- 2015.2.2
- コラム・キングダム
- 吉田Dのオススメふきカエル
『この顔にピンときたら…』
かつて「全ての映画は、とどのつまりはお宝の争奪戦である」と仰ったのは誰だったか忘れましたが、確か著名な映画作家だったはず。アクションやミステリー はもちろん、コメディもラブストーリーも広い意味では「欲しいモノをどう手に入れるか」になるわけで、そもそも“人が生きること”自体がそういうこと、と も言えますね。で、ほとんどの人はその「欲しいモノを手に入れる」ためにコツコツ努力して、でも半分ぐらいは手に入らなくてじっと手を見たりしているわけ です。
となれば、映画を観る時ぐらいは浮世の苦労を忘れて「他人様がお宝を手に入れようとドタバタ奮闘する」のを眺めて楽しむのが吉。そんな密かな愉しみにオススメなのがこちら。
『チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密』
ジョニー・デップと言えば今や大スターですが、往時を知る者としては彼を「ハリウッド・スター」と呼ぶことに、実は今でもちょっと違和感があるのです。
下積み時代の『エルム街の悪夢』や『プラトーン』での端役はともかくとして、『シザーハンズ』で主役を張るようになってから以降も、出演する映画と言えば 『アリゾナ・ドリーム』とか『デッドマン』とか『ラスベガスをやっつけろ』とかどう見てもハリウッドの映画の王道ではない、言っちゃえばちょっとアレな作 品ばかり。もちろん興行的にも大当たりはしていません。
その彼が突然『パイレーツ・オブ・カリビアン』に主演すると聞いて「おいおい何じゃそりゃ」と思う間もなく作品は大ヒット、次々と続編が作られてデップは あっという間にビッグネームに。トム・クルーズやプラッド・ピットと並ぶマネーメイキング・スターになってしまったのです。へぇへぇへぇ。
ネイティヴ・アメリカンの血を引くデップのちょっとエキゾチックな顔立ちは決して正統派二枚目というわけではなく、それでもこれだけの「客を呼べるスター」になったのは、ひとつにはその稀有な「コスプレ力」にあると思われます。
『パイレーツ~』はもちろんのこと、『シザーハンズ』に始まる盟友ティム・バートンの監督作品でも『チャーリーとチョコレート工場』から『アリス・イン・ ワンダーランド』『ダーク・シャドウ』に至るまで、とにかくコスプレのオンパレード。それらの素っ頓狂なコスチュームを見事に着こなし、見たこともない キャラクターを作り出してしまう造形力こそ、デップの最大の魅力でしょう。
そんなデップが今回の『チャーリー・モルデカイ』では、その得意技を敢えて封印し、ちょびヒゲを生やしただけのほぼスッピンで主役を演じます。扮するは美 術商にして稀代の名画鑑定家、チャーリー・モルデカイ。英国情報部からの依頼のもと、美人妻(グウィネス・パルトロウ!)と屈強な用心棒を従えて、消えた 名画の行方を追うことに。そこへ国際的テロ組織、謎の大富豪、ロシアン・マフィアまでもが乱入して、騙し合いと奪い合いの大乱戦が展開します。
監督はデヴィッド・コープ。脚本家としてのフィルモグラフィが『ジュラシック・パーク』『ミッション・インポッシブル』『スパイダーマン』…と聞けば如何 にも超大作専門の大味な作家というイメージですが、さにあらず。監督としては、ジョゼフ・ゴードン=レヴィットがマンハッタンを自転車で疾走する『プレミ アム・ラッシュ』のような佳作を手掛けるという意外な一面も。今回の『チャーリー・モルデカイ』でも、そのタイトでスリリングな演出力をいかんなく発揮し ています。
そして日本語吹替え版にはジョニー・デップ=平田広明、グウィネス・パルトロウ=岡寛恵、ユアン・マクレガー=森川智之といった鉄板キャストが勢揃い。今回のジョニデのキャラである「飄々とチャラいおっさん」を演じたら、平田さんの右に出る者はいません。
ちなみに重要人物である老貴族を演じた大木民夫さんは、昭和ひとケタ(それも前半)生まれにして現役バリバリの大先輩。本作では第二次大戦中のナチス・ド イツによる美術品略奪が鍵となるのですが、収録合間の休憩中に「戦争中にナチスの高官が来日してね。ボクは学徒動員で、歓迎の日の丸の旗を振りに行きまし たよ」なんて歴史のひとコマをさらっと仰って、周りの我々がははーっとひれ伏すという一幕もありました。さすが戦中派。
謎ときのミステリーと華麗なアクション、舞台となるヨーロッパ各地のロケーションも楽しめて、全体としては抱腹絶倒のコメディ仕立てという何とも贅沢な一品。洋画を観る楽しさをこれ一本に詰め込んだような『チャーリー・モルデカイ』、ぜひ御堪能下さい。
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[画像はAmazon.co.jpより]
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