- 2016.4.7
- インタビュー・キングダム
CS映画専門チャンネル・ムービープラスで、「もっと吹替えで映画を観たい!」という視聴者の要望に応え、特定の声優をフィーチャーする「吹替王国」第5弾!
今回の第5弾では、ダンディな印象で声優・俳優として活躍する山路和弘さんが登場!これまでほぼ全ての作品をFIX声優として山路さんが演じているジェイソン・ステイサムが主演の2作品『ハミングバード』『リボルバー(2005)』と、クリストフ・ヴァルツ主演のセリフ劇『おとなのけんか』、レア・セドゥ、ヴァンサン・カッセルによる2014年制作の実写版『美女と野獣(2014)』、アル・パチーノが円熟味を増した渋さで魅せる『ミッドナイト・ガイズ』の計5作品を一挙放送。
その放送に先立ち、山路和弘さんにインタビューを行いました!笑いを交えながらも真摯に語ってくれたインタビューの模様をどうぞお楽しみください。
——声優業界のレジェンドといえる皆さんを特集してきた「吹替王国」ですが、その第5弾として山路さんが選ばれた感想をお願いします。
山路和弘さん:とても晴れがましいです。自分が選ばれたときは「なんでだろう」って思いました。それだけ長くやってきたのかなって感じましたね。これまでに「吹替王国」で特集されてきた皆さんの番組宣伝CMを拝見しましたが、玄田さんの動画を観たときは笑い転げましたね(笑)。
——今回の番組宣伝用CMの収録は、瞬時に色んな役者に切り替えなくてはならないというものでしたが、収録していかがでしたか?
続けて録るといかに自分が同じ演技をしているのかばれますね(笑)。一生懸命違うように演じたけど、全然違ってなかったかな(笑)、けれど楽しかったです。全然違う言葉を入れたりすることは嫌いじゃないですね。
——山路さんといえばジェイソン・ステイサムは外せない俳優だと思いますが、ずっと声を演じてこられて、ご自身の中で変わってきたものはありますか?
僕自身は変わらないですね(笑)。もうちょっと変わってみたいですけど(笑)。人って案外成長しないものじゃないですか。それをすごく感じていますね。
『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998)から20年近くステイサムを演じてきましたが、ステイサムは以前もっと“サラサラ”した演技をしていた印象で「何者なんだろう」って思っていました。今は“ギトギト”してきたような感じがして、デビュー当時を懐かしんで、あの頃も良かったなぁと思うこともあります。
長く同じ俳優の声をやっていると、どんどん上手くなっていくな、という人もいますね。例えば『シュリ』『大統領の理髪師』などのソン・ガンホはだんだん役者として磨かれていくのが見えて、悔しいと思うことが一時ありましたね。
ソン・ガンホのように明らかに変わっていく人もいれば、ステイサムのように、最初は“サラっと”した印象でしたけれどその後は大きく変わったりしていない人がいますよね。ステイサムは人としての“色”の重みがとても出てきていると思いますが、芝居の中で「うわっコイツ上手いな」というワザを使うタイプではないので劇的な変化はしていないように思います。
アル・パチーノについて、僕自身が若い頃は『スケアクロウ』という作品のイメージがとても印象的でしたが、僕が最初にアル・パチーノをアテた『スカーフェイス』の悪役がすごく強烈だったので、僕の中では悪役というイメージでしたね。『ゴッドファーザー』のアル・パチーノはどうやってハマろうかと考えながらアテましたね。歳を取ってからは薄汚れたような感じが好きなんでしょうね。自分の居場所を見つけたのかな。
——アル・パチーノやクリストフ・ヴァルツのように作品によって演技が大きく変わる役者や、同じ役者だけれどまったく異なる役柄を演じる際には、演じる難しさや技術の部分を意識しますか?
すごく意識します。アル・パチーノはすごく上手い人で色んなことができる人じゃないですか、やっぱり自分の色をとても大切にしている方だと思いますね。クリストフ・ヴァルツも同じかもしれないけれど、彼はちょっと自分を違うところに置いているような感じがしています。僕はそれが好きで、彼をアテるときはそれを楽しみでやっています。答えになっているかはわかりませんが、自分の楽しみとして彼らを見ているような感覚です。その人の変わり方もそれぞれに種類があって。本当に彼らに教えてもらっているなと実感しますね。
——ステイサムを演じるときに気をつけていることはありますか?
ステイサムのときは本当にあまり考えていないですねぇ。割とこのままでいこうと思っているので。でもステイサムが“クッ”といくときがあるじゃないですか(笑)。ああいうときはちょっと違いますが、普段しゃべっている時は変わりません。
——声優としてのアフレコ現場と俳優としての舞台等の現場では全然違うように演じるという方もいらっしゃいます
あぁ、それは、コレ(ご自身の腕をぱんぱんと叩く)があるんでしょうね、その人は(笑)。それは大変だもん(笑)。
声優として僕が演じる役はダラっとした役が多いですね。私生活が乱れているだとか、ドロップアウトしたとかいう設定が多いので、はっきりしないしゃべり方をするんですよね。はっきりしないけど言っている内容がわかるように、声優としては考えて芝居をしないといけないので、そこは自分の中で戒めとしています。
——山路さんは声優よりも役者としての活躍が先だったと思いますが、声優になられたきっかけはなんだったのでしょうか?
キャリアは舞台系から始まっていますが、某TV局のプロデューサーが芝居を観に来て、「お前やれ」みたいな話しになったのがきっかけです。
昔って、外画に声をアテるっていうのは、皆で集まって、1本映画をフィルムで観て、あくる日に皆で“せーの”で収録をやってたんです。その頃にも1回アフレコに行ったことがあるのですが、タイミングが全然わからないわけです。オフの日に参加している舞台系の役者ばかりだったので、「いつ入る?」「終わったの?」みたいな感じになってしまって、声優は無理だと思っていました。それがある時から、そのプロデューサーから声を掛けてもらうちょっと前ですかね。ビデオをもらって家で事前に準備できるようになって、「時間をくれるならやってやるよ」みたいな復讐心も燃えて(笑)、なんとかものにしてやろうと、そこから始まった感じですね。
それが、何年前だろう、30年前ですね。声優としては遅くて、34、5歳くらいから始めましたね。
——吹替え声優の面白さはなんだと考えますか?
僕が声優をやり始めたときにそのプロデューサーからもらった役が変態役だったんですね。それが犯人の役で、演じてすごく楽しかったんです。舞台をやっていても、悪役を演じるのは好きなんですけれども、その感覚は声優も一緒だなと感じたところが面白さですね。楽しいのはやっぱり悪役だな、これだったら続けられるなって思いました。最近は良い役が増えてきているんですけれどね(笑)。
——悪役の楽しさとはなんですか?
出てきただけで観客の嫌がる匂いというか、空気を感じたとき、我々の商売としてはそれがたまらない蜜の味なんです。悪役のほうが楽しいですよ。昔、水上勉さんの動物ばかり出てくる芝居で“蛇”の役をやりまして、僕が舞台から客席をなめ回すように見ていくとその動きに合わせて観客が顔を背けるのを見たときに「これはやめられないな」と思いましたね(笑)。悪役には観客がどこまで嫌がってくれるだろうかと追究する楽しさがあります。
——山路さんはご自身の声にコンプレックスがあったとうかがいましたが。
すごくコンプレックスがありました!役者の養成所に通っていたときも、周りは凛とした声のいい人たちばかりで、その中で僕のガシャガシャ声で「お前の声だけ聞こえないんだよ」ってよく言われました。だからまさか声を使って商売ができるとは夢にも思いませんでした。
今でももうちょっときれいな声が出ないのかなと思うことはあります。たまに歌が収録であるときは、艶のある声っていいなぁって思います。未だにコンプレックスはありますよ。
——今回放送される映画の中で印象的なシーンや大変だったシーンなどありましたか?
『ミッドナイト・ガイズ』は馬鹿なシーンがたくさんあって(笑)。楽しかったです。『ハミングバード』は、イギリス映画でヨーロッパの匂いが強いじゃないですか。何とも言えない静けさがあって大好きでした。髪も長いし(笑)。演じる上ではいつものステイサムでしたけど、映画としての空気感が他のステイサム作品と少し変わっていて印象的でした。『おとなのけんか』は舞台でやってみたいと思う作品です。収録では付き合いが長い人たちとやったので息を合わせるという面ではやりやすかったですし現場も楽しかったです。ただクリストフ・ヴァルツは演技が上手いから難しくて(笑)、そこらへんは苦労しましたね。
——収録に入る前に映像を観る以外で役作りを行うことはありますか?
あまりしないです。映像で観るのは、自分が好きなところは絶対に外したくない、この役者のこの顔は絶対いただこう、そういう観方ですかね。
——演じる俳優のどういうところを一番に見ますか?
息遣いもありますが、やっぱり眼、表情ですかね。あそこで何で横を見ているんだろうとか、そういうことが気になってきますね。逆算していったりして、あそこでこうでないと、ここに着かないな、ということが出てきたりして。余裕がないときはあまりそれができないですけどね(笑)。余裕があるときはそれが楽しい作業になりますね、面白い映画であればあるほどね。
——ドラマ出演や声優のお仕事で忙しいかと思います
あまりにも忙しいときは美術館にでも行って頭を休めた方がいいかなと思いますけどね。
——外画の吹替えのほかにもアニメやゲームの声優もやられていますが、違いはなんですか?
アニメは音がないことですね(笑)。
外画の吹替えは音があるのであまり神経質にならないのですが、アニメはシーンとしている中で声をアテるので、つばを飲む音すら聴こえてしまうんじゃないかと緊張しました。アニメは20代の頃に1回だけやったことがありまして、そのときは自分にはできないとアニメ声優からは逃げました(笑)。今では大分緊張はとけましたが、現場では若い声優さんが多いから黙っておとなしくしています(笑)。アニメは向こうの声も音もないから横の人というか相方の声が直に感じられます。ゲームでは一人で収録することが多いので、自分でじっくり向き合っていると感じます。それぞれ違うところがあって面白いですね。
——様々な収録現場の中で居心地がいいと感じるのはどういったときですか。
案外ゲームは居心地がいいですね(笑)。「ゴメン、もう1回!」っていうのもやれるから(笑)。連係プレーになると、自分のミスで収録を止めるわけにはいかないと色々と気を使うじゃないですか。ゲームアフレコは個人プレーに走れる感じがします(笑)。
——吹替えの魅力は何だと思いますか?
自分が演じていて楽しいというところじゃないですかね。あたかも日本語が上手い外国人のように、自分が演じている時間に浸っていることが楽しいじゃないですか。ふと気がつくと不思議な感じがしますよね。
——ご自身が吹き替えをされている映画を観るときに何か感じますか?
自分が出ている芝居の映像を観るのはものすごくイヤなんですけど、吹替えした作品だと「上手い上手い」って(笑)。不思議と自分が出ていないというか、芝居はこの俳優たちが作っているという感覚があるのかもしれないですね。
芝居を一から作るのではなく、演じている人たちの気持ちになって声をアテていくということだから少し引いて観ているのかもしれません。
——普段は映画を吹替えでご覧になりますか?
僕らの世代に多いと思いますが、普段は字幕で映画を観ます。最近は吹替えにも慣れましたけど、最初の頃は「これあいつが声やってるんだよな」って声優の顔が浮かんでしまっていました。参考のために観ることもあまりないですかねぇ。人によって演技の仕方は全然違いますし、その人にしかないものだと感じてしまうので。参考にするとしたら声をアテる役者さんの他の出演作品を観ることはあります。
——仕事に関係なく映画はよくご覧になりますか?
テレビでも観だしたら映画って観ちゃうじゃないですか。ムービープラスさんとかつけると観ちゃうし、これちょっとB級っぽいなと思ってても、つい観てしまう。やることが他にあるのに観てしまいますね。
長時間没頭してしまわないように、普段の我が家では「アニマル・プラネット」が流れています(笑)。
——山路さんにとって声優という仕事とは
修行(笑)。
向こうでやってらっしゃる役者さんに教えられることってやっぱりあるんですよね。上手い人が多いし、ここの息継ぎの仕方は絶妙だな、とか、そういうのを見てて、自分でも知らない間に使ってることってあるんですよね。そういうのを見て、勉強しているんだろうなぁって自分でも思うので、いい機会をいただいたなって感じはしますね。役者としてすごく役に立っています。
映画を楽しんで観る時間の方が多いですけれども、吹替えをしているとやっぱりヤツらはすごいなぁと、人それぞれあんなにやり方が違って、色んなことができる。演じている俳優さんの頭を割って、中を見てみたいなって思うこともありますしね。そういう意味ではすごく楽しい商売ではありますね。
——このサイトでは声優を目指す方も多くご覧になっていると思います。そういう方々へのメッセージをお願いします。
がんばって(笑)。
若い子に対して、吹替えとはこういう仕事なんだと言える仕事ではない気がするんですよね。礼儀がどうとか、芸能界とはこうとかあったりするのかもしれないですけど、人それぞれやり方というのは絶対に違うから、やってみて体感しないと、自分のやり方ってできてこないんですよね。だからそれまで、体感できるまではとにかくがんばれよってことを言うしかないと思います。
——見つけるまで試行錯誤が必要になりますか?
昔はリハーサルする時間も取ることができないこともありましたが、今は自分でビデオを観たり、やろうと思えばできますよね。その取り組む時間、体感する時間を増やしていけば、自ずと自分のやり方ができてくると思います。だから、がんばって、って思うんです(笑)。
辿りつくまで時間は掛かります。そう簡単にはいかない感じはしますよね。ある意味では技術職なところがあるじゃないですか。ただ、その技術は体感したその人でないとわからない技術であるんです。
仕事で「なるほどな」って思った時は、ある時フッと自由になれる時があるんです。それはものすごく仕事に追われている時かもしれないし、考えてもしょうがないって思った時に自由になれるのかもしれないですけれど、呼吸が不自然じゃなくなれば、“いただいた”って感じがしますね。そこまでに10年以上かかりました。でも今の若い子は上手いから、そんなにかからないかなぁ(笑)。
——今回の「吹替王国」をご覧になる方々にむけて一言お願いします。
続けて観ると声が同じだとばれてしまうので、作品ごとに間を空けて観てください(笑)。
[プロフィール]
山路和弘(やまじ かずひろ)
声優、俳優、ナレーターなど幅広く活躍。
6月4日生まれ。三重県出身。血液型はA型。
劇団青年座演技部所属。主に俳優(舞台俳優)として活躍しているが、声優として数多くの洋画作品で日本語吹替えを担当している。ジェイソン・ステイサム、ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、ショーン・ペン、ソン・ガンホなどの吹替えで知られている。
※この特集の放送は終了しました
CS映画専門チャンネル・ムービープラス
「吹替王国 #5 声優:山路和弘」