- 2021.2.1
- コラム・キングダム
- 吉田Dのオススメふきカエル
『21世紀のミュージカル映画はどこへ行く?』
コロナ禍のもとで迎えた初の正月興行。『鬼滅の刃』の大ヒットで何とか持ちこたえてはいるものの、毎年劇場を賑わせているはずのハリウッド大作映画は軒並み公開延期。『ワンダーウーマン 1984』が孤軍奮闘するも、映画街に活気を取り戻すには至りませんでした。しかしながらその『ワンダーウーマン 1984』が先鞭をつけたのが、“新作映画をネット配信と同時に劇場でも公開する”という方法。時短営業ながらも興行を続けている日本の映画館にとっては一筋の光明とも言えましょう。今回ご紹介するのもその形で公開/配信されたこの作品。
『ザ・プロム』
監督:ライアン・マーフィー
出演:メリル・ストリープ ジェームズ・コーデン
Netflixにて配信中
→ 公式サイト
ブロードウェイの元人気ミュージカル俳優ディーディーとバリーは、起死回生で挑んだ新作の舞台が不評で打ち切りとなってしまう。そんな二人のもとに万年脇役女優のアンジーが持ち込んだのは、インディアナ州の田舎町で女子高生エマとアリッサの女性カップルがプロムに参加することを禁止され悲嘆に暮れているというニュース。彼女たちを救けて自分たちのイメージを挽回しようと思いついたディーディー一行は勇躍インディアナへと乗り込んでいくのだが…
ブロードウェイでヒットしたミュージカルを今回映画化したのは、あの『glee/グリー』を手掛けたライアン・マーフィー監督。となれば田舎町のハイスクールを舞台にした人物描写はお手のもの、イマドキの若者たちとアタマの固いPTAというお馴染みの構図に都会から落ち目の俳優たちが乗り込んで、楽しいダンスナンバーが繰り広げられます。とは言えそこは今の時代を反映して設定がちょっと(というかずいぶん)ツイストされているのですが、そこは追々お話ししましょう。
まず主演はメリル・ストリープ。もうね、最近は毎度「はい!今からアタクシがお芝居をいたしますわよー!」てな感じで堂々と出てくるのでやや辟易すること無きにしも非ずなんですが、今回はその存在感を逆手にとったセルフパロディみたいな役どころ。落ち目の大スター役を楽しそうに演じています。『マンマ・ミーア!』から10数年を経て、すっかりミュージカルが板についてきましたが、暗い顔をした役でアカデミー賞を取るのもさすがに飽きたでしょうから(オスカー像も3つ持ってればもういいでしょう)これからはバンバン楽しい映画に出ていただきたい。そして吹替え版で声を演じるのはこちらも名女優の高島雅羅さん。風格がありながら時々とんでもなく可愛いというキャラはまさにピッタリでありまして、大先輩に失礼ですがホント可愛いんですよ雅羅さん。
そのメリルとコンビを組んでいるのがご存知“歌って踊れるデブ”ことジェームズ・コーデン(キャラ的にはネイサン・レインの跡目を継いだ感じ?)今回も芸達者なところを見せてくれます。それにしてもこの人、毎度あれだけ体を動かしてたら嫌でも痩せちゃうんじゃないかと思うんですがちゃんとあの体型を維持してるのはすごい。やっぱり半端なく食べるんでしょうか…とくれば吹替えはこの人しかいません、安定の(←文字通り)かぬか光明さん。誰ですか体格声優なんて言ってるのは(私です)でも以前ご本人に「たまには痩せてる役やりたくない?」と聞いたら明るい笑顔で「いや、いいです!」とキッパリ仰ってたので。やはり適役。
その二人だけでも最強なのに、そのまた隣になんとニコール・キッドマンを持ってきちゃうという豪華絢爛。日高屋で五目炒飯とタンメンに中華丼まで付けちゃう、みたいな。例えがアレですが。でもこの華やかな大スターがメリルと並ぶと、その華やかなまんまでちゃんと脇に収まるというのがまたすごい。『シカゴ』の舞台で20年以上アンサンブルをやってるという設定で、歌うナンバーが『ALL THAT JAZZ』ならぬ『ZAZZ』とくれば当然ダンスもボブ・フォッシー調、ニコールのスタイルのよさが光ります。加えて吹替えがこちらも麗しい田中敦子さんですから上記のメニューに油淋鶏も追加されてこれぞ満漢全席(違う?)
このスターたちに相対するのが若者側の主役であるカップルですが、この2人が同性愛の女性同士というあたりが前段で申し上げた設定のツイストなんですね。さらにスター側のジェームズ・コーデンもゲイという設定で、憎まれ役となるPTAの保守的なママにミシェル・ファイファーでもキャサリン・ゼタ=ジョーンズでもなく黒人女優ケリー・ワシントンを配するというバランス感覚。やっぱり時代は変わっていくのだなあ、と改めて感じます。
LGBT、BLM、ダイバーシティ等々。映画が社会を映す鏡であるならば、そうした新しい価値観は今後も物語の中に取り入れられていくことでしょう。ミュージカルという一見オールドスタイルなジャンルであっても、それは同じこと。歌とダンスの躍動感をそのままに次々と新しい挑戦を続けてくれることを、一人のファンとして楽しみにしたいと思います。
オール・ザット・ジャズ [Blu-ray]
(画像はAmazonより)
ニコール・キッドマンのエピソードの元ネタにして、ミュージカル・ファンならずとも必見の名作