アンソニーの吹替え事件ファイル

第2回 吹替キャスティングが豪華すぎて、怒られた作品、『バットマン リターンズ』。

アンソニーの吹替え事件ファイル

1994年当時、ワーナーブラザーステレビジョンの代表から「『バットマン リターンズ』の放送権を買ってくれないか?」というオファーを受けた。シリーズ1作目の『バットマン』はTBSで初放送されたもののパッとしない視聴率(13.1%)で終わり、この続編の購入に各局、二の足を踏んでいたのだ。それではとテレビ朝日映画部が購入し、私が日本語版制作の担当となり、演出を東北新社の佐藤敏夫さんに依頼した。キャスティングについては私の方から「とにかくバットマンは日本人にはそんなに爆発的に受けなかった(1作が配給収入19.08億円、この2作目は配給収入7億円まで落ち込む)が、知名度・認知度だけは抜群にある。この日本語版も一種のお祭りイベントとして、多少お金もかかっていいから豪華にしましょう!」と提案した。正味時間は105分の拡大版でもあった。

その結果、主役のバットマン(マイケル・キートン)には山寺宏一、敵役のペンギン(ダニー・デビート)には石田太郎、キャット・ウーマン(ミシェル・ファイファー)には藤田淑子、クリストファー・ウォーケンには方程式通りの野沢那智と、主役級が勢揃いの超豪華キャストが実現した!

録音は21時をすぎるほど時間がかかった重労働だった。無事に日本語版は完成、部内完成試写となったが‥。とにかくこれだけのキャスティングである。名人芸を堪能できるものと自負していたが、ある先輩から「ミッキー(羽佐間道夫さんのこと)が市長の役でこれだけしかセリフがないのに、キャスティングするなんて、贅沢すぎるだろ!勿体ない!」と強烈な一言を食らってしまった。因みに、とり・みき&吹替愛好会の「吹替映画大事典」(三一書房)でも、この映画を取り上げてもらっており、その中で「羽佐間道夫が6人目だなんてすごい贅沢」という書き出し!やはりこの人も羽佐間さんのキャスティングに目が行ったか?!続いて「久しぶりに豪華な吹替を見せていただきました。羽佐間道夫がクレジット6人目、ゴッサムシティ市長なんぞでわざわざのご出演。」とまで書かれている。こういう起用法でこれだけ局の現場や本の記事になってしまう羽佐間さんの存在感はさすがに凄いと思いつつも、ちょっと大盤振る舞いしたかな、と少し反省した次第である。

とり・みきさんによると更に、「ウォーケンもご丁寧に野沢那智。この2人(羽佐間さんと野沢さん)が2ロール目なんてすごいじゃないですか。」と褒めてはくれていた。どうもありがとうございました。

主役については、「最近の2枚目を片っ端から担当している山寺宏一は台詞が少ないのでまあいいんですけど‥」とあるが、私は、山寺宏一とちらっと話した時に彼が「『バットマン フォーエヴァー』の放送の機会があったらバットマンよりジム・キャリーのリドラーをやってみたい」と言っていたのを覚えている。さすが、志が高いと思って感心した。しかし、その後、私が間違って一時的に編成部に異動してしまい、その製作にタッチできず、幻に終わってしまったのが残念だった。

そして、敵役については、とり・みきさんは、「やっぱり驚きは石田太郎の“ペンギン”。普通に考えれば穂積隆信が適任なこの奇妙な役どころを、普段の刑事コロンボなぞ匂わせもしないキレぶりで披露。驚くよこれ。」とこれ以上ないお褒めの御言葉に感謝!また、「ファイファーには『恋のゆくえ』同様藤田淑子だけど、素とキャットウーマンのメリハリがなんともセクシーでこれまた素敵なキャスティングでした。」とあり、現場では、あの藤田淑子でもこの役作りにかなり苦労しているのを見ていた私には藤田さんの苦労が報われて良かったと安堵した。

1994年12月25日に放送の結果、視聴率はTBSの『バットマン』を凌ぐ14.1%となり、15%は届かなかったものの、私と佐藤敏夫さん、加えて山寺宏一のトリオで翌年6月18日の放送にあたり、第1作『バットマン』日本語版を作り直した。

山寺宏一の相手役ジョーカー(ジャック・ニコルソン)には内海賢二、これだけは作り直しと言っても他の声優さんに代えることはできなかった。さすが内海賢二!!キム・ベイシンガーには『ナインハーフ』の好演もう一度ということで小山茉美、加えて江原正士、内田稔、田中信夫とこちらも実力派揃い!結果、当時の番組の枠状況・地場の安定感、シリーズ新作の公開に合わせた最高のタイミングもプラスとなり、TBSの1回目を大きく上回る16.9%の高視聴率を獲得できた。これは『ダークナイト』シリーズも含め、『バットマン』映画シリーズの中では最高視聴率記録を達成、未だに破られていない。

なお、この『バットマン』『バットマン リターンズ』の山寺宏一バージョンは市販のDVD,ブルーレイ、UHDにも収録されていない貴重版となっている。いつかはスターチャンネル3あたりで「激レア日本語版特集」で放送してもらいたい!その時には是非『バットマン リターンズ』のゴッサム市長の羽佐間道夫さんに注目してください!!

[作品画像はAmazon.co.jpより]
※Amazonのページで紹介しているDVD・ブルーレイ等のソフトは、今回紹介する日本語吹替え音声を収録しておりませんので、ご購入等の際はご注意ください。
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『バットマン リターンズ』