池田昌子さんインタビュー

池田昌子さん

ハリウッド大作からヨーロッパ話題作まで、魅力あふれる映画をハイビジョン、ノーカットで放送する名画の専門チャンネル「イマジカBS・映画」が、2016年に開局20周年を迎えます。その記念企画のひとつとして、「総力特集 オードリー・ヘプバーン」が12月26日から1月3日まで放送されます。没後22年を経た今なお、世界を魅了してやまないオードリーの代表作9作品を集め、字幕と吹替えの両バージョンを放送。放送作品のうち、『ローマの休日』『許されざる者』『噂の二人』『シャレード』『華麗なる相続人』の5作品は、DVD&ブルーレイソフトに収録されていない、貴重な地上波の吹替えです。

今回は、オードリー・ヘプバーン主演のほとんどの作品で吹替えを担当する池田昌子さんの登場です。放送される9作品『ローマの休日』『戦争と平和』『許されざる者』『噂の二人』『華麗なる相続人』『昼下りの情事』『麗しのサブリナ』『パリの恋人』『シャレード』の、すべてでオードリーの声をアテています。放送に先立ち行われたインタビューの模様をお楽しみください。

—-オードリー・ヘプバーンの声を長く担当されていますが、ヘプバーンという女優についての印象を教えてください。
『ローマの休日』で彼女の声をアテることになり、改めて作品を拝見したときは、この世のもとは思えない美しさにただ圧倒されました。美人であるだけでなく、演技もお上手でしたね。月並みな言い方になりますが、彼女の内面の素晴らしさがあってこそ、その輝きがあると感じました。

—-最初にヘプバーンの声を担当されたのは『許されざる者』ということですが、吹替えのお話がきたときはどう思われましたか。
『許されざる者』は、『ローマの休日』のような作品とくらべると、彼女の印象が微妙に違いました。彼女のみがクローズアップされるストーリーではなくて、一人の登場人物としての彼女のいじらしさ、健気さが伝わってきて、それだけで私はオードリーの大ファンになりました。本当に素敵な女優さんだなと思います。作品としても好きですね。
実は『許されざる者』で声を担当する前は、私はヘプバーンのことをあまり意識していませんでした。『ローマの休日』は映画館で観たことはあったのですが、声をアテるようになってからの衝撃的な印象とは異なって、女優としての彼女を客観的にみていた気がします。
ヘプバーンの声をやるようになってからは、同じ作品でいくつもの吹替えを作ったこともあります。その度に私がオードリーの声を担当するのですが、演出や翻訳の方がそれぞれで違っている場合も多くって。放送用に本編をカットするのは、演出家の方がされることが多いんですが、人によってカットするシーンが違うので、いろいろな発見があって面白かったですね。

池田昌子さん

●今回の特集放送では、『許されざる者』『噂の二人』『華麗なる相続人』『シャレード』など、吹替版では長らく放送もされず、ソフトにも収録されていない作品が入っていて、すべて池田さんのお声で観ることができます。それぞれの作品について、作品のご感想や、収録当時の思い出をお聞きかせください。
オードリーの作品はどれも好きですが、『ローマの休日』は別格として、『噂の二人』が好きですね。相手役のシャーリー・マクレーンも実力のある女優ですが、オードリーも堂々と演技でわたりあって、名女優として輝いていました。内容も当時としてはセンセーショナルなもので、難しい役柄を非常にうまく演じられていたと思います。
『ローマの休日』の収録では、美容師の声を広川太一郎さんが担当していましたが、アドリブを入れるのがとてもお上手な方で、美容室のシーンでのやりとりがとても面白かったのを覚えていますね。当時の洋画の吹替え収録では、一度フィルムで試写を皆で観て自分の役と台本をチェックして、その後にスタジオで収録というシステムでした。今のように本編の入ったDVDを渡されて、家で十分に練習してから現場に臨むという形ではなかったんですね。
一度の試写の後はスタジオで真剣勝負ですから、余裕がなくて、滅多にアドリブを入れないんですが、広川さんの台本を見るとすごい書き込みがされていて、それがアドリブ用のセリフなんです。本番までに何度も読み込んで、熟考を重ねたんだろうなって思いました。軽快でユニークなキャラクターをすることが多い方だったんですけど、すごく真面目で、すてきな方でした。相手としてとてもやりやすくて、印象に残っている俳優さんです。

●特集の紹介番組のナレーションを本日収録していただきましたが、ヘプバーンの自伝から引用した彼女自身の言葉を、池田さんにヘプバーンになりきって演じていただきました。ご感想をお願いします。
彼女の自伝は割と読んでいます。妥協せずに真摯に自分の仕事に向き合う彼女の姿勢は、本当にすてきで、そういった彼女の魅力が言葉の端々に出ていると思いました。そして演じる人の生き方・作品との向き合い方の大切さを改めて実感しました。彼女の魅力はちょっとしたしぐさや演技に出ています。映画の中の彼女の笑顔は作り笑いではなく、本当に心から笑っているんです。そんな彼女の笑顔を見る度に、「あぁ、これが彼女の人柄なんだろうな」と感じました。私は彼女が年を取って、きれいさやかわいさがなくなっても、ずっと声をアテていきたいと思っていましたね。

●ヘプバーンの声をアテるときに、気をつけていらっしゃることなどがあれば教えてください。
私は、「ヘプバーンだから」「この人だから」という形にあてはめて声をアテようと考えたことはなく、あくまでもスクリーン上で演じている女優さんにいかに近づけるか、合わせられるかを意識しています。他のヨーロッパの女優さんと比べると、ヘプバーンは本当に素直に気持ちを乗せさせてくれるんです。彼女が、形からではなく、心から芝居をしていたからなんでしょうね。
女優さんによってはどうしても息が合わないこともあるんですけど、ヘプバーンに関しては全くそういうことがなかったんです。本当に素直に、彼女の芝居に乗っていけるんです。彼女以外でそういった経験はなかったので……。彼女の感覚が、東洋的といいますか、日本人に合っていたんじゃないかと思います。ある程度、彼女の演技の予想がつくということもありましたし、幸いなことに彼女の演技に対して、「え、どうして?」と思うようなことはありませんでした。彼女の台詞の息遣いが、日本人の私に合っていたんだと思います。

●今回の特集をご覧になる方へのメッセージをお願いします。
そんなに本数は多くないので、ぜひ全部ご覧ください(笑) ヘプバーンがいかにすてきな女優だったか、お分かりいただけると思います。『ローマの休日』は別格ですので、これだけでも観ていただきたいと思います。私の好みで言うなら、『噂の二人』をおすすめしたいですね。

[プロフィール] 池田昌子(いけだまさこ)
声優・女優・ナレーター。
1月1日生まれ。東京都出身。血液型はA型。
声優業が専業として確立する以前から、声優という職能を確固たるプロとして考えている数少ない人物。オードリー・ヘプバーンの数少ない担当声優の一人で、ヘプバーンの声といえばこの方。他にもアニメでは『銀河鉄道999』のメーテル役など、幅広く活躍中。

名画専門チャンネル イマジカBS・映画
総力特集 オードリー・ヘプバーン

※番組の放送は終了しました。