- 2017.4.3
- インタビュー・キングダム
CS映画専門チャンネル・ムービープラスで、「もっと吹替えで映画を観たい!」という視聴者の要望に応え、特定の声優をフィーチャーする「吹替王国」第9弾!
今回は、トム・ハンクスやビル・マーレイの吹替えでお馴染み、アニメなどでも活躍している江原正士さんが登場します!トム・ハンクス主演の『グリーンマイル』、ビル・マーレイ主演の『ヴィンセントが教えてくれたこと』、ヴィン・ディーゼル出演の『トリプルX』のバラエティに富んだ3作品を放送。
その放送に先立ち、ふきカエルでは江原正士さんにインタビューを行いました!吹替えへの取組み方などをたっぷり語っていただいたインタビューの模様をどうぞお楽しみください。
——「吹替王国」は今回で9回目の大人気企画です。オファーの印象をお聞かせください
江原正士さん:いやー、このような企画に呼んでいただけるなんて嬉しい限りですね。もう本当に、視聴者の皆さんにも、吹替えを是非盛り上げていただきたいなって思っています。ありがとうございます。
——今回トム・ハンクス主演の『グリーンマイル』をはじめとした作品を放送するということで、番組宣伝用のナレーション撮影もありましたがやってみていかがでしたか?
どんな仕上がりになるのか、完成が楽しみです。ありがとうございます。『グリーンマイル』という作品はなかなか複雑な作品ですけど、このCMのように明るくしていただけると皆さんにも楽しんで観ていただけるんじゃないかと思えて嬉しくなりますね。そして、あの作品の内容に深く触れていただけると余計に嬉しいです。
——『グリーンマイル』の吹替え収録時のエピソードはありますか?
とても大変でした!(笑) 刑務所のお話ですし、トム・ハンクスという役者は非常に集中力のある役者さんなんです。重くなる物語で、それにトム・ハンクスの芝居は集中力があるので、セリフを楽な部分に乗っけても(吹替えとして)成立しにくいんですよね。セリフを喋る前の集中力といいますか、状況とか主人公の気持ちをしっかり作って凝縮していかないと画面に弾かれちゃうんですよね。記憶は少しおぼろげですけど、あの“画”の中に入り込むまで、結構リハーサルをしたと思います。作品は何回も観ていましたね。ずーっとあの映画の世界に浸るといいますか、繰り返し観ていた記憶があります。
——トム・ハンクスは色々なジャンルの作品に出演していますが、やはり『グリーンマイル』や別の作品での役によってアプローチに違いはありますか?
全く違います。『アポロ13』、ラングドンシリーズで最新作の『インフェルノ』とも違う。『グリーンマイル』は特異な作品ですよね。『グリーンマイル』は自宅の近所の映画館で半年間くらい字幕版が上映されていたんです。まさか自分にオファーが来るとは思わなかったんで、来たときはですね、おおっと思って慌てて観に行きました(笑)。観終わって・・・こういう映画?難しそう・・・みたいに感じました(笑)、なかなか深淵なドラマですよね。
でも、この『グリーンマイル』の吹替え版をオンエアで観てくださった方は皆さん結構喜んでいただけたようでした。チームとしてもよかったですね、ドラマは一人で作るものじゃないのでチームが大事ですね。やはり出演メンバーの想いというか、演技的熱量がさらにドラマをあぶり出して。僕自身もその吹替え版を観て、感動しましたね。
——『グリーンマイル』の吹替えは、出演者の皆さんと一斉収録でしたか?
一斉でしたね。あの作品では、ソフト版とオンエア版の2つのバージョンを録音しています。それぞれキャスティングが少し違うのですが、やっぱり2回収録するって結構しんどいですよね。でも僕は基本的に2回目を録るときは、1回目のバージョンは観ないようにしています。それぞれ翻訳もキャスティングも違うので、ゼロスタートで演じています。やっぱり同じくらい疲れますね(笑)。長い作品ですが、良い作品に巡り合えて本当に嬉しいです。
——ビル・マーレイの『ヴィンセントの教えてくれたこと』ではコミカルというか癖の強いオヤジの役ですね
そうですね。ビル・マーレイも僕は随分と演じさせていただいているのですが、基本的におとぼけおじさんという役が結構多いですよね。ところが今回の映画はビル・マーレイが演技派を意識している作品という話もあって、固めの演技を要求されました。いつもの寅さん風でやろうと思ったら、「江原さん、そこまで行かないでください」って言われました(笑)。演出も入っていますが、僕が今まで演じてきたビル・マーレイのおとぼけおじさんとちょっと違うニュアンスが出てるかもしれません。ちょっと固めといいますか、きついといいますか、嫌味なオヤジ感が出ているかも知れません。
——『トリプルX』は地上波吹替え版ということでラインナップされていますが、この作品は骨太なアクションでマッチョな感じです。役作りはどのようにされているのでしょうか?
僕は吹替え作品の“画面”に入り込むと日常での仕草が、その役者の気分になるんです。まあ、そうなるまでには時間がかかるんですが。トム・ハンクスも同様です。ふと、頭を傾けた瞬間にトム・ハンクスになれるタイミングがあるんですよ。そうなったときはいけます!ヴィン・ディーゼルのときは(胸を張って)「自分はこんなにタフガイなんだ」というように多少緩慢な動きになりますね。そういったアクションが日常生活に入ってくると「ディーゼル、キテるかな?」って感じます(笑)。
自分の中にあるヴィン・ディーゼルの声は野太い系の “ドン”としたイメージなんで、それにも近づけていきます。コミカルな感じも入れつつですね。台本をいただいたら、収録が終わるまで僕はヴィン・ディーゼルになります。
——別の人格になるということですか?
別人格というよりは、ちょっとした瞬間に映画のワンシーンのようなポジショニングになっているときがあるということです。ちょっと首を傾けたときに「あ、これはトム・ハンクス、『フォレストガンプ』だ」って思ったり。そういう瞬間があると(役が)自分に染みてきているなと実感します。
——吹替え収録の同時進行もありましたか?
一番忙しかったときは一週間のうちに5本の主役作品があった時ですね、後にも先にもそれ一回のことでしたが。困ったのは真ん中の作品が誰を演じるのかわからなかったんです。仕込みのスケジュールを組む上で本当に焦りましたね、とにかく全部の作品のリハーサルをやらないといけないので。そうしたらエディ・マーフィだったんです。その作品の前にも彼を演じたことがあったのでキャラクター設定はいいとしても、セリフがとても多かった!ですので、仕込みがとても大変でした。この一週間はいつ寝ていたのかわかりませんね。やっぱり5時間は寝ないと仕事にならないですし。だからリハーサルのスケジュールを「よし、このシーンはセリフ量が少ないからここに組み込んで」という風に変えたりして、苦労しましたが収録まで漕ぎ着けました。
——色々な俳優の声を演じられてきたと思います。ご自身に近かったり、自然と入れるなと思う役者さんはいますか?
いつの間にかトム・ハンクスがそうなりました。もしかしたら一番近いかもしれませんね。あとはウィル・スミス。特に『メン・イン・ブラック』シリーズ、『アイ・アム・レジェンド』、『幸せのちから』といった作品で吹替えを担当しましたが、『メン・イン・ブラック』シリーズのやんちゃというか、坊やと言われるようなキャラクターには入り込みやすかったですね。
——『グリーンマイル』ではアドリブを加えましたか?
この作品ではあまりないです。トム・ハンクスの役柄も早口でたくさん喋る役ではなかったので。例えば他の作品のセリフで5行か6行くらいを使って話すところを、この作品では1行半や2行で圧縮したような言葉で話していたので、その分集中度といいますか、相手をじっと見つめ返してから言うような一言に重さをおく感じで演っていましたね。同じトム・ハンクスでも『ターミナル』という作品とは別物という感じです。
——先程挙げられた『メン・イン・ブラック』では、早口を意識しましたか?
あの作品では余計に早口にしている部分もありますね。ウィル・スミスについては元々ラッパーから役者に転向しているという情報がインプットされていたので、最初はそのノリをなんとか出せないかなと演じました。早く喋って切り口を良くしようとして、行き過ぎたこともありました(笑)。
——そのような対応は元々考えて収録に挑むのですか?
セリフの語尾を画と合わせるんです、口の動きに合わせるんですね。特に黒人系の場合は口を大きく開けるようなストレスのポイントがあります。それに合わせようとすると、吹替える台詞が短くなったり長くなったりします。それを微妙に調整しながら合わせていくわけですね、この作業が結構大変なんですが(笑)、演じてみて上手くいくと、「良かった!」と思います。この作業は自己満足に浸れますね(笑)。
——アドリブは収録当日に考えるのでしょうか?
色々なところで良く話すことですけど、僕がこの業界でいい加減なアドリブを言うと噂が立ったのが、ある作品で(ある)先輩から本番中に「江原、お前ここのところ、こう言ってみな」って横から指示されまして、それを言っちゃったら、主役の先輩にすごく怒られまして(笑)。その噂が広がっちゃったんですよ。「本番になったらいい加減なことを言うやつだ」って。僕はそんなひどいこと普段言いませんよ(笑)。みんなビックリしちゃいますから。広川太一郎さんの場合はリハーサルでも本番でも同じ事をするから驚かれない。そのかわりに途中でやめてくれって言われてもやっちゃいますからね(笑)。僕の場合は結構厳しく管理されましたけど(笑)。ただ、僕は駄目だって言われたことは一度もやったことはありませんよ!
あとは息遣いとか、作品の臨場感を出すために工夫をしますね。例えば、イスに座って「きみはどうしたんだ」って言うときは前後の状況によって、(息を少し吐き出すようにしてから)「きみはどうしたんだ」というように頭に息を入れたりして芝居作りをしますね。ニュアンスを出すためだったり、人物状況をもうちょっと明確にするためだったりです。それとセリフを直す場合もあります。直すといっても内容を変えるわけではなく、主語と述語を入れ替えたり、修飾語も「とても~」の言い方があまり人物像に合わないなと思ったときは「あまり~」に変えたりなどの抜き差しをします。もちろん演出家さんにきいてもらって、戻せと言われたらオリジナルに戻しますし、何も言われなければ変更したままでいきます。
——江原さんは『フォレスト・ガンプ』で最初にトム・ハンクスを吹替えられたかと思います。当時のトム・ハンクスへの印象はどのように感じていましたか?
トム・ハンクスをじっくり見たのが『フォレスト・ガンプ』だったのですが、ちょっと特異な役でしたね。僕はあえて特異な部分を避けて演じました。何回も作品を観ていると、キャラクターの喋りにクセのように感じていた部分が聞こえなくなってきたんです。ですので、割とさらっと役を作りました。そのほうが(キャラクターの個性が)出るんじゃないかなって思いまして。ディレクターさんも賛同してくださったので、あっさりめで演じています。ですので、僕が演じたブルーレイ版の『フォレスト・ガンプ』のトム・ハンクスは割とシンプルです。ただ反応が遅いだとか、相手に対して信頼感が強すぎるだとかそういう役作りはありますが、見た目からくる、こういう演技だというような表現は排除しました。ビデオの場合は作品を頭から観ていただけるので徐々に心情や作品の内容が伝わるのですが、オンエア版で同じキャラクターを演じた時は、CMが入りますので少し大仰な演技も入れキャラクターを強めに出しました。
——そこまで考えられているんですね
以前に本編の序盤で死ぬ役をやったことがあるんですけど「江原の(序盤で死ぬ役)は盛り上げてくれるからイイな」って言われて(笑)。もう後半に何かがあるように死ぬんです(笑)。やっぱりそうするとCMが明けてからもみんな観てくれますからね。僕はもう出てこないんですけど(笑)。やはり僕らの世代は、そのシーンが次に興味を強く持って繋がるようにアピールしていたような、演出家さんもそういう意識を持ってやっていましたね。
あれ?これって質問に答えていませんよね(笑)。トム・ハンクスは大変コメディも得意な方なんですけれども、とても心根の深い、心のパワーが強い方だなと感じるのと、とても紳士な方だなと思いましたね。そして演技の幅があるなと。コメディだけれども根底には人間の琴線に触れるところをしっかり持っている人だと思いました。それと同時にとても不思議な人だと思いましたね。単なるコメディ俳優だとは思っていなかったんですが『グリーンマイル』を観たときはびっくりしました。シリアスというか神々しいお話でしたからね、そんな作品に出てもおかしくないトム・ハンクスはすごいなと思いました。だからそれを壊しちゃいけないという気持ちはありましたね。吹替えを観た方が、「なんだよトム・ハンクスって」なんて思ったら僕の負けですからね。「絶対オリジナルに負けない、近いところまで持っていくんだ」というのが僕の役どころではありました。がんばりました。
——江原さんのトム・ハンクスといえば、まるで本人が日本語を話し出したかのように喋り方と声がそっくりでびっくりします。どのようにしてそこまで近づいたのでしょうか?
もう練習するんです、何回も何回も。途中で今日はもういいやって思っても「駄目だ、(収録まで)時間が無い」っと思ってやるんです。そのうち、ふと画面を見ると「あれ?ここで口、閉じてた?」って瞬間が見えるときがあるんです。僕らは台本を持って、それを見ながらマイクの前に立つでしょう。だから画面を全部見ているわけじゃないんですよ。すべてを暗記してやってませんからね。もちろんセリフをある程度覚えますが、練習を繰り返していくとだんだんと画が見えてくるんですねー「あら?こんな顔してた?」「これ違うじゃん」とかね。修正して修正して修正して、だんだん彫刻を作っていくみたいに塗り固めていくんです。
——声優さんでも声まで似せていく方は意外と少ないように思いますが・・・
声が似てるって言われても今の声は違いますよね、ある部分が似てるようではあるのです。追い込んでいけば多少違和感の無いところまでいけるのかなという感じはしますね。でも、そう言っていただけるとやはり嬉しいですね。『インフェルノ』の吹替え版が劇場で上映されましたが、劇場版って結構気を使うんですよ。口元が大きく映りますからね。アメリカで音声のミックス作業をされたようでしたが、作業した方から「いや~トム・ハンクスが日本語で喋ってますよ!」って言われて、嬉しかったですね~!これは嬉しかったですよ単純に、演じた人間としてはね。それと録音作業もありがとうございましたって思いますね。(作品を作るのは)もちろん僕たちだけじゃないですから。テクノロジーがあっての僕らの吹替え仕事ですからね。これは忘れてくださらないように。僕らが演じても、それを今度はミキサーさんやエンジニアさんの方たち音響さんのセンスが入ってくるんです。相互作業です、本当に僕らのしているのはそういう作業なんです。おわかりいただけますよね。スタッフさんがあって作品が皆さんに届くわけなんです。こういったプロセスを忘れていただきたくないのです。僕らも“声優”というメイン企画は嬉しいですが、あくまでも作品作りの1ピースとしてがんばった結果です。あとは皆さんに盛り上げていただいて、「観て良かったー!」って言われたら、その時が「やったー!」って思える瞬間なのです。
もちろん最初は僕らがデータとして、しっかり台詞や芝居を入れますが、その後は増幅してくださる方々による力なんです。「録音よろしくお願いします!」って祈るばかりです。ですので、僕らの最初のデータ作り、それがトム・ハンクスでも誰の場合でも、そのデータ作りはきちんとしっかりやろうというのが僕の姿勢でありポリシーです。
——色々な作品でトム・ハンクスが別のキャラクターとして演じていますよね。その場合はやはり1から成りきっていくのでしょうか
作品によって若干違いますね。『ロード・トゥ・パーディション』の時は感じが違いますし、『ターミナル』では陽気な外国人みたいな感じです。ラングドン教授のときは「え、二枚目!?え、教授!?困ったな、教授に見えなかったらどうしよう」って思いましたね。一生懸命、俺は教授だ、控えめな教授だ、と思いながらやってたんですよ(笑)。そうやって作っていくしかないんでね。試行錯誤の連続です。ただ、録音する収録日という区切りがあるので、「うわぁ・・・」っていう気持ちで入るときもあります。完璧で入ることはないですね。「しょうがない、やるしかないよな」って。止まらない、賽は投げられたって感じですね。
——後編につづく——
後編では、江原さんが演じようと思ったきっかけや視聴者、声優を目指す方へのメッセージをお話しいただきます
[プロフィール]
江原正士(えばら まさし)
5月4日生まれ。神奈川県出身。
声優・俳優・ナレーターとして活躍。
トム・ハンクスを始め、ウィル・スミス、ウェズリー・スナイプス、エディ・マーフィ、ビル・マーレイ、ロビン・ウィリアムズなどを持ち役としている。
多彩な演技の幅を持ち、洋画のみならず、アニメーション・ゲーム、TVのナレーション等でも活躍。シリアスな役柄からコメディまで、どんなジャンルでも幅広くこなす。
ふきカエル“凄ワザ”プロジェクト第2弾『危険戦隊デンジャー5 ~我らの敵は総統閣下~』では、43役を担当した。
※この特集の放送は終了しました
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「吹替王国 #9 声優:江原正士」