吉田Pのオススメふきカエル

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『戦う女 シャーリーズ・セロン』

まだまだ続くコロナ禍。当初は「まあ夏頃には収まるんじゃね?」ぐらいに思われていたのがそうは問屋が卸してくれず、全米の映画館はクローズしたまま7月も終わってしまいました。サマー・シーズンと言えば洋の東西を問わず映画業界にとっては稼ぎ時。本邦を含め(欧米に比べれば)被害の少ないアジア圏では映画館も営業を再開しましたが、感染防止のため座席数は半分に減らされ、その半分すら滅多に埋まらない状態が続いています。入場時にあのスマホみたいなので検温されるのももうお馴染みですが、体温が表示される瞬間はいまだにちょっとドキドキしますな。

そんな状態で新作を封切っても集客は望めませんから、洋画も邦画も所謂“夏の超大作”は軒並み公開延期となりました。本当なら今頃は『007/ノータイム・トゥ・ダイ』と『ブラック・ウィドウ』の余韻に浸りつつ観に行った『ワンダーウーマン1984』の冒頭に『TENETテネット』の予告編がついていて、「ぐおぉぉぉ早く観たいぃぃぃ」と身悶えしていた筈なのですが…現実はどの映画館も旧作の再上映で凌いでいる状態。7月に一番ヒットした映画が『もののけ』『ナウシカ』『千と千尋』のリバイバルって。いやまあそりゃ私も行きましたよ、行きましたけど(やっぱり劇場の大音響で聴くクシャナ殿下の「焼き払え!」は素晴らしい)それらと並んで上映されているのが(数少ない洋画の新作とはいえ)『ランボー/ラスト・ブラッド』ですから。『もののけ』と『ランボー』て。今はホントに二十一世紀か?(いや今回の『ランボー』は傑作でしたけど)

川下である映画館がこんな状態ですから、川の上流であるハリウッドの製作現場も青息吐息。もはや劇場での公開は無理と見切りをつけ、配信のみでリリースされる作品が増えてきました。ベストセラー小説をディズニーが映画化した『アルテミスの身代金』や、トム・ハンクス主演の潜水艦映画“GRAYHOUND”等々。結構な予算をかけた以上、映画館の再開を待つよりも確実に観客(というか視聴者)の見込める配信でリリースしたほうが得策、ということですね。結果として、配信オンリーの作品にも劇場用映画と遜色ないビッグ・バジェットの大作が増えています。『アイリッシュマン』あたりから始まったこの流れは当分止まらないでしょう。今月はそういった作品の中から是非吹替え版で観ていただきたい一本を御紹介します。
 

『オールド・ガード』
吉田Pのオススメふきカエル

監督:ジーナ・プリンス=バイスウッド
出演:シャーリーズ・セロン キウェテル・イジョフォー
NETFLIXにて配信中

 

何世紀にも渡り、歴史の影で暗躍し、誰にも知られることなく人類を守り続けてきた秘密の特殊部隊〈オールド・ガード〉。そのメンバーは“永遠の命”を持つ不死身の傭兵たちであり、彼らを率いるのは兵士アンディ。ある日、彼女らの不死の能力が何者かによって暴かれ、恐るべき陰謀のためにその能力を複製しようと企む強大な謎の組織から狙われることに。手段を選ばない組織の脅威に立ち向かう部隊と人類の運命はアンディらに託されていく。
  

戦う女、シャーリーズ・セロン。いつ頃から戦ってるかというと、SFアニメの主人公を実写で演じた『イーオン・フラックス』(2005)あたりからですかね。この時すでにアカデミー賞女優(2003年に『モンスター』で主演女優賞)だった彼女が黒のジャンプスーツで華麗なアクションを見せてくれたのには驚きました。オスカー女優ともなればもう少し作品選ばない?とも思うのですが、そういえば世間には『チョコレート』でオスカーを取った2年後に『キャットウーマン』で“ゴールデン・ラズベリー賞最低主演女優賞”に輝いちゃったハル・ベリーという方もいらっしゃいました。どちらも女優の鑑と言えましょう。

閑話休題。シャーリーズはその後も『プロメテウス』でエイリアンたちをなぎ倒し、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でヒャッハー暴走軍団を蹴散らかし、『ワイルド・スピード ICE BRAK』で屈強なマッチョたちと互角に渡り合い、昨年の『スキャンダル』でセクハラ親父を血祭りにあげ…最後のはちょっとアレですけど、まあそんな感じでとにかく戦ってきたわけです。

そんな“戦闘美女”が今回演じるのはなんと、永遠の命を持つ不死身の兵士。「ただでさえ強いのに“絶対死なない”なんて属性までついちゃったらそりゃいくら何でもズルいんでないの」と思いきや、そこはちゃんとお話が出来ていて、最後まで手に汗握る展開が続きます。でまあ毎度のことですが、戦う女シャーリーズの華麗なアクションが凄いのですわ。御本人は「もう歳だし(現在44歳)いい加減キツいわ」なんて仰ってるそうですがなになに、まだまだイケますって。内海桂子師匠だって97歳にしてまだ舞台でかっぽれ踊ってらっしゃるんですから。

そんなシャーリーズの吹替え担当と言えばこの方、本田貴子さん。前述の『プロメテウス』(ザ・シネマ版)や『マッドマックスFR』を始め、もちろん今回の『オールド・ガード』でも不死身の兵士の声を凛として演じてらっしゃいます。やはり“戦うシャーリーズ”だった『アトミック・ブロンド』(2017)では不肖私が吹替え版の演出を仰せつかったのですが、当時プロデューサーからは「主役は絶対に本田さんで!」と厳命を受けておりまして、そんなん言われなくてもそうしますがな。

その時のアフレコ現場で御本人は「私なんだかいつも戦ってるんですよねー」なんて笑ってらっしゃいましたが、考えてみたらシャーリーズ以外に『X-MEN』のハル・ベリーも『バイオハザード』のミラ・ジョヴォヴィッチも『ミリオンダラー・ベイビー』のヒラリー・スワンクもぜーんぶ本田さんなのでした。もう戦いっぱなし(かく申す私は去年の『死霊のえじき』でも本田さんにゾンビ相手に戦ってもらいました。まー強かったですこの時も)

もちろん本作『オールド・ガード』も、シャーリーズの雄姿に本田貴子さんの声が加わればまさに一騎当千、ナメてかかっちゃいけません。ステイホームだからって寝っ転がって観ようもんなら(精神的に)シバかれますので覚悟して鑑賞しましょう。面白いことは保証します。
 

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シャーリーズのアクションに加えてデヴィッド・ボウイの曲の使い方が何ともズルい、80年代洋楽ファンも必見の一作。