飯森盛良のふきカエ考古学

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不思議時空、発生!幻のDVD/BD未発売『ザ・キープ』をノーカット字幕放送し、さらに、幻の幻、ふきカエ放送まで敢行!!

スンマセン、ちょっと今回は露骨に番宣っぽくなりますよ。ウチでは、懐かしふきカエ発掘レギュラー企画「厳選!吹き替えシネマ」をはじめ、ちょっとマニアックな企画を平日の深夜帯はお送りしています。名づけて「シネマ解放区」!

そこではDVD/BD未発売の作品など、激レアな映画を発掘してどんどんオンエアしていきたいと考えており、この秋は、
『ウォーキング・トール』
『ザ・キープ』
『黄金の眼』
『スパニッシュ・アフェア』
『世界殺人公社』
『くちづけ』
の6本の、凄まじくレアなタイトルをお届けしてまいった次第でございます。詳しくは「シネマ解放区」のfacebookの過去投稿などご覧ください。

で、まずは字幕でやりました。レアすぎて字幕の翻訳が残ってない作品が大半でしたんで、ゼロから訳し直すということで、えらく手間ひまカネがかかりましたが、さて、次の段階としては、言われるまでもなくふきカエでもやろう!ということを密かに画策しておった次第。

例によって権利元の方に「日本語ふきカエ版があるのを教えてくれ」とオーダーを出し、テープが現存していたのは『世界殺人公社』と『ザ・キープ』のたった2作品だけでした…。この2本をHD化して1月にお届けする予定です。

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まずは『世界殺人公社』の方からご紹介しましょう。これは軽妙洒脱なクライム・コメディ。時は欧州情勢が風雲急を告げ、世界大戦が勃発しそうなキナ臭さ漂う、20世紀の初頭。でもアール・ヌーヴォーの意匠に満ち溢れている、ベル・エポックの時代の優雅なヨーロッパが、この物語の舞台であります。印象派の絵から抜け出たような衣装のキャラクターが織り成す、華麗なるコスチューム・プレイ、それが本作なのです。

ロンドンに「世界殺人公社」という殺人請負業者が存在するらしい、という情報を掴んだ女性新聞記者(『女王陛下の007』のボンドガール、ダイアナ・リグ扮演)が、依頼人を装ってその組織に接近。組織の代表である創業二代目の若旦那の総裁(オリヴァー・リード)に、「私があなた自身を殺して欲しいと依頼したら?」とためしに言ってみたところ、「いいですよ」と意外にも軽く引き受けられちゃう!

奇貨おくべし、オリヴァー・リードは「自分を殺しに来い」と言って組織の幹部連中を挑発します。幹部連中が最近、世直しのための殺人請負という創業の理念を忘れて、金儲け主義に走りすぎているので、自分を殺しに来させて逆に全員返り討ちにしてしまい、もって組織の弊風を一新して創業の理想に立ち返ろう、という魂胆なのです。

飯森盛良のふきカエ考古学
TM, © & © 2015 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

このオリヴァー・リードの総裁と対立するのが、テリー・サヴァラス演じる副総裁。こいつは、暗殺によって世界大戦を引き起こし、武器商人とつるんで濡れ手に粟の大儲けをしようと企んでいる、とんでもない銭ゲバ野郎。自分はラスボスとしてで〜んと控えながら、専務や常務といった欧州各国に散らばる中ボスを刺客としてオリヴァー・リードのもとに差し向けます。刺客とそれを返り討ちにせんとする若旦那、それに同行取材する女流記者が、欧州各地を舞台にドタバタの暗殺コントを繰り広げます。

ふきカエ版ですが、ここだけの話、いつも黙でこっそり大変お世話になってるアトリエうたまるさんによると(あのサイト無かったらウチの企画つぶれる!)、1975年10月27日に放送されたもののようでして、オリヴァー・リードが田中信夫さん、ダイアナ・リグが沢田敏子さんとのこと。テリー・サヴァラスのことは書いておらず、当時の台本も残ってないようなので事前には調べようがなかったんですが、テープが届き実際に聞いてみたら森山周一郎さんだったんで安心しました。

にしても、我が生年である75年のふきカエ!肩の力の抜けた感といい、全編にうっすら漂う軽いアドリブっぽさ&自由な空気感といい(本当にアドリブかは知りませんが)、いやはや、最っ高の時代ですなぁ〜!その最っ高っぷりを堪能できるのが、開始直後の沢田さんのナレーションなのであります。この場にて文字で書き起こそうかとも思いましたけど、抑揚や節回し含めての音楽的な味わい深さがありますので、ぜひ放送でお確かめいただきたいところ。いや〜、日本語って、本っ当にいいものですね!

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次いってみよう。『ザ・キープ』。マイケル・マン監督の初期作で、個人的には、全然マイケル・マンらしくない怪作・珍作といった印象を抱いてます(良い意味でね)。

二次大戦中、ユルゲン・プロホノフ演じる大尉に率いられたドイツ国防軍山岳猟兵中隊が、ルーマニアのカルパチア山脈の峠に駐屯することに。その山あいの寒村には古い城塞(キープ)が建ってるんですが、これが、外側が脆弱で内側が堅固という、砦としてはなんともアベコベな構造で、むしろ何かを閉じ込めることを目的とした建築物っぽいのです。

そのうちドイツ兵が次々と謎の怪死を遂げ、「住民の中にパルチザンがいる!そいつらの仕業だ!!」と決めてかかって、ガブリエル・バーン率いるSS少佐に率いられたナチス親衛隊が乗り込んできて、住民男性を何人か銃殺しちゃう。こういうゴリゴリのナチが大っ嫌いなユルゲン・プロホノフは、ガブリエル・バーンと鋭く対立します。

そうこうするうち、砦の壁に、500年以上前に滅んだ文字・言語(グラゴール文字で書かれた古代教会スラヴ語)で書かれた、「イツカ私ハ自由ニナル」という謎のメッセージが浮かび上がり、ナチはその古代語の専門家であるユダヤ人歴史学者(イアン・マッケラン)を強制収容所から連れてきて解読させようとする。

そこに、ついに、この、要塞と見せかけて実は封印のための施設に封じ込められていた、いにしえの魔物モラザールが出現するのであります。で魔物モラザールは、ユダヤ人歴史家に封印を解く手伝いをさせようとする(自分で自分の封印は解けないため)。その見返りとして、強大な力でナチスをたちどころに壊滅させてヒットラーをぶっ殺してやろう、と取引を持ちかけてきて、ユダヤ人学者はナチよりマシだろうと魔物と手を組むことに。

一方、ギリシアから一路この城塞を目指している謎の旅人(スコット・グレン)の姿が。目がピカーッと光ったりするので、ただ者じゃない様子ですが、はたしてこの男の正体は…?

と、いった風変わりなホラー映画なんですけど、魔人モラザールはけっこうなラテックスの着ぐるみ感が…(とても『エイリアン』の数年後の映画だとは思えない。スタッフかぶってるのに!)。

また、クライマックス、モラザールの封印が解かれてからのシークェンスは、『レイダース』でベロックがアーク《聖櫃》の蓋を開けた後の展開にヴィジュアル的にそっくり。しかもあれを、ドライアイスもくもくでレーザー光線飛び交う、いわゆるひとつの不思議時空的な演出で描ききろうとしている…。

飯森盛良のふきカエ考古学
TM, © & © 2015 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

かててくわえて、サントラをジャーマンテクノバンドのタンジェリン・ドリームが手がけてるんですが、これがまた単純ループ構造の珍妙エレクトロニカでして、不思議ソング的にいつまでも変に耳に残っちゃう、いい感じにヤな感じの迷曲ばっかなんですなぁ…。

…この映画を紹介する時はどうしてもこういう皮肉めいた紹介の仕方になっちゃうんですが、これ、ものすごく誉めてますからね!最高ッス!あふれるB級感。東映特撮っぽさ。何このマッタリ映画時間!?心地好いわぁ!じつに愛すべき映画なのであります!

肝心のふきカエ声優陣ですが、これはふきカエ台本が幸い残っており、表紙に「日本テレビ 特選シネマ 1989年3月28日(火)25:00〜」と書いてありました。キャスト表によればユルゲン・プロホノフに池田勝さん、ガブリエル・バーン谷口節さん、イアン・マッケラン内田稔さんと大御所が並び、そして、ここで謎な事態が発生!不思議時空、発生!!であります!!! 津嘉山正種さんが、モラザールと謎の旅人(スコット・グレン)の一人二役を演じてる!!!

これは本当に理由がサッパリわからない。モラザールの中の人はマイケル・カーターって役者らしくって、この人は『ジェダイの復讐』でジャバの宮殿にいたビブ・フォーチュナの中の人でもあるんですけど、原音版ではモラザールの声も多分この人がやってんじゃないかなぁ。スコット・グレンが声だけアテレコしてたりはしないと思うんですよね。今ちょっと字幕原音版のモラザールのセリフをヘッドホンで聞きながらこの原稿書いてるんですけど、自分それほどスコット・グレンの地声に詳しくないもんで、絶対違うと断定はできませんが、おそらく違うと思われる。多分スコット・グレンの声じゃない。これがマイケル・カーターって人の声なんでしょう。にもかかわらず、なぜ日本語ふきカエでは、スコット・グレンと悪役モンスター(マイケル・カーター)を一人二役で津嘉山さんにやらせてるのか!? 皆目理由がわかりません。

どなたか、事情をご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひご教授いただきたいです。伏して教えを請います。

以上、『世界殺人公社』と『ザ・キープ』の2作品、ついでにサラッとオマケで重大発表『がい骨』も追加し、 超レアふきカエ版を1月にお届けしますんで、乞うご期待です。その後の進捗や続報はウチのfacebookにて情報出ししていきますので、そちらもよろしく。

ふきカエレビュー(2016年1月更新):『世界殺人公社』、『ザ・キープ』の放送日程も掲載「ザ・シネマ開局10周年。10年目の衝撃の告白「最初の1年半はアンチふきカエ派だった」!の巻」はこちら