ダークボのふきカエ偏愛録

#56 あの「声」があったから。

令和元年最後の更新だし、景気のいいこと書かなくちゃ。でも世の中インチキばかりだよなあ・・・と悩んでたところに届いた悲しい知らせ。あの中村正さんがお亡くなりになったと。

訃報に決まって書かれている通り、中村正さんと言えばまずは何より「奥さまは魔女」のオープニング、そして「地上最強の美女たち!チャーリーズ・エンジェル」のチャーリー。俺的には「ナイトライダー」のデボンも。
俺にとっては「海外ドラマはふきカエで観るものだ」という常識を作ってくれた大切な「声」の一つで、幼い頃からの憧れでした。ふきカエのレジェンドは数々いますが、どうやら俺はカッコイイ声、シブイ声、ひょうきんな声より、「包み込むような声」が一番ツボらしく。

ダークボのふきカエ偏愛録

そんな声に誘われてこの業界に入り、「木曜洋画」の見習いをした後あちこちに異動して、10年ぶりに古巣に戻った20世紀末、久々に覗かせてもらったふきカエの現場が『ペテン師とサギ師/だまされてリビエラ』
この映画は後にミュージカル化され、今年日本でも三度目の翻訳上演がありましたが、その舞台では山田孝之さんが演じた若い詐欺師が映画ではスティーブ・マーティン(ふきカエは安原義人さん)。そして石丸幹二さんが演じたベテラン詐欺師は映画ではマイケル・ケインで、このふきカエが中村正さんなのでした。
思えばリハビリ感覚で立ち会った現場であの憧れの声と名調子を食らったことが、今に至るまでふきカエにこだわり続ける俺のテレビ屋人生を決定づけたような気がします。

ちなみに。
『ペテン師と詐欺師/だまされてリビエラ』自体がマーロン・ブランド主演『寝室ものがたり』のリメイクで、マイケル・ケインにあたる役だったデヴィッド・ニーヴンも中村正さんの持ち役でしたから、オリジナルとリメイクの両方を正さんがアテるという、何ともニクいキャスティングでした。

ダークボのふきカエ偏愛録

さて、毎週のようにふきカエを作りまくった7年の後、再び映画担当を外れたのですが、後任プロデューサー陣の粋な計らいで、異動後に「卒業制作」として担当させてもらったのが『ウォルター少年と、夏の休日』
この「木曜洋画」らしからぬ作品の放送とふきカエ制作の経緯については、昔「シネ通!」のコラム にたっぷり書きました。
とにかく最後の仕事と思って取り組んだ現場に、再び中村正さんをお迎えできたことは、無上の幸せでした。豪胆な爺さん兄弟、マイケル・ケインとロバート・デュヴァルが愉快な映画ですが、現場でも中村正さんと大塚周夫さんの掛け合いがもう最高で。
その周夫さんも既に亡く・・・マッケーン兄弟の声は二人ともいなくなってしまった。

ちなみに。
マイケル・ケインのふきカエと言えば、小林修さんも持ち役の一つにされてましたが(『ウォルター少年~』もビデオ版では小林さん)、小林さんも逝ってしまわれ・・・当のマイケル・ケインは、今年86歳でまだまだ現役のようですけど。
小林修さんのマイケル・ケインは、スタローンの『追撃者』でお願いすることができました。

さらにいろいろあって、今はBSテレ東で再び映画を担当しているわけですが。
ふきカエではありませんが、加山雄三さんの「若大将」シリーズを一挙放送する企画〈土曜の若大将!〉で、18作品共通の番宣ナレーターを中村正さんにお願いしてみたところ、快諾して下さって。
若大将たちの青春を暖かく見守る感じ、ということであの声を思い出したんですが、既に80過ぎながら、変わらぬ名調子に感激。あれは5年前、まだまだお元気だったんだけどなあ。

そんなこんなで、中村正さんには、長きにわたってお世話になりました。
鬼籍に入った方々を偲ぶのも年末の決まり事ですが、今年も思い出深い皆さんが次々と・・・。
中村正さん、そして皆さんのご冥福をお祈りします。

話変わって。
もう次の号が出てるので今さらですが、「映画秘宝」12月号に、ちょっとだけ寄稿しました。
R15+のせいか吹替版上映が無い『ジョーカー』の、ふきカエを妄想してみる企画。「ふきカエ考古学」の飯森さんもご一緒でしたね。

こういうお話には、どうもふきカエと言えば有名人を起用したもの、という劇場版の感覚が企画意図に見え隠れするので、俺は専門じゃないから、と辞退することが多いのですが、今回はあえてマジメに応えてみましたよ。その上で、ジョーカー=片岡愛之助さんと書いてみたら、やはりこれが小見出しになっちゃった。
愛之助さんの名前を挙げたのは、有名人ということより、5年前の『映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』での振り切った怪演に感動したからなんですけどね。もう一人挙げた松坂桃李さん(これはマジ観てみたいです)は、昨年観た舞台「マクガワン・トリロジー」での、キレまくるIRAの殺人マシーン役が凄かったもので。

ともあれ、よほど読み込まないと気付かれないくらいの記事なので、12月号を持ってる方は改めて探してみてください。さらに細かいところで、わがオルターエゴ「ダークボ」の由来も明かしてます。

遂に1本もふきカエを作らずじまいで終わりそうな令和元年(3月の『ウォンテッド』は「平成最後」だったもんでね)。
せめてものアリバイ作りで、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』3部作を、BSテレ東で年またぎ一挙放送します。
2019年12月30日(月) 夜11時~ 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』〈21世紀吹替版〉
2020年 1月 1日(水) 夜11時~ 『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』〈21世紀吹替版〉
2020年 1月 3日(金) 夜11時~ 『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』〈21世紀吹替版〉
もちろん昨年ふきカエコンプリートした、マーティ=宮川一朗太さん、ドク=山寺宏一さんのバージョンです。ふきカエ自体は変わりませんが、前回の放送後に寄せられたご意見を踏まえて、細かいところに手を加えたりもしてますので、改めてご覧ください。

ダークボのふきカエ偏愛録

ついでにおしらせ。
2019年12月22日(日)午後2時~放送のシネマスペシャル『ハーフ・ア・チャンス』
かつて「木曜洋画」で制作した、アラン・ドロンの野沢那智さん、ジャン=ポール・ベルモンドの羽佐間道夫さんをはじめ、豪華声優陣が結集したふきカエです。
ブルーレイにも収録されてますが、久々の貴重なオンエアですから、ぜひこの機会にどうぞ。

今年も駄コラムにお付き合い頂きありがとうございました。
令和2年もよろしく。今度こそ何かやるよ!

 

[作品画像はAmazon.co.jpより]
※Amazonのページで紹介しているDVD・ブルーレイ等のソフトは、日本語吹替え音声を収録していなかったり、このページで紹介しているものとは異なるバージョンの日本語吹替え音声を収録している場合や既に廃盤となっている場合もありますので、ご購入等の際はご注意ください。