飯森盛良のふきカエ考古学

iimori_reviewtop500×150

恥を承知であえてこの言葉を叫ぼう、究極の「いつ見るの?今でしょ!」映画と、生涯五指に入るその名ふきカエ版を激オシ!の巻

いやはや、香港にバルセロナにチリと、世界が大っ変なことになってきちゃった2019年下半期…それをダシに番宣しよう、ってわけではないのですが、こんな時代だからこそ今、約50年ぶりに再び輝きを放ち始めた学生運動映画『…you…』と『いちご白書』両ふきカエ版を、今回は激オシさせてください!

人の不幸をダシに宣伝する下心はないので、『…you…』の方は、ウチでは放送もう終っちゃってるんですけども、おかまいなしに全力でお薦めします!何とかしてご覧いただく価値はある。なんせ、ベルイマンとタランティーノがベタ惚れした映画ですから折り紙付き!もう放送しないってのが残念です。ふきカエ版は特に!

1970年アメリカ映画。主人公エリオット・グールドは大学院で修士号と教員免許を取ろうとしてる、いい歳した大人。ヒートアップしてきた学生運動に対しては冷めたスタンス。でも実は、元バリバリの古参活動家。人より早く運動に目覚めた分、人より早く“シラケ世代”にもなっちゃったんですが、それにしてもあまりに酷い世の中に、冷め続けていることが人としてできなくなり、とはいえ学部生と一緒に革命ゴッコに興じる歳でもないと。さて、教員免許と修士号は?社会人としての将来は?一体どうなる!? というお話。学園紛争を素材に、「モラトリアム人間」や「ピーターパン・シンドローム」をモチーフとして描いているドラマです。

2019年の今も1970年の昔も、デモに若者が参加すると必ず「こんなガキどもに政治の何が解るんだ」「社会に出て世の中見てから物を言え」といった意見が出てくるのですが、そりゃ無理ってもんよ。社会に出たら就職しちゃうからね。仕事持ってる社会人には簡単には真似できませんわな。所帯もったら尚のこと。学生は親のスネかじるモラトリアムであるがゆえに、失うものなく、臆することなく、正義を求めフットワーク軽く行動できるのです。我々オッサン(やオバサン)の代わりに、より良き世界のため運動してくれているのですから、もはや感謝しかない!まぁ、若気の至りから暴走しがちな嫌いはありますが。

本作の主人公はまさに、あっち側とこっち側の境界線上に立っているわけで、目の前では凄まじい不正義が横行している。こっち側にとどまって声を上げ続けるべきか?それとも、線をまたいであっち側に行き、失職するリスクがあるからとビビって沈黙する社会人になるか?その葛藤です。

本作、『傷だらけの青春』という原作小説があるのですが、それにはあまり学生運動の要素は含まれていません。その代わり、修士号を取ろうとしながらカネがないのでデパートの広告販促部で契約社員をするけど、仕掛けた集客イベントが大成功をおさめ、望んでないのに評価されちゃい、一方、教員免許試験での不正がバレて夢だった教職の道は閉ざされ、さあ、大学院に残って仕方なく欲しくもない博士号を目指すか?なりたくもないデパートの正社員として就職するか?どっち?というお話。金子修介監督の『就職戦線異状なし』の70年代版みたいな物語です。

飯森

その点を除いてはほとんど同じ原作版と映画版。原作の方が、いつの世にも通じる、学生にとって普遍性の高いテーマを扱っているのですが、逆に特殊性の高い1970年学園紛争の風景と空気をフィルムに記録した映画版の方は、当時の革命の時代を密封したタイムカプセルとなっている点で、今日ではより作品的価値が高いとワタクシは思います。特に、騒乱と不安の2019年においては!映画版の監督リチャード・ラッシュは「良いけれども薄いストーリーなので、それだけだと足りないから、こんにちの大学を舞台にベトナム反戦運動に身を投じる学生たちの物語にしてもいいのであれば、この原作の映画化の話を引き合うけよう」とスタジオ側に条件を出したのだそうです。

リチャード・ラッシュ監督の別の映画『フリービーとビーン/大乱戦 』も、町山智浩さんの推薦作として今ウチでは放送中なのですが、これはまぁ、とんでもないありえないバイオレンスが連続してコメディチックで描いているアクション・コメディですけれど、それは、ベトナム戦争への風刺なのだそうです。そういう反体制的な視点を持っている監督みたいです。詳しくはウチの町山解説 をご覧ください。

余談ながらこの『フリービーとビーン/大乱戦』、ふきカエでもやろうとワタクシ奮闘し、素材がある!との情報が判明したところでタイムオーバー!という痛恨の裏話を、この場に念のため書き残しておきます。素材はあるらしい!中身は確かめてない。

あと、ベトナム戦争ってのはこの時代の映画を見る上では必須教養で、それへの反戦運動と、あと黒人の人権要求である「公民権運動」という2つの潮流が合流して激流となり、60年代末の社会を飲み込んで、革命の時代へと突入していったのですが、そこらへんの話、特にベトナム戦争については、ワタクシ、恥ずかしながら別のところで音声コンテンツで語っております。『いちご白書』編81分、『…you…』編38分です。こちらもご用とお急ぎでない方はぜひ!

さて映画『…you…』の話に戻りますが、この作品は、ふきカエもワタクシの生涯五指に入る大傑作でした!他には『JFK』日曜洋画版のケヴィン・コスナー津嘉山正種、『チャイナ・シンドローム』ジャック・レモン中村正などで、熱演系にワタクシ弱いのですが、この『…you…』のエリオット・グールド石田太郎も、完全にそっち系統。「俳優の生の演技を味わいたいから原語で字幕派」と言っている人たちにこそ見せつけたい、圧巻の声の演技が聞けます!

エリオット・グールドは元学生運動の闘士ということで、大学総長から、学生団体と学校当局との仲介役を頼まれ、めんどくせえなぁ…と思いながらも渋々引き受けます。映画の舞台となる大学も学園紛争で大モメにモメていてガスマスクの警官隊や州兵が出動するほどの騒擾状態。総長は大学改革について評議会で話し合い、そこで出た結論を学生への提案書にまとめ、戻って来ます。エリオット・グールドはその提案書を預かって、学生代表と話し合わねばならない。そのシーンを以下、テキストで再現しましょう。我が生涯五指に入る最高峰ふきカエ、エリオット・グールド(以下「EG」と略記)石田太郎 vs 総長・前沢迪雄の、鬼気迫る演技タイマンを!昭和53年11月12日フジテレビ『夜のロードショー(?)』版、井場洋子さんの翻訳で、どうぞ!

飯森


総長「(喜色満面で)ついに反逆者が勝ったよ!評議会ではうるさ型の年寄り連中が激しく攻撃した。私は一戦を交える気でいたが、何と驚いたことに、連中が折れたんだ!」

EG「おぉ、良かったですね総長!たいへん結構でした」

総長「それ相応の知性を持った男に、自分も18の時があったことを認めさせようとして、4時間も汗みどろで弁舌を振るったことがあるかね?」

EG「ええ、覚えがあります。10年ぐらい前、親父が相手でした(笑)」

総長「それでどっちが勝ったんだ?」

EG「僕ですよ、まだタバコを吸ってますから(とタバコをくわえる)」

総長「(同じくタバコを取り出し)お互いにもう手遅れだが、子供には吸わせんなよ」

EG「ええ。わかってます、そりゃもう」

総長「さてと、本論に入ろう。上手くいけばまた退屈な教育の仕事に戻れる。まず最初。寮の男女立ち入り制限時間について。来学期からはこの大学でも、いよいよウィークデイの門限を丸1時間繰り下げることにするよ」

EG「(口あんぐり)…たったの1時間!?」

総長「第2に、当大学に黒人問題研究学科を設けることは、現状では、財政的にもその他の理由からも、到底実現が不可能である。しかしながら、近い将来『黒人史』の週間講座を開設できる見通しはついている。第3に、少数民族学生に対する学力水準の切り下げ※。これについては来学期から、黒人学生5人とメキシコ系学生5人に奨学金を半額給与することにした。こいつは大変な闘いだった!しかしこの10人の中から優秀な運動選手を選べると指摘してやったら、ハッハッハ、うるさ型連中もあっさりこの案を飲んでくれた。勝てるとは思わなかったんだが」
※アファーマティブ・アクションのこと

(頭がクラクラしてくるエリオット・グールド。ここ、目まいを表現するため画面が歪んで魚眼レンズ撮影に)

総長「君はどう思うかね?」

EG「…どうかしてる」

総長「何?」

EG「あんたは××が(放送禁止用語らしい)どうかしてる!」

総長「なにを言う!××は確かかね君は!?」

EG「そんな答えは時代遅れだ、20年は遅れてますよ!」

総長「まさか!これは筋も通ってるし非常に寛大な反対提案だ!学生にとってこれ以上の答えは無い!」

EG「…ルイ16世の宮廷にいるラファイエット※みたいな気がしてきましたよ。
※ラファイエット侯とはアメリカ革命とフランス革命の両方で革命側に立ち戦った、人呼んで“両大陸の英雄”。フランス人権宣言も書いた、自由民主主義の父

農民たちがヴェルサイユ宮殿を焼き払い、バスチーユを襲い、フランスの王政を倒そうとしてる時に、こう言うのとおんなじだ、『宮廷での仮装舞踏会に、お前たちのうち特に50人を招待してやるから、あと100年みんな静かにしてろ』って。それを僕に言わせようとしてるんですよ!? そんな答えでみんなを鎮めようとしても手遅れだ!かえって火に油を注ぐようなものですよ!? バンデンバーグ総長!連中はきっとこの大学を焼き払う!あんたのやり方じゃあ彼らを本格的な革命に駆り立てるだけなんだ!!!!」

総長「(提案書を机に叩きつけて)しかし、この大学をすんなり一握りの学生どもに渡せると思うかね!? 年にわずか数百ドルの授業料しか払ってない奴らだ!そんな連中に、知事4人、上院議員を3人、大統領を1人出したこの大学を、運営する資格があると思うかね!!!!」

EG「バンデンバーグ総長っ!!!!!!」

総長「ハリーっっっ!!!! 私は進歩的な人間だ!進歩的で理解力もあり、いざとなればインチキ正義の初心者どもに率いられた、心得違いの暴徒の脅しにビクつかないだけの勇気も持っているつもりだ!(と窓の外を指差しながら。外では黒人を中心とした反体制学生たちが警官隊と揉み合いになっている) 連中ときたら、つまらん空想に取り憑かれて…」

EG「(総長の発言をさえぎり)手遅れだ!!!!!!」

かぶって2人同時に(これ字幕では表現不能) 総長「いずれ私に感謝する時が来る!!!!!」vs EG「頼むやめてくれえ!!!!!」

EG「お願いだから話を聞いてくれ頼む!!!!!!!!あんたは海軍司令官だったし、今では博士だ!歴史学で博士号を取ってる!なのにどうして何一つ学ばなかった!? みんな書いてある!トインビー※やら本棚のあの本の中に全部書いてある!抑圧が暴力を生むってね!門限を延長するといっても、たったの1時間!?」
※トインビーは歴史家。文明間の衝突という史観から歴史を論じた。ハンチントン『文明の衝突』の原点となる視座

総長「彼らを野放しにできるもんかっ!評議員の中で5人がこの大学に娘をよこしてる。彼らにどう言えばいい!? キンゼー報告※を読めか!?」
※米国民はお堅いプロテスタントかと思いきや実は意外と陰でSEXしまくっている、という事実を統計学的エビデンスで暴いたキンゼー博士による研究報告

EG「何をそんなに恐がってんです!大学大学って言うけど、ここは世界の中ではほんの豆粒みたいなもんだ!生き残るためには変革が必要です!学生に考えさせたくなきゃあ、図書館の閲覧カードを与えるべきじゃなかったんだよ!!!! しかしもう手遅れだ!」

総長「私はあいつらにこの大学を渡す気はない!」

EG「彼らは大学なんて欲しがってない、未来を決めるのに発言権を求めてるだけだ!」

総長「それならまず法に従うように言え!」

EG「その法が正しいかどうかをまず彼らに聞いてください!」

総長「法が正しいかどうか人が勝手に決めることを許されていると言うのか!? それじゃ無政府状態だ!我が国は法と秩序の上に築かれた」

EG「とんッッッでもないっ!!!!!!!!!!!!! この国は、混沌とした無秩序の中から生まれて、自由と人々の意志のもとに作られたんだ!」

総長「人々は導いてやる必要がある!今日彼らが欲しがっている物を与えたら明日は何を欲しがると思う?」

EG「知りませんよ!!!!!!!!!!!! 週40時間労働制か?あるいは婦人参政権か?どっちだって良い事でしょそれは?任せるんですよ、任せるんだ!時計の針を今さら戻そうとするのはやめることですよ。でないと腕をもぎ取られちまうんですよ!?」

総長「(長い沈黙、後、提案書を強引に手渡し、グッタリ疲れたように、しかしカラ元気を振り絞って)頼むよハリー、彼らに渡してくれ(肩をポンポンと叩く)。それを渡して、様子を見よう。行ってくれ(と作り笑顔でわざとらしいガッツポーズ)」

EG「(深い溜息、部屋を出て行こうとする)」

総長「(その背中に向けて)ハリー。ワシらは道理の解らん人間ではないし、君が思うほど古臭くもない。この大学は塔に喩えられるかも知れんが、象牙でできてはいない。君の言ったように過激思想を持った一握りの学生が、自分たちの手で世界を救おうとするのは、トインビーを読むまでもなくこれが初めてではない。彼らの悩みは理解できるし、分かち合える。さあ、行って、彼らに渡してくれ」

(このシーン終わり)

…えー、「こ、こ、これはヤバい!これは見ねば!」と思った方、そうなんです!その通りなんです!見ねばならんのです、それも今!今年のうちに!! さて、ここからどうなるか!? タランティーノが絶賛し、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』にも影響を与えた『…you…』、ワタクシは全力で、お薦めします!

やべえ!大幅な文字数オーバーで昭和51年木曜洋画劇場『いちご白書』富山敬版に全く言及できなかった!いつものパターンで、続きは、ザ・シネマのブログ にて!