- 2019.2.20
- インタビュー・キングダム
ザ・シネマが、ベン・スティラー役に堀内賢雄さんを起用するという、ファン念願の吹替版を新たに制作した『LIFE!/ライフ[ザ・シネマ新録版]』(2月24日夜9時より放送。その後の放送予定はページ最下部にて)。作品に込めた想いをアツく語ってくれた演出家の清水洋史(しみずようじ)さんと、翻訳家の埜畑(のばた)みづきさん(ともに東北新社在籍)ですが、清水さんは吹替えの演出家であると同時に、「ルパン三世」シリーズを手掛ける音響監督でもあります。今回は「番外編インタビュー」として、吹替版ディレクターとアニメ音響監督との違いを解説していただきました!
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左から翻訳の埜畑みづきさん、ご自身のカメラを構える演出の清水洋史さん、この新録版の仕掛人・飯森盛良さん
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──清水さんは吹替えの演出もされていますが、アニメ作品の音響監督も務められています。洋画とアニメの演出の違いを教えていただけますか?
清水さん(以下:清水):セリフに関する演技・演出のテクニカルな部分で言うと、映像が先にあって、それに対して口を合わせる、ということは同じなんですよね。基本的なノウハウはアニメも外画も変わりません。リアルな演技を目指すのかデフォルメされた演技を作り込むのかというのも、あくまで作品ごとの内容や世界観に応じて決まっていくことであって、ジャンルで区分けするものでもありませんし、そうするべきでもないと思っています。
でも大きく違うのは、外画の場合はすでに作品が完成しているということ。言語は違っても、出来上がりがすでに見えている。基本的には演技プランも向こうが作って選択したものが目に見える形であるわけです。
一方アニメーションの場合は、実写映画で例えるなら、いわば撮影中のところから入るわけですよね。脚本はできている、絵コンテもできてきた、その途中の段階から僕らは参加します。具体的な収録作業の中でも、場合によってはセリフを変えて画のほうを直してもらうことだってあります。つまり、当然まだ完成形はありません。
言葉を変えれば、外画の場合は作品の根本的な価値について我々は左右できませんが、アニメーションは、オリジナルの価値を作る部分に関わることがあるというところでしょうか。アニメーションも、もちろん脚本は練られているし、収録用の映像ができている段階までくれば、そこまで根本的な価値に関わることは多くはないんですけど、でも、まだ色んなことが変わり得るんですね。そもそも演技は初めてそこで作られるわけだし。人物像の設定、役作りから始まって、どんな人格で具体的にはどんな喋り方をするのか、会話の温度はどのくらいか、演技のアイデアを積み重ねる部分の領域が広いというのはありますね。まだこの世に存在しない作品の最終的に到達する場所を考えてやっていくという意味で言えば、創造性はアニメーションの方が強いかもしれません。自分個人の考え方を盛り込んだり、独自に作り込んだり、役者も演出も、より自分が試されるというか。
外画の方は、役者・演出ともに「上質な観察者」としての能力がまず試されると思います。第一に、その映画が持っている本質や演技の一つ一つをどこまで正確に汲み取れるかということが大事ですから。そこが薄っぺらだったり独善的な理解だったりすれば、だいたい失敗します。時により面白くするためのアイデアを出すこともありますが、それもまず正確な作品把握があってこそです。さらに、実写だと生身の人間から出てくる情報量は多いから、そこに自然に合わせて見せるテクニックやコントロールも、アニメーション以上に高度なものが必要になる時もあります。役者も自分の演技だけで押し通すわけにはいきません。だって時にはアテる相手がアカデミー賞クラスの俳優だったりするわけですよ。果たしてそのレベルの演技をできるかどうかというのは、恐ろしくもあり楽しくもあり、贅沢な挑戦ですね。
外画でもアニメーションでも、ともに理解力と創造力が必要なことに変わりありませんが、その求められる中身に違いがあるということは言えるかもしれません。
──アフレコの演出という意味では、「演出」「ディレクター」という役割になると思うのですが、アニメの場合は「音響監督」というクレジットになります。これはどうしてなんでしょうか?
清水:実写の映画では、いわゆる「監督」の他にも、撮影監督ですとか美術監督ですとか、その各専門パート毎に監督という立場の人がいますよね。そして、全体の監督として「映画監督」が、それを束ねる位置にいる。まぁ、組織図で考えてみると。
アニメーションでも、呼び名は時によりますが、全体を束ねる監督のほかに、作画監督がいて、撮影監督がいて、美術監督がいて、で、音響監督がいます。ですから僕は、その「音響部門の監督」なんです。監督は脚本段階、なんなら企画そのものから作品全体を作っていきます。我々はそれが実際の映像になるときに、それぞれの専門分野の業務を担うわけです。だから音響監督という言い方は、ゼロから始まる映画制作全体を担う各スタッフの呼び名からくるものですね。
外画の吹替えの場合は、翻訳者さんから台本原稿をいただいて、それを演出意図に沿って直していくような作業とキャスティング、あとは収録時の演出というのが主な仕事で、そこで完結するんですが、アニメーションの音響監督は、まったく音のない状態から作業を始めるので、効果音だったりとか、音楽だったりとか、そこも作るんですよ。
埜畑さん(以下、埜畑):えー!?(驚)
清水:全面的にやるんです。例えば、ホラー映画のような場面で廃病院の廊下を主人公が歩いて行くとして、呼吸音はするのか、足音だけ響かせるのか音楽がかかるのか、かかるならそれはどんな音楽にするか、全部決めていく。そこへ幽霊が現れた時に不気味な音がするのかしないのか、振り向いた時に、ただ音もなく振り向くのか、衣ずれの音が入るのか。アフレコの時からいろいろイメージしながらセリフも録っていきます。
作曲家に対して音楽の発注もしますね。どういう音楽が欲しいかっていうのを検討してリストを作るんです。音楽メニューっていうんですが、例えば、1本で完結する映画の場合だったら「このカット・ナンバーいくつのシーンのこのセリフ受けで始まって、こういうテイストの音楽が、このシーンまで流れていく」と具体的に。 シリーズであれば、13話とか26話とか事前にシナリオを読み込んで、そのシリーズをやる上で必要な曲を、最低でも30〜40曲くらいは考えて発注します。「曲調はこれこれで、こういう編成のものが欲しい」とか、「こんな楽器を使って欲しい」とか、アプローチの仕方は色々ですけど、作曲家と相談しながら作っていきますね。音楽のレコーディングにも行きますし、多いときには、80曲、100曲作ることもあります。
埜畑:選曲もするんですか?
清水:します。実際にアニメーションのシリーズが始まったら、 一話一話に対して音楽をつけていく作業も自分で。今はPro Toolsというほぼ業界標準のソフトがあるので、それを使って構成を決め、編集して作り込んでいきます。
埜畑:私の想像以上でした(笑)。
清水:実は「選曲」という専門スタッフもいて、今も映画やテレビドラマではそういう方たちが入るのが普通ですが、ことアニメ業界では最近、音響監督が自分でやるケースが増えています。
効果音に関しては「効果」というスタッフがいて、音付けの作業自体は効果さんがやってくれます。これもまた専門の職人的な領域で、未だに徒弟制度で人が育つような世界です。基本的にはプロである彼らに任せつつ、演出の立場からそれを確認していくような形ですね。セリフの収録から選曲作業、効果の仕込み、それらを最終的にミックスして映像に合った音全体を作ります。その音響周り全般の演出に責任を持つので、「音響監督」なんですよね。
単純に作業量だけで考えると、同じ尺のものをやるなら、吹替版の制作よりもアニメーションの方が手数は断然多いですね。
埜畑:そんなにたくさんのことをされているとは知りませんでした……(苦笑)。
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ザ・シネマ
『(吹)LIFE!/ライフ[ザ・シネマ新録版]』
⇒番組ホームページ
放送予定日:
7/08(月)夜11:45~
7/21(日)昼12時~、深夜4時~
7/26(金)朝8:30~、深夜12:30~
放送済み:
4/08(月)昼1時~
4/17(水)夜11時~
4/29(月)夜7時~
2/24(日)夜9時~
2/28(木)朝10:45~
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