ダークボのふきカエ偏愛録

#58 不要不急のコラム

はっきり言って、今回はふきカエの話ではありません。
でも広い意味で、ずっと語り続けている「テレビふきカエ」イズムの一端、ということでお読み頂きたく。

春だというのにお出かけしづらい昨今、幸か不幸か(幸ってことはないな)視聴率が好調なテレ東「午後のロードショー」。
地上波各局から映画番組が姿を消した今、「007」シリーズなど、すっかりメジャー大作がラインアップの中心になりましたが、テレ東の映画と言えば、やっぱ出所不明、パワー満載の劇場未公開映画の不意打ちですよね(むしろこっちの方が視聴率が良かったりする)。
でも俺は、近年の午後ロード発掘映画にはどうも不満がありまして・・・なんで「テレビ放送タイトル」をつけないんだ!?

発掘映画と言っても、大抵はDVD発売や有料テレビでの放送、ネット配信等が先行してますから、その時点で「邦題」はあります。近年の午後ロードは、ほぼこの誰かが付けた邦題のまんま放送するようになってしまいましたが、それじゃつまんないよ!
業界ルールでは、劇場未公開映画の場合、最初に放送する無料テレビ局(NHK含む)が「放送タイトル」を決めていいのですから(逆に劇場公開作品は勝手にタイトルを付けても、新聞のラジオ・テレビ欄では劇場公開時のタイトルに直されてしまいます)。

ダークボのふきカエ偏愛録

事実、自分が入社した頃のテレ東では、誰も知らない外国映画に思わず観たくなるような邦題をつける作業が、映画番組プロデューサーの腕の見せどころでした。俺も「木曜洋画」の見習いになって早々、『女囚暴動/サバイバル・ヒート』(原題:THE NAKED CAGE)とか『テロコマンド・漂流空路』(原題:HOSTAGE FLIGHT)とか、いきなり洗礼を受けまして。
他局だって同じ。「日曜洋画」の『宇宙から来たツタンカーメン』(原題:TIME WALKER)とか『地獄のマッドコップ』(原題:MANIAC COP)とか、素晴らしかったよねー。

こういう「放送タイトル」はテレビふきカエの真髄、即ち映画の「番組化」の精神で作るわけです。
前述の『女囚暴動~』(アメリカ映画です)が高視聴率をゲットしたら、後に全然関係ない(しかも9年前の)イタリア製の女囚ものを『女囚暴動/サバイバルヒート2』(英語題:WOMEN’S PRISON)ってタイトルで放送したもんね。勝手にシリーズにしちゃった。

で、そのタイトルの作りかたは。

コンセプトは、作品の事情や担当者のセンスによって様々です。
例えば、「木曜洋画」の名作群から挙げてみると・・・

ダークボのふきカエ偏愛録

◇ビデオ題『ドク・ソルジャー/白い戦場』(原題:ARTICLE 99)は、『パニック・イン・ホスピタル/緊急病棟・医師たちの戦場』に。
これはまあ、内容をよりわかりやすくしたパターンですね。

◇放送当時、業界で軽くバズったのが『激痛!殺人蜂・戦慄のパニック』(原題:HORNET)。
これほど伝わりやすいタイトルがあるでしょうか。「激痛!」って。

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◇俺が命名した中で手応えがあったのは『プレジデントマン/地獄のステルスコマンド』(ビデオ題『地獄のヒーロー/ザ・プレジデント・マン』、原題:THE PRESIDENT’S MAN)。
ビデオ題・原題とあまり変わりませんが、ナカグロ1つ落とすことで、チャック・ノリス師匠に新たなキャラクター名を献上したつもり。番宣CM(覚えてます?)でのナレーション効果も狙い通りでした。

◇とか言いつつ、俺の命名センスなど至って保守的なもので、大先輩の作品は到底真似できません。『女囚地獄・白い肌への異常な密室』(原題:RED HEAT)や『人類滅亡かUFOか 恐怖・謎の細菌病棟』(原題:FATAL SKY)など、ここまで来るともはや日本語的に理解不能なレベル(でも何か凄い)。

もう少し技術的なことを話しましょうか。

番組上はどんなタイトルをテロップで乗せようと勝手ですが、番組を知ってもらう最大の手段は新聞やテレビ誌の番組表なので(今はEPGやネット検索が台頭してますけど)、まず新聞の「ラ・テ欄映え」を考えて作ります。
ラ・テ欄はあくまで新聞のものですから、編集権は新聞側にあります。なので、局の意図する見た目で番組情報を掲載してもらうためには、ラ・テ欄の何かと厳しいルールに沿わなければなりません。使えない文字や表記もありますし(例えば長澤まさみさんは、ラ・テ欄では「長沢まさみ」です)。

細かいことはともかく、はっきりしているのは「1行10文字」ということ。
10文字の中にはカギカッコなども含まれますから、それを考慮するとこんな感じになります。

「タイムクラッシュ・
超時空カタストロフ」
(1999年アメリカ)

これは俺が命名した中でも特に視聴率が高かった作品ですが(原題:THE TIME SHIFTERS)、実はラ・テ欄の文字数に合わせて作ったタイトルなのでした。
後に、これにあやかって別の作品に似たタイトルを付けましたが、

「ファイヤークラッシ
ュ・灼熱のカタストロ
フ」(2002年米)

ラ・テ欄だとこんな感じになってしまって(原題:SUPERFIRE)、視聴率もイマイチでした。

余談ですが、プライムタイムの番組のラ・テ欄には、番組枠内に「▽」マークの付いた記述がよくありますよね。
あれは「コーナータイトル」と言って、番組中の各コーナーの内容を列記する際に使うのですが、映画番組の場合はちょっと違います。
例えば先日の「金曜ロードSHOW!」で放送された『魔女の宅急便』の場合、声優陣の名前の後に

▽旅立ちの季節に見たい不朽の名作!小さな魔女の自立と成長物語

とありましたが、これ、どう見てもコーナーじゃなくて、本編そのものですよね。
実はこの「コーナータイトル」に映画の内容を載せる手法、「木曜洋画」時代に、俺が始めたんですよ。
試しに出してみたら通っちゃって、そしたらすぐに各局が真似し始めて。

そう言えば近年の地上波テレビは、プライムタイム以上に、深夜映画が減ってしまいましたね。
昔はレギュラー枠もあったし、とりわけ年末年始は、各局とも深夜が映画だらけになったものですが。

「木曜洋画」などプライムタイムの番組の場合は、ラ・テ欄にたっぷりスペースがあって、キャストや「声の出演」など様々な情報が載りますが、深夜だとタイトルを載せるのがやっと。
ただしこれもラ・テ欄のルールで、タイトルは端折らずきちんと載せなければならないことになってます。
そこで、深夜に劇場未公開映画をかける時は、ちょっとしたイタズラを仕掛けました。つまり、わざと長ったらしいタイトルをつけて、スペースを奪っちゃう!

「天才アメフト犬バディ・幸せのタッチダウン」(原題:AIR BUD : GOLDEN RECEIVER)
「暴走ハイウェイ・奇跡のチャイルドシート」(原題:RUNAWAY CAR)

なんてね。
これが「放送タイトル」である以上、前後の番組のタイトルを省略してでも載せなければならないのがルールだから。ご迷惑をかけました。

そんなこんなで、奇想天外なネーミングで魅せるというのも、「洋画劇場」の極意の一つなのであります。ルールは今も変わらないはず。
「午後ロード」チームにもぜひ、サメ映画やマッスル映画に新たな命を吹き込んで頂きたいですな。

ダークボのふきカエ偏愛録

ところで、今もプライムタイムで頑張り続けるBSテレ東「シネマクラッシュ」には、4月8日(水)放送の『M:i:III』から、「洋画劇場」のもうひとつのお楽しみが復活します。
それは、「前解説」! いったい誰が?
・・・オンエアまで内緒です。ある筋の方々は仰天するかも。どうぞお楽しみに。

 

[作品画像はAmazon.co.jpより]
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