吉田Pのオススメふきカエル

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『2021年末映画興行戦線異状あり』

拙稿を書いている11月末の時点で日本国内の新型コロナ新規感染者は一日あたり100人未満。まだまだ油断は禁物ですが、年末も年始もなかった一年前からすれば平常運転に戻りつつあると言えるでしょう。やれやれ2年ぶりに正月気分が味わえるわい、そういえばそろそろお正月映画の公開時期じゃないか、今年は何があるかな、と公開予定を眺めてみると…ちょっと待って。なんかヘンだぞ。

今やマーヴェル一家の稼ぎ頭となったスパイダーマン。その最新作『ノーウェイ・ホーム』がいよいよ12月17日のクリスマスシーズンに全米公開!じゃあ日本の公開日は…とよく見たら、これがまさかの1月7日。え、なんで?冬休み終わってるよ??

同じ現象は邦画でも。先日公開されたコンサートフィルムの先行上映チケットが凄まじい争奪戦になった嵐(自分も参戦しましたけどね、いやー『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の先行上映時を上回る激戦でしたよ)のメンバーであるマツジュンこと松本潤主演の『99.9-刑事専門弁護士-』劇場版。人気テレビシリーズの映画化ということもあって期待されていると思いきや…公開日は12月30日と年末ギリギリ。お前は寅さんか(かつて「お正月といえば寅さん!」だった時代、『男はつらいよ』は決まって年末最後の土曜日に公開されていたのです)

極めつけはスピルバーグ御大がリメイクした『ウエスト・サイド・ストーリー』。『レディ・プレイヤー1』から三年ぶりとなる監督作にして初のミュージカル作品(まあ御大が実はミュージカル好きというのは『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』冒頭のダンスシーンを見るとわかるんですけどね)しかも題材は映画史上不朽の名作、とくれば大ヒット間違いなしなのに…公開予定は全米から2か月遅れの2月11日!スピルバーグの新作がわざわざ正月を外して公開されるなんて、昔だったらあり得ませんよ。だってスピルバーグよ???

原因は何となく想像がつくんです。コロナ禍で劇場へ足を運ぶ観客が激減したところへ台頭してきた新作映画のネット配信。ドウェイン・ジョンソン、ライアン・レイノルズ、ガル・ガドットの三大スターが共演したアクション大作(これ『レッド・ノーティス』ね)が劇場で公開されないなんて、ほんの数年前なら考えられない話ですよ。短観的にはコロナ禍で公開延期が相次いだことによる混乱(ケネス・ブラナーの『ナイル殺人事件』なんていつ観られることやら…)長期的に見ればネット配信の拡大により「新作はまず劇場で」というこれまでの鑑賞習慣が変わってきていること。「年始は初詣に行って帰りにお正月映画でも」なんて風物詩は過去のものになっていくのかもしれません。ちなみに映画館でバイトしていた学生時代、元旦の営業日に一番多かった忘れ物は「初詣で買った“破魔矢”」でしたわ。

前振りが長くなりましたが、そんな異例の正月映画戦線でも例年通り気を吐いている大作はあります。思わず破魔矢も忘れてきちゃいそうな痛快エンタテインメントを二本、御紹介しましょう。

吉田Pのオススメふきカエル

『ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ』

監督:アンディ・サーキス
出演:トム・ハーディ ミシェル・ウィリアムズ
12月3日より全国ロードショー
→ 公式サイト

自分の体に寄生した地球外生命体シンビオートのヴェノムと奇妙な共同生活を送るジャーナリストのエディは、未解決事件の真相を取材中に死刑執行間近の連続殺人犯クレタス・キャサディと再会する。エディに対し異様な興味を示すクレタスは突如として彼の腕に噛み付き、その血液が人間とは異なることに気づく。そして死刑執行の時、クレタスはついにカーネイジへと覚醒し…
 

うわ、なんだこの絵柄は。往時よりモンスター映画のポスターと言えば“掴み”が肝心、どっちがイイモンでどっちがワルモンかパッと見てわかるのが定石でしたが…これどう見ても両方ワルモンじゃん。

それも当然、だって両方ワルモンなんだから(爆)前作の『ヴェノム』で登場した地球外生命体のヴェノムは本来“人間を片っ端からかっ喰らう”悪のエイリアン。しかし主人公エディの体に寄生したことで奇妙な連帯関係が生まれ、“喰っていいのは悪人だけ”というルールのもとで共存生活を送っているのです。そこへ現れたのが同じシンビオートであるカーネイジ。こちらが寄生したのは倫理観の欠片もない連続殺人鬼だったため、ヴェノムに輪をかけて凶悪な存在に。こうして2体のワルモンが対決することになり、かくも禍々しい絵柄が出来上がったわけ。最凶vs最悪、生き残るのはどっちだ!

日本語吹替え版でヴェノムを演じるのは前作に続いて歌舞伎界の風雲児、中村獅童さん。この方と互角に張り合うにはカーネイジにもよほどの人を連れてこないと…と思ったあなた、ご安心ください。悪には悪を、梨園には梨園を。こちらも歌舞伎界から片岡愛之助さんが参戦です。さらにそこへこちらも歌舞伎俳優(にして声優としても実績のある)尾上松也氏まで参加して、収録当日のスタジオ周りは(これ弊社でやったんです)ここは歌舞伎座かと見紛うような光景と相成っておりました。よっ!萬屋!松嶋屋!
→吹替え版のスタッフ・キャストはこちら

 

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『マトリックス レザレクションズ』

監督:ラナ・ウォシャウスキー
出演:キアヌ・リーブス キャリー=アン・モス
12月17日より全国ロードショー
→ 公式サイト

あれから20年後。トーマス・A・アンダーソンは青いカプセルを服用しながら、サンフランシスコで普通の生活を送っていた。トリニティーと偶然出会っても、もはや互いの事が分からない。しかしある日再会したモーフィアスから赤いカプセル与えられたアンダーソンはネオとして覚醒し、再びマトリックスの世界へ…
 
 

そしてこちらもお正月を寿ぐにはぴったりの…でもないか内容的には(笑)世界中で大ヒットしたシリーズの久しぶりの新作、マトリックスの登場です。

例によって公開まで内容はガッチリ伏せられているため、前述のあらすじ以上のことは皆目見当もつかないのですが…そこはマトリックス、これまでのように“見たこともない世界”が待っているのは間違いありません。思い起こせば一作目の『マトリックス』、無名の監督といささか旬を過ぎた感のある主演俳優(キアヌ・リーヴスね)による新作をさしたる期待もなく観に行って、あのバレット・タイム(例のエビ反り弾丸避けシーン)に吃驚仰天腰を抜かした二十数年前。SFアクションの歴史が確実に動いた瞬間でした。

映画界では、ある作品が登場したことでそのジャンルの映画の在り方自体が変わってしまうという“事件”が時々起こります。『ダイ・ハード』然り、『エイリアン』に『ブレードランナー』も。往年の『2001年宇宙の旅』なんてその最たるものでしょう。それらと同じく『マトリックス』の登場でSFアクションの歴史は大きく動き、時代は21世紀へと突入したのです。

日本語吹替え版ではネオ=小山力也、トリニティー=日野由利加のお二人は当然続投。オリジナルの俳優が交代したモーフィアスを諏訪部順一、同じく「ア~ンダーソンく~ん!」の名調子でおなじみのエージェント・スミスを中村悠一の両氏が担当します。ちなみに諏訪部さんは前述の『ヴェノム』でも主役のトム・ハーディを吹替えていて、映画館では時ならぬ“諏訪部順一祭り”が開催中。売れっ子だなあ。
→吹替え版のスタッフ・キャストはこちら

映画の歴史もお正月の風景も、変わっていく物もあり、変わらない物もあり。でも何かと気の塞ぐことが多かったこの一年を締めくくり新たな年を迎えるにあたって、豪華なお正月映画でスカッと気合を入れるのって楽しいことだと思うんですよね。これはこの先も変わらない。マスクと手洗いを忘れずに出かければ、感染対策十分な映画館があなたを待っています。皆さまどうぞよいお年を。

 

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吉田Pのオススメふきカエル
さすがにもう細かいとこは忘れてるでしょ。復習復習。