- 2016.8.16
- インタビュー・キングダム
CS映画専門チャンネル・ムービープラスで、「もっと吹替えで映画を観たい!」という視聴者の要望に応え、特定の声優をフィーチャーする「吹替王国」第7弾!
今回の第7弾では、40年以上のキャリアを持ち、声優・俳優として活躍する樋浦勉さんが登場!ロビン・ウィリアムズを吹替えた『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』、破天荒なキャラクターで登場するジョン・マルコヴィッチを担当した『RED/レッド』『REDリターンズ』、ハードボイルドなブルース・ウィリスを樋浦さんが演じる『シン・シティ』とその続編『シン・シティ 復讐の女神』の計5作品を連続放送。
その放送に先立ち、ふきカエルでは樋浦勉さんにインタビューを行いました!長く活躍を続ける秘訣や吹替えの魅力を語っていただいたインタビューの模様をどうぞお楽しみください。
——まずは「吹替王国」に樋浦さんが選ばれた感想をお願いします。
樋浦勉さん:「弱っちゃったな」と思いましたね。冠に「樋浦勉」なんて書かれているじゃない、そんなの恐ろしくて「やだなぁ、逃げ出したいなぁ」と実は思ってましたけど。でも、お祭り騒ぎのようにわーっと盛り上げていくためにはなんでもやるのが良いと思います。ありがたいことです。嬉しく思ってやらせていただきました。
——この特集ではこれまでに6名の声優の方々が取り上げられています。他の方の番宣CMはご覧になりましたか?
普段はテレビも観ないもんだからわからないんだよね。だから今度からムービープラスを観られる環境にしようと思うんですよ(笑)。
俺が吹替えを始めて45、6年、俳優をやり始めてからはもう50年以上になりますが、ここまで続けてくることができて本当に恐れ多いことでございます。
——今回の企画CMの収録はいかがでしたか?
「こういうことやるから観て頂戴よ」ってね。俺は人物を演じる分には問題ないんだけどね、「俺、こういうことをやってるよ、観てくれよ」っていうのは堂々とできないね。アナウンサーの方にきれいにやっていただく方がみんな観てくれるんじゃないかな(笑)。俺の声で「観ろよ~」なんて言ってもちっとも面白くないからさ、かえって観なくなっちゃうんじゃないか、やべーなー、なんて思ってますよ(笑)。
若い頃はそれなりにかっこいい声も、二枚目を意識した声も出せたけど今はもう出ないよ。出ないから逆に良くなったとも思えるし、駄目になってるといえるところもあるけどね。例えば映画でいうとまずはビジュアル。格好良くなくちゃ、二枚目じゃなきゃとか条件がありますよね。声でもやっぱり格好良いとか綺麗だとか、しびれちゃう声やセクシーな声といわれるような良い声ね。でも、俺は俺の声で、他の人がどう考えてどう感じてくれるかはわからない、だけどどう思ってやろうと考えても俺の場合は上手くできないから「こういう声です」って昔からやってきましたね。ただ、若い頃はそれなりに格好良い役もあったから恰好つけようって思ってました。でも本当は好きじゃない。格好つけるんじゃなくて、それも条件の一つであるかもしれないけど、今はそこにいるなって感じがいいね。樋浦勉っていう声の人がいるんだな、って観てくれればいいなぁ。でももっと観ようってお客さんがたくさん来ちゃって俺がアイドルになっちゃったらまずいもんなぁ(笑)
——久しぶりに『シン・シティ』のブルース・ウィリスや『RED/レッド』のジョン・マルコヴィッチを演じられていかがでしたか?
思い出しつつ、バッ!てやるのがとにかく面白かった!特にブルース・ウィリスの『シン・シティ』は俺も好きな作品で、その頃は俺が年取ってからの仕事だったからそれなりに自分らしく、ブルース・ウィリス風ではなくてハーティガン風になれればいいなと思ってやってました。ハーティガンっていう人が俺みたいな声をしているかもしれないし、ちょっとぼろぼろになりながら本当は格好悪いのかもしれないけど自分では格好良いと思っている人、若い女の子に慕われる足長おじさんみたいな感じの立場、あれはいいなぁって思ったね。まさか2本目があるとは思ってませんでした。『シン・シティ』にしても『RED/レッド』にしても端役だからね。だから今回の企画で呼んでもらえて嬉しかったです。ウィリスは喜劇や、『シン・シティ』のときの根暗なおっさんや、ギャングも演じていて、中々名優でございます。
マルコヴィッチは「ワァァァ」「ぼえぇぇぇ」とか色んな声を使ってもいい人物だと思うから、やっていて楽しいです。百面相みたいな顔してやってますよね。ハチャメチャですよね、それが面白いですよね。でも、ハチャメチャな役を演じるっていうのは結構難しいところでもあるんですよ。真っ当な日本語じゃなくなる場合があるからね。「そんなイントネーションないんじゃないの?」ってこともあるから。そこを外れない範疇で自分が羽ばたくようにできるやり方を、反省の材料としても持っています。演じるときはただ思いっきり楽しんでます。
——ロビン・ウィリアムズはいかがでしたか?
ロビンも色んな役をやらせてもらいましたね。『フック』では二枚目にやってることもあるし、『レナードの朝』は非常に感動しましたね。ロバート・デ・ニーロと二人でやってて、自信のない医者の役だったからあまりぺらぺら話さないんだよね。薬を発見したときに「これはなんだ!」ってなったときに覚醒するような面白さがありましたね。声がロビンに合っているかどうかは俺にはわからない。俺はブルース・ウィリスだからこうやろう、マルコヴィッチだからこうやりたいとか、ロビンだからこうやろうとはあまり思わなくて、そこにいる人物をいつも追っかけて観ていたい、演じたいと思っています。ある程度この人らしい声っていうのはあるんですよ。でもそのときにロビン・ウィリアムズだったり、ブルース・ウィリスの声を狙って出してるわけじゃないんです。声をやってるからってその人に追いつくわけではありませんしね。だから、いつも勉強させてもらってます。造形された人物像に俺の声を使って協力して、さらに造り上げるという感じかな。
——ブルース・ウィリスは『ダイ・ハード』が最初ですか?
『ダイ・ハード』は全部のソフト版でやらせてもらってますね。『ダイ・ハード/ラスト・デイ』だけは、「吹替の帝王」という企画でやらせてもらったので、結局『ダイ・ハード』は全作品演じています。
『ダイ・ハード』の1作目は劇場でも観たけど、ぶっ飛ぶくらい面白かったねぇ。
『ダイ・ハード』は飛行機で流す用の吹替えのお仕事をいただいていました。飛行機用、VHS用と吹き替えたんですけどテレビだけ欠けちゃったんだよね。当時のテレビの制作の人たちは、すでに商品になったものと同じ役者・声優を使うことをあまりしなかったんですね。そこでTV版は野沢那智さんでやったら野沢さんが上手かった、それで流行って世の中に浸透した。村野武範さんがウィリスを演じたときは本当に二枚目の声でね、二枚目らしくやった。俺の場合はとっつあんらしくっていうかね、とっつあんらしくやろうと思ったわけじゃないけど(笑)。
2作目からはマクレーン刑事がスーパーヒーローのようになっちゃってね。ジャンボの翼から飛び降りたら普通死んじゃいますよ(笑)。1作目のときはどんな活劇や怖いことがあってもそれを納得させるような伏線がありましたよね。ホースを巻きつけて高いビルから飛び込んで助かるなんてこともあるかもなって思わせる。ガムテープで首の後ろにピストルを貼り付けるシーンなんかはあんなに汗をかいていたら貼りつくわけがない(笑)。でもそれを納得させるすごさ、エンターテイメント性がすごいなって思いましたね。それほどすごい作品をやらせていただいて、嬉しいなと思ってやってました。『ダイ・ハード』はアクション映画に括るべきじゃないよね。『ダイ・ハード』が1つのジャンルになってますよね。
——樋浦さんが吹替えを演じる場合は、声をアテる俳優の演技を観て、役の研究をした上で挑まれているのでしょうか?
ブルース・ウィリスを研究しようとは思ってないんだよね。そういう与えられた材料しかないから、その作品が続いてどうなるかはわからない。その時にいただいた作品の世界をどれだけ切り取れるか、拡大できるかを意識しています。
——作品にはどのようにアプローチをされますか?
つまんないときもあるからねぇ(笑)。そんなときは「つまんねぇな」って思ってやるしかないです(笑)。でも、その作品の中に何か構築されているものがあるんです。つまらないとしても何かで苦労して作品を作ってきてるから、それを探してやりたいなと思っています。何かは必ずありますよ、面白いと思えるものが。それは俺だけが思う面白味かもしれませんし、あまり人には押し付けられないけどね。それを取っ掛かりにすると、そこから跳ねていけることもあるんです。
でも、面白く盛り上げるっていう芸が俺の場合はできないねぇ。広川太一郎さんがいらした時代にはね、的を外さないで色々やるから面白かった。
ときには、的を外しちゃっても全然良いや、全体でドタバタにしちゃえって作っていたこともあったんだけど、それを面白くやるというやり方ならそれはそれで俺は良いと思う。だけど、そういうやり方は多分俺には向いてないかな。今回のマルコヴィッチとブルース・ウィリスを比べるなら全然役柄が違うし、こういうキャラクターだからこの声を出すというアプローチをするのではなく、自然となるんだよね。
——アイドル的な扱いを受ける声優ブームのような最近の動きに対して何か思うことはありますか?
これだけ多様化しちゃっていろんなものがあるんだから、興味はなんであろうと、俳優の仕事だろうと、声優の仕事に限らず注目されたり、ブームになるのは全然構わないよ。それに溺れないように頑張っていきなと思うね。つまり、どうしても新しい魅力のほうが勝っちゃうからね。どんどん新陳代謝を求められちゃいますから。その中でなんで残っているのかなと。俺は何で残ってるんだ?さっぱりわかんないね(笑)。
——俳優と声優をやるときご自身の中で切り替えたりすることはありますか?
それは声優と俳優って切り方かな?もしそうだとすると、声優は武器が声だけしかない。それに対して俳優はルックスとかがあるから、こっちのほうが表現力は豊か。あるいは、何もなくても通じる。声優は声だけでやっていく。特に吹替えなんかはオリジナルがあるから、オリジナルに対応したり負けないように向こうの人みたくやらないといけないな。答えになっているのかな(笑)
——俳優のときは監督がいて演出されていますが、逆に声優の吹替えのときはある程度自分で考えていかないといけないのでしょうか?
いいや、それは声優の現場も同じで、そこに行けばまず演出家の方がいらっしゃるわけですから。その演出家も自分の作品ではないからね。その演出家さんがその作品をどう切り取ろうとしているか作品によって違うよ。メッセンジャーとしてやるのか新しいものを構築しようとしているのか色々違うと思うんだけど。まあ、その時に注文を出してくれる司令塔は演出家ですから。演出家に言われることが一番気になりますよ。自分の解釈が間違えてるかもしれないので。自分の思い込みっていうのももちろんあるんだよね。最初は手掛かりがないんだけど、まず演出家さんに言ってもらえるとそういうことでやろうとしてるのかとか、他の俳優さんの声を聴いて色々と発見することがあります。そういうものは大切にしないといけないと思っています。
——昔の収録では出演者で作品を一回観て、台本に気付いた事を書きこんで、すぐに演じるという感じだったと伺ったのですが
今みたいな1時間くらいのインタビューを受けていて、そのあとすぐ本番みたいな感じですよね。映画館へ行って観てきたものをすぐやる。ただ、台本はできていますから。でも、台本の文字だけを見ていたら絵を観ていられなくなっちゃいますよね。台本は事前に読んできて、絵は映像としてその時だけ観て、「面白かったね」とか「つまらなかった」とか「あそこがすごい」とかそれくらいしか分かってなかった。あとは台本を持って練習しているだけかな。それで現場に来て声だけ出してみると、演出家といっぱいコンタクトを取ってダメなところを洗い出していきます。やっぱり一回観ただけでは完璧に理解できるわけではないですよね。
——今は事前に準備されるのですか?
はい。やりすぎちゃう場合もあるかもしれません。ただ、それは自分の気が小さいからですね(笑)。いっぱいやらないと心配で。そうすると、あっという間に三日くらい経っちゃいますね。主役なんか振られたらそれくらいは最低限やらないと。昔は一回観ただけでできていたから今だってやればできるのかなって思うけど。やっぱり観るたびに見落としてる部分とか見つかるわけですよ。そうするともっと観ないといけないなとも思うわけですよ。でも、本当はどっちが素晴らしいのか分からない。「えいっ」と切り換えたほうがいいときもあるわけで、それは俺が決めることではないんだな。やっぱり、その時の演出家の判断も大きいだろうね。俺が来て、「お前練習してきてるからつまんない」って思ってるときもあるかもしれない。練習いっぱいやったからこそ分かってるってこともあるだろうし。
——今回の『シン・シティ』『RED/レッド』『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』は事前に準備はされたんですか?
『グッド・ウィル・ハンティング~』の場合はVHSだったかな。『RED/レッド』は2作品ともDVDでもらったと思いますね。『シン・シティ』はもうDVDになっていたのかな。もう、何度も稽古したジャンルですね。一回観ただけとかではないです。
——現場で実際に他の演者さんと共演していく中で変化とかもありますか?
そうそう。それは当然ある。
でも最近は一人だけブースに入ってやる仕事も多いね。しかも、注文がきついんだよね(笑)。向こうの人は日本語分かってるのかなって言いたくなるんだけど(笑)。
ブースで一人きりの時、他の演者さんの声は、オリジナルの英語だけど、聞こえてくると集中できて良いって場合もあるのね。集中して深まる。でもその代わり、うんと手間がかかるよね。その演出家の人が「それは違っています」「それはそのままで」みたいに全部を役に当てはめないといけないから。その場合、ライブの感覚ってないじゃない。「それはいいです」って全部考えないといけないから。俺ら役者はオリジナルに近づいてるなって感じでやってますけど。
——『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』とか『シン・シティ』では、複数人でワイワイというよりは、じっくりと相手のキャラクターと向き合うといった感じでしょうか?
『シン・シティ』の時は、ギャングがいっぱい来てわあわあしているでしょ。俺のところだけ録っているわけじゃないから。そんな時は、わあわあギャーギャーです(笑)。
——『RED/レッド』という作品は主要メンバーが複数人いますね
『RED/レッド』は2日くらいに分けて録っていたかな。でも特に仲間が、というイメージはなかったね。続編ができるとは思っていなかったから。ただ、つながっているからチームという意識はあったかな。そういう仲間意識みたいなのは、暗黙の了解であったかもしれない。
だけど演出家も変わるからね。1作目の『RED/レッド』をやった時と続編の『REDリターンズ』をやった時は「あー違うな」という感じはもちろんありましたよ。でもそれはそれで面白いかな。
——これまでに吹替えた俳優さんの中でこの方は非常にはまり易いという役者さんはいましたか?
リチャード・ドレイファスはすごくはまりやすかったんですね。でも最近はやってないです。マルコヴィッチははまりやすいです。ブルース・ウィリスとデニーロは作品によりますね。
『ラスト・ボーイスカウト』って言う作品があったんですけどね、あの作品は『ダイ・ハード』を捉えて作ってるみたいなやさぐれた感じがすごく良くて、シークレットサービスでそれに失敗したかなんかで私立探偵になって女房にも逃げられみたいな。それが『ダイ・ハード』の役に似てるんだけどさ。そういうのは演じててすごく面白かった。
ブルースは最近全部俺のところに来ちゃいますけど本当はそうじゃないほうが良かった作品もあると思うな。
——色々な方と沢山共演されていますが、その中でこの人はすごいなと思う方はいますか?
あのね、みんな素敵なんですよ。その中で誰がすごいなんていうのももったいないみたいな人たちばっかりだから。その中で好きだって言う人はいますよ。もう亡くなっちゃった大塚周夫さん。この人とはね、テレビに映るほうでも一緒に仕事したことあるんだけど、かっこいい声、いい声だとは思わないんだけど(笑)、がらがら声だし(笑)。でもチャールズ・ブロンソンの『雨の訪問者』なんか一緒にやらせてもらったけど「ああ、いいな」と思って。うん、こういうことができるようになったら良いなと。その頃は俺が40歳手前くらいになりますかね。
いまの仲間内だと年齢はちょっと下になるけど堀内賢雄さんとか山寺宏一さんはすごく上手だなぁ。あんなふうにできたら良いよね。格好良い声も出るし。格好良い声、俺は出ないからな(笑)。
でもまあ、じいさんになっても俺は俺の声で“アリ”だよなって。そういうのがいいと思ってるんだけど。どうですか?(笑)
——いま挑戦してみたい役などはありますか?
格好良いっていうのは常にやりたいと思ってるんですね。それは二枚目をやりたいとかじゃないから。格好良いっていうのは、人に何かを訴えていく役。だからそういうのだと、特になんとかっていうのはないんだけど、文芸物とかそういうんじゃなくてハードボイルドとかサスペンスとかそういうほうが俺に向いてるのかなって思う。
——そういうのが得意ですか?
得意ってワケじゃないけど、なんか自分の心に響いてくるみたいなところはある。寂しさ抱えながらがんばってるみたいな、それでうんと厳しいところ言ったらハチャメチャやっちゃうみたいな。人殺しとか平気でやるんだけれども、実はいっぱい背中に抱えてるみたいな。
——ちょっと影をもっていたりとか、伏線をもってるみたいな?
そりゃ、ハーティガンになっちゃうけどね(笑)
——逆に樋浦さん自身が影を持っていたりしますか?
俺は影だらけよ(笑)。本当はこんなことしてないで帰りたーい(笑)
ただね、もたないんですよ、こうやってキャーキャー言ってないと。こんなことを自分の考えでまとめて言おうと思うとね、本当は30分くらいもらって沈思黙考の上で話さないと(笑)。
——吹替えの魅力について教えてください。
やっぱり、さっきから言っていることと同じだな。そこにある、そこに憑依できるって事。自分が作ってる場合はないんだけど、これは作品があるからそこに憑依するって言うのはわりと楽しくできる。
あの北野武監督のもとで映画に出ている時。生で出てるときは何を作っていいかわからないんだけど、って言いながら終わっちゃうていうところがあるんだけど。それから、何かを作ろうとして作ってもあんまりいい結果も出ないんだよね、そこにいるだけで良いんだぞみたいな。境遇とか技術とかを持っているみたいな人じゃないと、そこにいるだけではなかなか難しい。
それが吹替えの場合は、オリジナルが存在してくれるからそれをお手本にして作品の底に迫ることができる。作品に魂はそれぞれあるじゃないですか、善玉悪玉は自分の中にもね。心って言うのは幅広いわけで。それをスケールアップしていく作業なんだけど、それは吹替えだとやりやすいかなって。だから俺は好きなジャンルです、吹替え。
——ご自身で観られるときも、最近は結構吹替えをご覧になるそうですが?
最近は観る機会が少ないです。映画館に行ったりもしてない。でも、何か借りてきて観る時は吹替えにしますね。やっぱり、情報量が今は多くなりすぎちゃって、字幕を追ってたらちょっと追いつかないところがありますなあ。それから、やっぱり吹替えはレベルアップしたと思うんです。日本はとてもよく進歩したわけですよ吹替えの世界が。とりあえず原語がわかんない人にボイスオーバーみたいに伝えるだけの吹替えもヨーロッパにはあったりすると聞くけど。日本の場合は特別なのかもしれない。例えば『ダイ・ハード』には3人の吹替えがあるみたいな。それがそれぞれ面白いと言われていてね。そういう土壌が日本にはあるのかな。
——2016年は日本で吹替えが始まって60年を迎えますが
60年か。俺が始めてからは45、6年!途中、映像のほうだけ行ってたりしたこともあるし、ずーっと吹替えだけ追っかけてたわけじゃないから、自分はちょっと特殊な立ち位置かもしれないなぁ。だって、声優という風に括られる方は、皆さんたたき上げでね。そんな人たちに比べりゃ、数をこなせてはいないんだけど、それはそれで俺は非常に感謝というかね、ある意味ではいい思いをしてこれたかな。役をもらえて、本当にありがたいし、ラッキーだっていうことかもしれないな。
——40数年、業界で今もなおご活躍されていますが、長続きの秘訣はありますか?
それは、わき目も振らずやることですな。仕事がないときでもわき目を振っちゃいけないんで、うん。そうするとやっぱり求められますよ。そう思ってやってますけど。そんなに甘いもんじゃないかもしれないけどね。魚河岸で働いてたころもあるんだよ。でも、上手いこと続けてきて、ラッキーにも今はちょっと年金もね。ちょっとだよ(笑)。まあ、でも俺はそういう俳優だ。生活感のある俳優だよ。
——この「ふきカエル大作戦!!」は声優を目指す方にも多くご覧いただいています。そういう方たちへ、アドバイスをお願いします
まず、滑舌は良く!これは基本の基本です。でも、良い声を練ってつくろうとは思わないで、良い人物って何かなと洞察できるか、どうやったらそっちに迫れるか、そういうことを研究できる人になってもらいたい。俺はそんな良い声じゃないけど。良い声の奴はキライ!(笑)ちきしょうっ!(笑)
良い人物っていうよりも人物に着目して欲しい。良い人物も悪い人物もいるし、奥深い人物もいれば薄っぺらいな~って人物もいるし、そこに描かれた人物。俺じゃない、樋浦勉じゃない、『シン・シティ』のハーティガンなり、『RED/レッド』のマーヴィンなり、そういう役に憑依できる人物。吹替えは声だけを使ってやる仕事だけれども、それもやはり憑依できたら良いと思う。憑依できない、つまらないものはやらなくていい!とか思っちゃうけどね、与えられたらやるんだけどさ(笑)。
そういう憑依をどうやったらできるか、計算してもとてもできないから、自分が興味湧くことを見つけて、そこへ行く。そういうことを探すことができる人になってもらえればいいな。
——最後に観てほしいところなど、視聴者の方に向けてお願いします
もちろん観たら分かることだけども、マルコヴィッチ、ウィリスだけではなくハーティガンなりその他の声もどういう風に変わってるかを気にして追っかけて聴いてもらえると俺としては嬉しい。こう観たら面白いとかは分からないけど、それが俺の願いですな。
[プロフィール]
樋浦勉(ひうら べん)
声優、俳優で活躍。
1月25日生まれ。東京都出身。
青年座映画放送に所属。声優として、ブルース・ウィリス、ジョン・マルコヴィッチ、ロバート・デ・ニーロ、リチャード・ドレイファス、ロビン・ウィリアムズ等を持ち役とし、正義の味方から悪役まで幅広い役柄をこなす。俳優としても数多くのドラマ・映画に出演。2015年公開の北野武監督作品『龍三と七人の子分たち』に出演。話題となる。
※この特集の放送は終了しました
CS映画専門チャンネル・ムービープラス
「吹替王国 #7 声優:樋浦勉」