吉田Pのオススメふきカエル

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『We have all the time in the world…』

本当なら今回は4月10日に公開される待望の最新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』を御紹介する予定だったのです。忌まわしいコロナウイルスのせいで公開が延期になってしまうまでは…

この原稿を書いている3月末の時点で欧州は市民生活がほぼシャットダウン、全米のほとんどの劇場が閉鎖され、日本でも部分的にクローズする映画館が増えている状態。そんな中で新作映画を公開できるはずもなく、本作を始め『2分の1の魔法』『ムーラン』『ブラック・ウィドウ』といった大ヒット間違いなしの期待作が、軒並み公開延期となってしまいました。

しかし物は考えよう。今の世の中、自宅でも十分に映画を楽しめる環境が整っています。加えて今回の『ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、主演のダニエル・クレイグがこれを最後にボンド役を降板する、いわば“結びの一番”。どうせ外に出られないなら発売中のUHDで彼の軌跡をたどりつつ、11月に公開される最新作への予習をしておこうという御提案です。
 

『007/カジノ・ロワイヤル』
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暗殺の任務を2度成功させたジェームズ・ボンドは「殺しの許可証」である“00(ダブルオー)”のライセンスを取得。最初の任務で、世界中のテロリストの資金運用をしているル・シッフルの存在を突き止める。高額掛け金のポーカーで資金を稼ごうとするル・シッフルと勝負するため、モンテネグロのカジノに向かうボンド。彼の前に、国家予算である掛け金1,500万ドルの監視役として財務省から送り込まれた美貌の女性ヴェスパー・リンドが現れる…
 

6代目ジェームズ・ボンド、ダニエル・クレイグのお披露目となった記念すべき一作。彼の登板が発表された当初は、ファンの間から「なんかボンドの柄じゃないなー」という声も上がっていましたが、いざ作品が公開されると評価は一転して絶賛の嵐。そこには“ボンドの柄じゃない”イメージを逆手にとって「一介の若手情報部員が007になる物語」、つまり“007/エピソード・ゼロ”が鮮やかに描かれていたのです。冒頭のチェイスシーンに始まり全編に渡って、ギミックを極力排した生身のアクションが展開。これまでのシリーズでついてしまった贅肉をそぎ落とし、ニュー・ボンドのデビューを飾るにふさわしい快作となりました。
 

『007/慰めの報酬』
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初めて愛した女性を失ったボンドは、ヴェスパーを操っていたミスター・ホワイトを尋問し、背後にいる組織の存在を知る。捜査のためにハイチへと跳び、知り合った美女カミーユを通じて、組織の幹部であるグリーンに接近。彼は環境関連会社のCEOを隠れ蓑に、裏ではボリビアの政府転覆と天然資源の支配を目論んでいた。復讐心を胸にグリーンの計画阻止に動くボンドの前に、同じくグリーンを付け狙うカミーユが現れる…
 
 

鮮烈なデビューに続く“クレイグ・ボンド第二弾”は、その『カジノ・ロワイヤル』から直接つながる物語。いきなり前作のラスト直後のシーンから始まるという、一話完結が基本の007シリーズでは前代未聞のオープニングで幕を開けます。そして何より本作のUHDの魅力は、なんと「ソフト版」「キングレコード版」「BSジャパン版」と3つの吹替え版が収録されていること。声優のキャスティングはもちろん台詞ひとつに至るまで、それぞれのプロデューサーやディレクターのこだわりが炸裂しています。みなさん、ホントに007が好きなんですよねぇ。必聴。
 

『007/スカイフォール』
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NATOの諜報部員の情報が記録されているハードドライブが強奪された。トルコのイスタンブールに飛んだボンドは追跡戦の末に敵を追い詰めるが、最後の瞬間に上司のMが下した非情な決断により身体と心に傷を負ってしまう。その後MI6を離脱して隠遁生活を送っていたボンドのもとに届いたのは、何者かによってMI6本部が爆破されたという知らせだった。現場に復帰したボンドの前に、英国情報部の秘められた過去が姿を見せ始める…
 

個人的には現時点で、007シリーズ中の最高傑作と思います。前2作を経て名実ともに“007”となったジェームズ・ボンドの前に現れた新たな敵は、敬愛する上司Mの過去から甦った亡霊ともいえるモンスター。ボンドは自らの合わせ鏡のような強敵を追って、英国情報部の暗い影の中へと踏み込んでいきます。アクション映画の枠を超えた神話的なストーリーと、名撮影監督ロジャー・ディーキンスの陰影に満ちた映像を、アカデミー賞を受賞したアデルの主題歌が包み込む。シリーズ最高峰の呼び声も高い本作はさらに、007史上初めて日本語吹替版が劇場公開された記念すべき一作でもあります。必見。
 

『007/スペクター』
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メキシコでの任務中、悪の組織スペクターの手がかりをつかんだボンド。その頃ロンドンでは新国家保安センターの新しいトップであるマックス・デンビーが、Mが率いるMI6の存在意義を問い始めていた。秘かにマネーペニーやQの協力を得ながら、スペクター解明につながるボンドの旧敵、ホワイトの娘マドレーヌ・スワンを追うボンド。その過程で、追い求めてきた敵と自分自身の恐るべき関係を知ることになる…
 
 

過去のシリーズにおいてジェームズ・ボンドの宿敵であった“対敵情報、テロ、復讐、強要のための特別機関”(の頭文字を取ると“S・P・E・C・T・R・E”になります)を堂々タイトルに持ってきた、クレイグ・ボンドの現時点での最新作。いわば“究極の番外編”であった前作から一転して伝統路線に回帰…と思いきや、宿敵ブロフェルドの正体が明かされるあたりから物語は二転三転、意外な展開を見せてくれます。いやーあの終わり方じゃあ次に期待するなというほうが無理でしょう。そして吹替え版はボンド=藤真秀、ブロフェルド=山路和弘と、もはや盤石の布陣です。

かつては一話完結のアクション映画だった007シリーズは、ダニエル・クレイグの登板を機にスタイルを一新。007としてのジェームズ・ボンド誕生から始まる大河ドラマとなりました。ボンドの内面や周囲との関係を深く掘り下げていく展開に旧作のファンからは「辛気臭い!」との声もありますが、これはクレイグ・ボンドのキャラクターがあってこそ。ロジャー・ムーアでこれはできませんもの(逆もまた真なり、ですが)
その大河ドラマもいよいよ次作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』で完結します。公開延期は残念ですが、逆に考えれば楽しみの時間が増えたということ。『女王陛下の007』でもルイ・アームストロングが♪We have all the time in the world…と歌っていた通り、時間はたっぷりあります。ここはじっくり過去の4作を見返して、11月のフィナーレを待とうではありませんか。

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あと半年の我慢!