- 2017.4.1
- コラム・キングダム
- 吉田Dのオススメふきカエル
『そう囁くのよ…私のゴーストが』
膨大な数の作品を生み出し続けているハリウッドで、魅力ある原作を確保することは映画作りの生命線。ベストセラー小説はもちろん、ブロードウェイの舞台劇から往年のテレビシリーズまで、プロデューサーたちは日夜「映画化して当たりそうな企画」を血眼になって探している。
そこで近年注目されているのが日本産のアニメや特撮シリーズ。
あの『ゴジラ』はもちろん、スーパー戦隊シリーズは『パワーレンジャー』として映画化され、今度は何とあの『宇宙戦艦ヤマト』まで『STAR BLAZERS』なるタイトルで実写化が決まったとのこと。
いやさすがにこれは楽しみなような恐ろしいような…
そんなハリウッドが、あの大ヒットアニメを実写で映画化した新作が遂に公開される。
『ゴースト・イン・ザ・シェル』
© MMXVI Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co. All rights Reserved.
4月7日より IMAX 3D/2D公開
監督:ルパート・サンダース
出演:スカーレット・ヨハンソン ビートたけし
配給:東和ピクチャーズ
公式サイト:ghostshell.jp
士郎正宗の原作漫画『攻殻機動隊』が発表されたのは1989年。たちまち話題となり、95年には押井守監督による劇場版長編アニメとして『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』が公開される。その後も劇場版の第二弾『イノセンス』に加え、TVアニメやOVAとして続々と新作が作られた。
本作がここまでヒットした要因は多々あるが、やはり大きいのはその世界観だろう。舞台は科学技術が飛躍的に高度化した近未来。世界の隅々にまでネットワークが張り巡らされ、社会には人間、サイボーグ、アンドロイドが混在している。しかしそこでは、テロや暗殺といった犯罪もまた高度な進化を遂げていた――
ウイリアム・ギブスンのSF小説に端を発し、映画『ブレードランナー』を経て、『攻殻機動隊』でひとつの頂点に達したともいえる“サイバーパンク”の概念。未来都市の裏側には前世紀と変わらぬ猥雑な街並みが広がっている。その一種アジア的な喧噪は、映画の背景としては実に魅力的に映るに違いない。
そんな題材をハリウッドが放っておくはずもなく、かのスティーヴン・スピルバーグが本作の実写映画化に乗り出したのが2008年。そこから紆余曲折を経てついに今年、『攻殻機動隊』は映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』として完成した。
登場する主要キャラクターはアニメ版と同じ。主役の役名こそ草薙素子から“少佐”に変更されたが(まあ演じるのがスカヨハですからさすがに日本名じゃ、ねえ)、上司の荒巻は日本人の設定のままビートたけしが演じ、バトーやトグサといった公安9課の面々もアニメ版に忠実に実写化されている。
特にバトーなんかは原作のキャラ自体がどう見ても西洋人ですからね。原作の持つある種の“無国籍性”は、ハリウッドが世界に向けて発信する映画作りとはもともと親和性が高いのです。
が、しかし。
アニメ作品を実写化する際のハードルは、オリジナルの完成度に比例して高くなるのが常識である。敢えて身も蓋もない言い方をすれば、そりゃ二次元で描かれたキャラを生身の人間が演じるんだから無理もありますわなあ。
ざっと振り返っただけでも、鳴り物入りで公開されたアニメの実写版がオリジナルの完成度に及ばず残念な結果に終わってしまった例は山ほどあって、まさに死屍累々。
敢えて名前は出しませんけどね、ヤ○○とかル○○とか(←小声で)
今回の『ゴースト・イン・ザ・シェル』も、いかにハリウッドの大作とはいえ、あの魅力的なキャラクターたちを正しく再現できるのか?ファンの誰もが抱いているそんな懸念を一掃するべく登場するのが、今回の日本語吹替え版なのです。
草薙素子=田中敦子。バトー=大塚明夫。トグサ=山寺宏一。まさにこれ以上は考えられないトップクラスの名優たちによって、『攻殻機動隊』のキャラクターたちは演じられてきた。
現に押井監督は劇場版第二弾である『イノセンス』の製作に際し、声優陣を一新してはどうかというプロデューサー側からの提案を「彼ら以外のキャストは考えられない」と一蹴している。さすが。
押井監督作と言えば難解なセリフで有名。特に『イノセンス』では「生死去来 棚頭傀儡 一線断時 落落磊磊」なんて漢詩が何の説明もなく出てきたりする。どうだ読めないだろう。
しかしその難解なセリフが前述の名優たちの声で発せられると、その意図が確実に受け手に届いてくるのだから声優というのは恐ろしいもんです。大塚明夫氏は以前「台本に書いてある通りに読んだだけ」なんて言ってましたけどね。まあ、それはそれでまた恐ろしい(笑)
実写版のキャラクターから発せられるのがオリジナル版と同じ「声」であれば、見た目が多少(というか相当)違っていても、あの世界観は損なわれずに再現されるに違いない。
今回の『ゴースト・イン・ザ・シェル』は久々に、字幕版の補完ではなく“吹替え版で観ることを積極的にお勧めしたい”作品なのです。必見。