飯森盛良のふきカエ考古学

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[最終回] 俺たちの戦いはこれからだ!の巻(ご愛読ありがとうございました。飯森先生の次回作にご期待ください)

これはネタじゃなくマジの訣別電報になります。春はお別れの季節ですね。みんな旅立っていくんですよ。普通の男の子に戻りたい!

なんでこんなことになっちまったかって?(と、冒頭から時制が巻き戻るパターンの映画風に)。

いやぁ、もう何年も前から言ってますけど、私はザ・シネマを何年も前に離れており、その後もお手伝いしていた、私が07年にスタートさせた15年目の懐かし地上波ふきカエ発掘コーナーも、もう現スタッフに完全に手渡し、今や完全にノータッチなんですよ。

でコロナ以降に携わるようになったスターチャンネルの方では、まぁバカの一つ覚え、そこでも「懐かし地上波ふきカエを発掘して蘇らせるべきだ!」と初日に演説し、それ系の企画をスタートはさせましたが、実際の毎月の作品選定と運用は、先日ふきカエルさんにも 電撃デビュー を果たした上原さんというベテランに引き取っていてただき、私はこちらでもノータッチ。その人がやった方が話が早いんですよ、一言で説明すると「最初から最後まで全部を自分一人で完結できちゃう人」なので。詳しくは 前回 書きましたが。

自分で手がけたかったか?と聞かれたら…それはザ・シネマで15年間もやってきた仕事なので、今は、すがすがしい“やりきった感”が残ってるだけ。「もういいかな…」というのが本音。

まぁつまり、今月で降板することに決めたのは、正直言って「書くネタが無いから」に尽きますわ。だってふきカエの仕事に携わらなくなっちゃったんだから、書きようがない。

でも、自分で言うのもナンですが、この15年間で、レールは敷いた。ザ・シネマとスターチャンネルに。とは、自負してます。それゆえの“やりきった感”。

これも 別の回 で書いたことありますけど、私がザ・シネマで懐かし地上波ふきカエ発掘企画をスタートさせたのが15年前の07年。で09年に今は亡きFOXホームエンタさんも「吹替の帝王」をスタートさせ、当初はしばらくFOXさんと2人、孤軍奮闘でしたけど、この手の企画がテン年代中期頃からは、他所でも増えていった。

最初、私が発掘し、その時点では貴重な放送だったがカット版しか残っていないとされていた『レイダース』の日テレ版が、後にシネフィルWOWOWさんが某制作会社の倉庫からノーカット版を発掘して放送、というのは、あれは悔しいどころか嬉しかったなぁ!

無いとされてたものが見つかり、そもそも存在自体忘れ去られていたものが発掘される、そういう流れが出来上がった。もう、昭和平成の懐かしふきカエ名盤の灯が消える危機は、永久に去ったと思います。FOXさんがいなくなり、“諸般事情”により「吹替の帝王」も滅亡したとしても、「懐かしふきカエは滅びぬ!何度でも蘇るさ!! 地上波の音源こそ日本人の郷愁だからだ!!!」の流れ自体はもう、最終的かつ不可逆的に確立された、と言っていいでしょう。

私は木・金・ゴールデン・日の各民放4洋画劇場に育ててもらったと思っており、ちょっと正気じゃないですが中学・高校の歳から「このご恩はいずれ返します」という意識を持ってました。恩返し、本人的には、俺の乏しい能力でできる恩返しはやりきった、後は次代の映画好きが、同じ思いを持って業界に入ってきて、次の恩返しを始めなさい、と思ってる今日この頃です。最近スキンヘッドやめて髪伸ばしてるんですが、見事にハゲ散らかったなぁ。あと、白髪。そういう年齢。

飯森盛良のふきカエ考古学2020年7月1日号。平成元年テレ東版『地獄の黙示録』発掘時キルゴア中佐CV:小林修のコスプレで原稿執筆する筆者

あと、新録ふきカエは全く話が別。新録の方は「恩返し」とかいう極私的&暑苦しいモチベーションではなく「いや、お客さんが普通に喜ぶ商品をただ開発すれば良いだけの話では?」という仕事人のスタンスで、冷めて仕掛けてきた企画で、実は、個人的な思い入れがあったわけではありません。

だからキャスティングも、私がどうしたいとかは一切無く、世間の期待度が一番高そうな人、最大多数の最大幸福が実現できそうな声優さんをただ人選するだけの作業。その前の、予算確保と企画を通して年イチ半レギュラー状態まで持ってくところまでが9割という仕事でした。

『~怒りのデスロード』の時の話ですが、公式「武器男爵」ことザ・シネマ版「弾薬農家」役は千葉繁さん続投がいい!というご要望を、2ちゃんだったかHPリクエストだったかツイッターだったかで目にし、それも、その意見に従っただけ。2ちゃんの人はお気付きですが、大変参考にさせてもらいました。最大多数の最大幸福が実現できる声優さんは誰か、2ちゃん某板でマニアの声を拾うのが一番早いので。

私が新録して毎回困ったこととしては、元の公式版に携わった著名人の方たちが改めてdisられたりもし、あれは、本当に申し訳なかったです…。叩いてる君ら、こっちを誉めるつもりであっちを叩いてるのかもしれないけどさ、それ、やめてくれる?ちょっと考えたら解る通り、こっちが困った立場に立たされるだけなんで。贔屓の引き倒しっていう…。

著名人の方たちは何も悪くないんですよ。本当に、1mmも悪くない。だって、仕事として依頼されたんですよ!? それを「いや〜ムリっすねぇ〜、ふきカエとか自分のスタイルじゃないっすから」って断ってたら、そんな人にはそのうち仕事こなくなりますよ?どんだけ大御所だよ。

そして引き受けた以上、自分の色は当然出しますよ。名も無き一般人じゃなく、自分のスタイルを持って仕事してきて今の地位を築いた人なんですから。引き受けた仕事でその色消したら、発注側への背信です。「自分の色を評価して仕事くれたんだろうから今回も自分の色は出す」という論理的帰結に、なるしかないじゃないですか。だから「自分の色出しすぎだお前!」と叩かれるのも、とても理不尽で気の毒に思いましたね。

とは言え、ですよ? 地上波ふきカエではなくタレントふきカエの方こそが、この先、時代の徒花として、消えていくのではないでしょうかね。炎上沙汰が何度も起きたことで、まず、芸能事務所の側が、そんなリスクの高い仕事は受けたがらなくなると思いますよ。今まで好意で受けて結果叩かれた著名人の方たちは、尊い犠牲に…。

あと映画会社側も、何度も痛い目に遭って、もうリスクを体で覚えた頃でしょう。

そもそもタレントふきカエが作られるのは、それで話題作りができるから。「あの旬のタレント×××さんがふきカエに初挑戦!」等とスポーツ紙やワイドショー芸能コーナーに取り上げられて、それが「もしそのパブ露出分を広告枠として買っていたらXXXX万円に相当した。それが、話題のタレントを起用することでタダで済んだ」と“上に報告”できるから、という理由も一つあります。いわゆる「広告換算」という考え方。ココのサイト blog.cd-j.net/tv-pr/koukoku-kansan/ が一番詳しい。

そしてこの手法自体がもう時代遅れになってるんですよね。昔はそれしか手が無かったから仕方ないですが、今や「この商品を好んでくれそうなお客さんをネット空間で追いかけて買わせる」時代なので。今さらマス向けにド〜ンと露出をはかるなんて。どれだけ露出してもコケるかもしれないし、露出して大ヒットもするかもしれない。つまり、露出とヒットの因果関係を証明することが、そもそも不可能なんですよ。効率が悪いし効果検証もできない。

今でも唯一獲得できる“成果”は、宣伝している側の、上司やクライアントに向けた、パワポの報告書だけ。いわゆる“やってる感”ね。「XXX万円分がタダで済んだ」と数字化できるので、人に説明する上で実に説明しやすい。炎上したタレントさんはパワポのための犠牲になったという…。

私はここで、タレントふきカエを否定はしない、と言い続けてきました。それも本音ではありますが、「でもあれって、マス広告がかろうじて生き残っていた終末期に狂い咲きした“時代の徒花”にすぎず、いずれは枯れるさだめの奇策だったよねぇ〜」とも、本音として思ったりもします。

同時に「だが俺は、ゴールデン洋画版のWユージ版『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や村野武範版『ダイ・ハード』が一番好きだけどな」とも、再度付言しときます。ひとたび生まれてしまったタレント版は、ファンを確実に生みます。上手い下手とか合ってる合ってないとか世間で不評とかは関係ない。中学時代に三ツ矢雄二×穂積隆信版『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を当然ながら激賞する親友と、なぜかWユージ版を断固徹底擁護しバトルした、遠い日を思い出します。だから、できてしまったタレントふきカエも、存在否定の対象とはなりえない、価値あるコンテンツなのです。「ふきカエに貴賎なし」なのであります。

さて、私、仕事人として、この新録は、今後も仕掛けていくつもりです。しかし、ご存知の通り年に1本あるかないかのペースですんでね…予算的にも仕事のデカさ的にも、それ以上の頻度はムリです。ここの連載を回していくネタには到底ならないので、降板しかない(しかしそれ考えるとダークボさんは凄いですね。なんせ毎週でしたから!)。

ここを去るにあたり、後任は是非この人にお願いしてください、という意中の候補者が実は一人います。私から見て大先輩という方。「私は木・金・ゴールデン・日の各民放4洋画劇場に育ててもらった」と書きましたが、それをやられていた大ベテランのお一人。その人がやっていた放送回を、私は一視聴者の中高生として見ていた、その人の作った音源を懐かし地上波ふきカエで発掘してきた、という関係性。私自身が今後はこのサイトの愛読者として、その方の語る当時のエピソードを読んでみたいんですよね。次回5月に登場、乞うご期待です。

さあ、いよいよ最後、さようなら皆さん、さようなら…もしかしたら、次に新録ふきカエを仕掛ける時に、無理を言って「Weふきカエ」のところに出させてください!と舞い戻ってくるかもしれませんが、いつになることやら…。

それまでは、今こそ別れめ、いざさらば!

LIFE!インタビュー番外編『LIFE!/ライフ[ザ・シネマ新録版]』制作時の演出家・清水洋史さん(中央)&翻訳家・埜畑みづきさん(左)へのインタビューの際の飯森さん(右)。お疲れ様でした!!