版にも出ていたと気づいてアッと思ったんですけど、まあ別の役だからいいかなと。それからすごい低音の迫力のある会長が最後に出てくるんですけど、あの声はなかなかなくて、フジテレビ版も郷里大輔さんでしたが、これは私の時も郷里さんでした。
ただ同じ作品でも吹替キャストが脇に至るまで全く同じというのは逆にないんじゃないかな。ごく稀にですが主役だけ取り替えて、脇は同じというのが…
Mr.ふきカエル:たまにありますよね。
吉田さん:主役だけ録り直して、脇の方は前の音源をそのまま使うというケースなら、当然ほかのキャストは同じになりますけどね。『タイタニック』はそれだったかな。
『摩天楼~』はもうひとつ配信用もありますね。これはグロービジョン制作ではありませんが。昔はメジャーの作品はその配給会社ごとの系列があって、例えばユニバーサルさんの作品はグロービジョンか東北新社さんとか、ワーナーは東北新社さんとか、色んな傾向があったんですけど、今はあまりないみたいですね。
ちょっと話が外れますけど、『ギャング・オブ・ニューヨーク』という作品では、松竹さんが配給で、ビデオ版と日テレの放送版、二つの吹替をグロービジョンがやらせていただいたんですね。計二回やってるんですけど、ずっと後になって配信用に新たに作ってくれという依頼がありまして。
あの作品、いわゆるメジャーではないんですよね。制作が独立系のミラマックス。だから配給の権利があちこちへ行くみたいで、配信するにあたって過去に作った吹替版が見つからないから新録してくれと。「いや、喜んでやるんですけど、どこへ出しても恥ずかしくない吹替え版がもう二つもありますよ」と伝えましたが「構いません」ということで。さあ主役のレオをどうする、みたいになりましたね。浪川大輔さんも石田彰さんも過去にやっちゃってるので。結局その時は加瀬(康之)さんで作りました。さすがに主役が過去バージョンと同じ人というのはちょっと、ということで。
『ハンニバル』も同じパターンで、これは僕が演出しました。これもビデオ版があって、日曜洋画劇場版があって、さらに配信版を作ってくれと言われて。
レクター博士役のアンソニー・ホプキンスは佐々木勝彦さん。あとゲイリー・オールドマンがすごいメイクして出てくるんですが、なぜか前の二つの吹替えが安原(義人)さんじゃなかったんですよ。で、せっかく作るならと、安原さんにお願いしました。
それも含め、意外と「これも新しく作るの?」みたいな作品が結構きましたね。
Mr.ふきカエル:なにかしら理由はあるんですよね。5.1chに対応しなきゃいけないとか。
吉田さん:あとは独立系の作品だと権利が移動しているから音源を一括管理してない、みたいな。まあ我々も商売になりますからね(笑)。せっかく新しい吹替えを作るのだったら、喜んでやらせていただきますって話ですね。
Mr.ふきカエル:続いて、
hina @sent612 様からのご質問です。
企画としてはあったけど実現しなかったタレント吹き替えはありますか?
吉田さん:『ラビリンス 魔王の迷宮』をフジテレビで放送したとき。フジテレビが色んなタレントさんを起用して吹替版を作っていた時期で、デヴィッド・ボウイの役が魔王なのとで、デーモン小暮さんでどうかって話が出ました。後年『バットマン』でジョーカー役をやられてますが、実は僕、事務所に電話までした記憶はあるんです。
でもその後、主役はジェニファー・コネリーの方だから、そちらの配役で誰かフレッシュな方にしましょうって話になったんですね。そのジェニファー・コネリーの吹替えに喜多嶋舞さんを当てることになったので、逆に周りは手堅く声優さんで固めましょうってことで、魔王は堀勝之祐さんになりました。
結果、周りのメンツが豪華になりまして、神谷明さんが出演されていたり、マペットキャラが出てくる映画でしたからアニメ系の声優の方や、他にも色んな方を呼んだ結果、デーモン小暮さんの起用は実現しなかった。
あとは『マイアミ・バイス』で本物のミュージシャンであるイーグルスのグレン・フライが役者として出てる回がありました。吹替えでも誰かミュージシャンの方でとなり、候補として世良公則さんが上がりまして。ミュージシャンだけど芝居もやられている方として、一応、打診はしたのかな。でも確かツアー中で、とても時間がないみたいということになりましてね。じゃあ他に誰か、というところで、僕が「なぎら健壱さんどうですか?」って言ったんですが、いやさすがにキャラ違うねって。結局、声優さんになりましたね。
Mr.ふきカエル:ありがとうございます。じゃあ、どんどん行きます。
デレク @cMxtnjW8Bz62246 様からのご質問。
初歩的な質問なのですが、ビデオソフト版とテレビ放送版制作はどちらが大変ですか?あと制作にかける期間も違ったりするのでしょうか?
吉田さん:テレビ版の方が放送枠に合わせてカットをするという作業がありますから、その作業は当然手間が掛かりますね。強いて言えばそこだけですよ。やることは同じなので、あとは本当、作品次第ですね。例えばプロデューサーと細かくキャスティングの打ち合わせをするというのも、ビデオ版でもする時はしますし、テレビ版でもお任せの時はお任せだし。そこはもう大きくテレビとビデオで違う、ということではないですね。カットがあるかないかってだけです。
Mr.ふきカエル:次は
オルマ @oruwaoruma 様からのご質問。
昨今、海外映画が劇場で字幕版に合わせて吹替版も公開されると、必ずといっていいほどタレント吹替化、またはアニメファン集客を狙った声優の知名度頼りの配役がなされることが多く、怒りを感じます。これについてどうお考えか、またこの問題の解決策はあればぜひ聞きたいです。
吉田さん:これはもう我々は何も言うこともなく、言うべき立場でもなく。プロデューサーのご指名というのは、どんな作品にでも、今までもお話した通り、声優さんであっても、この方でお願いしますっていうのは当然あるので、それと同じことだと思いますね。劇場で公開される場合、日本映画って出演者の方が宣伝をいっぱいしてくれるじゃないですか。テレビのワイドショーに出て、バラエティにも出て。
でも洋画の場合はそういうわけにいかない。となると、やっぱり宣伝のための露出というのは必要になるのでしょうね、ということぐらいしか僕らにも分かりません。あとはその与えられた条件の中でベストを尽くすことが我々の仕事ですから。
Mr.ふきカエル:タレントさん、有名女優さん・男優さんって時間が限られている方が多いじゃないですか。悪く言うとじっくり取り組んでもらえない場合がある。もしリハーサルを二回ぐらいやって、三回目に本番収録というように、一日時間を掛けて、収録を出来ればより良い内容のものが録れるかもしれないのに、短い時間で済ませて欲しいというのが多い気がします。
吉田さん:そこは最近では、発注される側も考えられていて。ちゃんと時間を掛けさせていただける作品もあります。もちろん制約はありますけど。
Mr.ふきカエル:続きましては。
noren @4RHboG5x20YFoVs 様からのご質問。
是非とも知りたいのですが、吹替えの場合、役者の声だけをすれば、他のBGMや環境音は用意されているものなのでしょうか?それともそれらもオリジナルで創り直すのでしょうか?
吉田さん:これはもう基本的には全部あります。映画の音というのは三つの要素があって、まず人の声であるセリフ、それから音楽、そして効果音。
人の声は当然日本語版の場合は日本で声優さんが喋って録ります。
残るのが音楽と効果音。ミュージックとエフェクトなのでMとE、MEって呼ばれるものですね。この二つはほとんどがMEという形で、音楽と効果音が一緒に録音された音素材が本国から提供されます。そこにこちらで録った日本語の声を乗せてミックスをする。それをやるのがミキサーなんですけど。それで吹替版が完成する。
今はそのMEもとても精度の高いものが提供されるようになっていますが、昔は結構抜けている音が多かったんですね。例えば、画面ではドアが閉まるのにその音が入ってないとか、人が歩いているのに足音がしないとか。この20年ぐらいですかね、今世紀に入ってからはほぼなくなりましたけど、そういう抜けがあった時は、効果さんの出番です。
クレジットに謎の(笑)「効果:赤塚不二夫」って、実はあの方、マンガ家さんと同姓同名ですが音響効果を担当されている方。
その効果さんが、足りない効果音を補完するんです。アニメの効果音を作っている方が多いんですが、吹替でもここに足音を加えていただくとか、それが効果さん。昔はそういう方にお願いして、やっと吹替版が出来ていた時代もあったんですけど、もう最近はありませんね。
Mr.ふきカエル:完全な、完璧なMAが用意されているのですね。
吉田さん:そうなんです。
ただ7、8年前かな、久しぶりに『小さな恋のメロディ』の新録をしまして。
Mr.ふきカエル:昔の、1971年の映画ですね。
吉田さん:あの作品をブルーレイで出し直しますってことになって。日本でとにかく人気の作品で、吹替版もLD版とTV放送版があり、TV版のメロディ役は杉田かおるさん、LD版が冨永み~なさん。KADOKAWAさんからブルーレイを出したんですけど、満を持しての発売なので、吹替版は両方入れたい。放送版はあったんですよ、音源が。でもLD版は廃盤になっちゃってて音源が現存しない。でも私、個人的に持ってたんですよ、その吹替版のLD(笑)。「私、持ってますけど…」って。さすがにLDは全然観なくなっていたんですが、再生機は持っていたので、もう何年も使っていないパイオニアのプレーヤーを押し入れから引っ張り出してきて、線を繋いで、自分のLDを再生して、音を録って。その音が今のブルーレイに入ってます(笑)。それに加えて、せっかくだから新しく吹替版も作りましょうということになって作ったんですけど、古い映画なのでMEがない。じゃあイチから作りましょうとなって、音楽は、これも僕がサントラCDを持っていたので(笑)、提供しますと。
ただそのCDにも劇中の全部の音楽は入っていないので、足りないところは前述の効果さんにお願いしてオリジナル版から使える音楽をうまいこと拾ってもらって、さらに色んな拍手とか足音とか、全部の音を作っていただきました。そこまで効果さんにお願いしたのは本当に久しぶりでしたね。
Mr.ふきカエル:ヨーロッパの古い作品はMEがないそうですね。
マカロニウエスタンの古い作品もない。ほとんどないですよね。
吉田さん:世界に売り出すってことを視野に入れて作っているかどうかでしょうね。ハリウッド作品は逆にその辺もちゃんとやっていますから、まるで工業製品のように、キチンと揃っていますね。
ただMEが良すぎるのも実は良し悪しで、よく言われる“叫び声とか咳の音とかが原音のままに残っている”場合もあるんですよね。その音が吹替版でそのまま使われていて、手抜きじゃないかって怒られるんですが、実は手抜きじゃなくてSEの中に入っちゃっているんですよ。
Mr.ふきカエル:外せないですよね。
吉田さん:理由としては、最近多い“世界同時公開”っていうところから始まっていると思うんですけど、ハリウッド映画って「世界中で同じ作品を同じクオリティで提供する」というのがひとつのポリシーに今はなってるんですね。特に配信って全世界で一斉に始まります。だから音声も何十か国のバージョンを作るわけですよ。そうすると、台詞は国によって当然変わりますよね。これは仕方ない。でも台詞以外の部分は同じクオリティで提供したい。なので本国としては、吹替える部分をなるべく最小限にしたいんですね。台詞は仕方ない、当然変えるんだけど、変えなくていいところはとにかく元の音のままで提供できるようにMEが作られてるんです。その結果、咳とか悲鳴のように吹替えなくてもよい音は、SEとして入っちゃってることが多いんですよね。
Mr.ふきカエル:でもいきなり、吹替えをしている声優さんと、その悲鳴や咳の声が違いすぎると違和感がありますよね。
吉田さん:そこの違和感が僕らもわかるんで、できればやりたい、吹替えをしたいですが、提供された素材の中にそれが入っちゃってると、もう抜けないんです。時々やるのは、『セブン』の時に話した無線みたいに、どうしてもここは変えたいから、上から吹替えを被せちゃう。それも出来る時と出来ない時とありますから。
ただ中には、例えば劇場版の作品だと、音を細かく作る前提なので、素材をバラバラにもらえることがあるんですよ。音楽、 エフェクト、それからオプションといって「これ使っても使わなくてもいいよ」という素材。例えば群衆のざわめきとか、人間の声だけど翻訳の必要のない音が別トラックで提供される場合もあります。 そうなると、じゃあここは日本語で声優さんにやってもらいますとか、ここはざわめきだから逆にこっちを使わせてもらいます、みたいな選択が出来るんですけど、それはもう限られた一部の作品で。普通は音楽とSEが混ざっちゃってますから、それに従って作るしかないんですよね。
Mr.ふきカエル:次は私、ふきカエルから、質問です。
新人声優さんがどうしたら多くの作品に出演できるようになるのかっていうのを、演出家の立場から、忖度なく(笑)教えてください!
吉田さん:これは本当に、新人の方っていうのは僕らもどんな声かわかりませんから。だからやっぱりマネージャーさんに聞いて、「こんな感じの役があるんですけど、どんな方がいますか?」って。あとはいろんな作品を観て「こんな方がいるんだ」と見つけることもありますね。じゃあそこまで行くのはどうしたらっていうのは、鶏が先か卵が先かという話になりますが。
Mr.ふきカエル:例えば 機会を得るというか、チャンスが一回来るとするじゃないですか。多分、吉田さんがマネージャーさんから勧められて、この新人を使ってくださいよって言われて、じゃあ使ってみましょうか、となって“男A”とかでとなった時には、その後に、その方を実際に見て使って、そこからネクストタイムがあるかないかっていうのが結構大きいのかなって思います。
吉田さん:やっぱりその場で聞いて、初めての方でも「上手いなこの人」となれば、次も何かの役でお願いしますと。それは普通にありますね。
Mr.ふきカエル:それを、そういった経験を積み重ねられる方が上がってくるということでしょうか。
吉田さん:そういうことでしょうね。
Mr.ふきカエル:昔の現場だとよく、お茶汲みとかをやらされるみたいな話も聞いたのですが、今は?
吉田さん:いや、今はもう無いです。
Mr.ふきカエル:昔は現場でいろんな方に顔と名前を覚えてもらうとか、演出家の方に、取り入るっていうと悪い言い方ですけど、そういうことは無くなったのですね。
吉田さん:ないですね。今は昔と違って、僕はよい状況になったと思うんですけど、昔はなんか修行みたいでね。それは役者さんに限らずスタッフもそうですが、こう言ってしまうと先輩方に申し訳ない部分もあるけど、現場でお茶汲みから始めるんだ、雑巾掛けからだっていうのは実は無駄なこと。今はもう無いですよ。そんなことはしなくていい。それより身になる仕事をしてくれと。声優さんは、現場に来て喋るのが仕事ですから。もちろん、見学させてくださいって来れば、僕の裁量で許される範囲ならどうぞどうぞって喜んでやります。それはご本人の要望でも、事務所からうちの若手に現場を見させていただけませんかでも、大歓迎ですよ。もちろんセキュリティ上の理由で難しいものも多いですが。ただ昔みたいに、お前とにかく来てそこに座ってろみたいなことは、もうないです。
Mr.ふきカエル:今のお話を聞くと、 まずはチャンスがあったら、当然のことながら、ベストを尽くしてください、ということですね。
吉田さん:そうですね。本当にいいお芝居をしてくれればよいので。
Mr.ふきカエル:あとは積極的に見学のチャンスがあれば現場に行くのはどうですか?
吉田さん:ただ、そこで顔だけ覚えてもらっても意味はないですね。
Mr.ふきカエル:能力、演技力が勝負ってということですね。
吉田さん:やっぱり喋って、聞かせてもらわないと。
Mr.ふきカエル:でも出演回数が増えたりすると人間的な関係っていうのが出来てくるじゃないですか。いつも現場に来てもらってる方だ、ってならないですか?
吉田さん:冷たいかもしれないけど、僕は一切しないですね。あまり意味がないと思ってるので。もちろん何度か仕事をしていくうちに、だんだんツーカーの間柄になってきて、こういう風に言うとこう応えてくれるとわかってくるってのはありますけども、それはあくまでもその次の話であって。僕は一切気にしないですね。
ただ結果的に、「あ、またこの方を起用しちゃったわ」っていうのはあります。特に多いのは脇の役者さんでね、いろんな役を幅広く出来る方には、どうしてもお願いする頻度は多くなりますね。
ただやっぱりそういう上手い方は、あっという間に多くの作品に出るようになるので、当時は新人でマネージャーさんに頼まれて使っていた方が、今だと声を掛けても全然スケジュールが空いていませんってこともよくあります。
Mr.ふきカエル:これもぶっちゃけの質問になってしまいますが、今の世代の方は少ないかもしれないですけど、一昔前、脇役で、洋画劇場にどの作品を観ても出演されている方がいらっしゃいました。上田敏也さん、杉田俊也さん、西村知道さん、秋元羊介さん、小室正幸さん。こういう方たちは演技も達者で、色んな役が演じられるから呼ばれると思うんですけど、たまに主役を演じる場合がありますよね。例えば、フジの「ゴールデン洋画劇場」で放送した『ゾンビコップ』っていう作品では秋元羊介さんが、テレ東の「木曜洋画劇場」で放送した『ダークサイド・コール/唇から悪魔』では上田敏也さんが主役。こういう場合はやはりプロデューサーが決められるんですか?
吉田さん:特にテレビの場合はやっぱりプロデューサーの判断です。もちろんディレクターとも相談ですが、彼にハマる役があるから今回は主役をやらせてみよう、みたいな話は普通にありましたね。
自分の場合だと、以前に(普段は脇が多い)水野龍司さんに主役をお願いしたことがありました。刑事がサイコキラーを追うみたいな作品でビデオソフト用でしたが、キャスティングに何の注文も縛りもなくて。単にキャラを見て、なんか顔も似てるなって、長い顔でね(笑)、普通にお願いして起用しましたね。
洋画劇場をお茶の間でご覧になっている皆さんほど、 我々はスターシステムってことをそこまで気にしてないんです、実は。もちろんそういう要請があって、こういう方を使ってくださいとか、こういう豪華な感じで売れてる方を使ってくださいみたいなことがあればそれは考えますけど、それ以外は、例えばこんな大御所が脇役に?みたいなこともよくやってました。多分吹替えに詳しい方ほど意外に思うかもしれませんけど、それこそ納谷悟朗さんを『物体X』で脇役に起用したというのは、逆に僕らはあんまり気にしないんですよね。役に合っていればいいわけなので、例えば主役がひとりいるとして、その脇に二番目ぐらいの役があります。ちょっと飛んで、五番目ぐらいの役があります。映画としての重要度、キャラクターの重要度もその順番の感じです、俳優さんも特に誰ってわけでもないような場合。そういうときに主役はともかくとしても、二番目の人と五番目の人は、その順番をギャラで決めてるわけじゃないんです。だから二番目がまだ新人で五番目ぐらいにこんなにベテランの方が、というキャスティングがあったりします。僕らとしては予算がトータルで収まっていればいいので、特に序列は考えない。本当に役に合ってるかどうかだけですね。
もっと言うと、主役がまったくの新人のというのもありますが、これも役に合っていればいいので。逆に予算があとこれだけあって、もっとベテランの方も使えますとなった時で「でもこの方をこの小さい役では本当の意味での役不足になって失礼じゃないか」というのは、まあ、思いませんね。
Mr.ふきカエル:思わないのですね(笑)
吉田さん:それが役に合っていればお願いします。きっとご本人だってそこは気にしませんよ。基本的に声優さんは、この役にあなたが合っているのでと言われれば、それは喜んでやっていただけるでしょうし。だから結果的にスター序列みたいになってることもありますけど、実はそんなに気にしてないです。
Mr.ふきカエル:そういう中で役に合った方が、その役を当てられるということですね。
吉田さん:それはもう大前提ですよね。
Mr.ふきカエル:わかりました。ありがとうございます。
吉田啓介さんへの過去3回のインタビューはこちら
→第1回「え!って言っちゃいますよね(笑)」
→第2回「会社が請け負った全ての作品のハンドリングを1人でしていた時期もありました」
→第3回「小学生の自分にお前がこの吹替版を作るんだよって言っても、絶対信じないでしょうね」